第44話 メタルゴーレム
地上に戻り、武器屋に行く。
普段なら、武器を買い替えて再挑戦なんてせず、とっとと迷宮を諦めるのだが、ディートハルト様がいると「撤退します」と言い出しにくい。銅のインゴットは百ギルにしかならないし、もう赤字覚悟である。
リーゼはディートハルト様と同じくウォーハンマーを、マリベルは大きめのアイアンガントレットを買った。俺は後衛なので買わなくても良いのだが、一応、自分で振り回せる中で一番重いフレイルを買っておいた。ティナはパス。
夜は皆で少し高めの店へ。ディートハルト様の奢りだ。
「ディートハルト様は領地の運営にも関わってらっしゃるのですか?」
「苦手だけど、少しずつね」
「では、奥方になられる方は、そちらの方面が得意な方がよろしいでしょうね」
「いや、うちは官僚がしっかりしているからね。領主はそれほど関わらなくても回るんだ」
「でも、社交は大事ですわよね」
ディートハルト様、マリベルのことを悪くは思ってなさそうだ。
良い人そうだし、諦めて結婚しちゃえば良いのに。
俺とリーゼ、ティナは不足しがちな肉を補充した。
◇
翌日も迷宮に潜る。
ディートハルト様も一緒だ。
まずはカッパーゴーレム。
武器を変えたことで有効打が入るようになる。
数回の挑戦で、リーゼも一撃で倒せるようになっていた。マリベルも重いアイアンガントレットに苦労していたが、一人でカッパーゴーレムを倒せるまでになっていた。
俺もフレイルで挑戦してみた。
鉄球を回転させ、遠心力を加えることによって、なんとかダメージを与えることができる。ただ、一撃一撃の間に鉄球を回転させる工程があるため、連撃を与えるのが難しい。長い時間をかけて、なんとか一体を倒すことができた。
「そろそろ次の階層に行こうか。次からはブロンズゴーレムが出るようになるんだ。カッパーゴーレムよりも一段硬くなるよ」
気合を入れるパーティーメンバー。
だが、最初の二回はカッパーゴーレム。
「ここはカッパーとブロンズが半々だからまだ良いんだが、次の層はカッパーが半分、ブロンズとアイアンが四分の一ずつになる」
次のシルバー狙いの層に行ったとしたら、出現確率は八分の一か。渋いな。
そんなことを考えながら歩いていると、カッパーゴーレムよりも薄い色のゴーレムが二体出てきた。金に見えなくもない?
ここも我々に任せるつもりなのだろう。ディートハルト様は一歩引いたポジションだ。マリベルとリーゼが、それぞれ別のブロンズゴーレムへと向かう。
ブロンズゴーレムはカッパーゴーレムよりも素早い。
リーゼのウォーハンマーが避けられる。マリベルの打撃は当たっているが、ダメージは少ない。
ディートハルト様がマリベルの支援に飛び出した。やっぱ、良いところを見せたいよね。俺は後ろで見ていても良かったのだが、せっかくなのでリーゼの方に援護に向かう。
「リーゼ!」
「リュカ君、隙を作って!」
それくらいならできるかな。
フレイルをブロンズゴーレムの足にぶつけてみる。が、びくともしない。やっぱ、遠心力を付けないと駄目かな。
一歩下がると、リーゼのウォーハンマーがブロンズゴーレムを狙う。難なく避けられるが、俺がフレイルの準備をするには十分だ。
ゴィン!
回転を付けたフレイルをブロンズゴーレムの右膝にぶつけると、変な音がした。
少し膝関節が歪んでいるか? 歩き方も若干たどたどしくなった。
リーゼがこんどは真上からウォーハンマーを叩きつける。ブロンズゴーレムはこれを避けようとするが、避けきれず肩に当たる。
「おりゃ!」
俺はフレイルを再びブロンズゴーレムの右膝に叩きつける。すると、ゴーレムが膝をついた。
「チャ~ンス」
リーゼのウォーハンマーはブロンズゴーレムの胸にクリーンヒットした。
ゴーレムが壊れ、小さなブロンズのインゴットが落ちる。
あれ、カッパーのときより小さくない? 半分くらいか?
マリベル達の方は、我々より早く終わったようだ。ディートハルト様がインゴットを拾い、マリベルに渡している。
「そっちも終わったようね」
「バッチリよ!」
そうか? 後衛が前に出てきてる時点でバッチリではない。
「二体までは大丈夫そうだな。このまま進もうか」
ディートハルト様、大丈夫じゃないですって。
「……あの二人、ちょっと雰囲気良くなった感じ?」
ニシシシと笑うリーゼ。
「チーム分けはこのままね」
「ちょっと厳しいよ。ティナにも手伝ってもらおう」
リーゼはティナと相談し、俺とティナでブロンズゴーレムの隙を作り、リーゼが止めを刺す方針となった。
この後、夕方までゴーレム狩りを続けた。
カッパーのインゴットが十四個、ブロンズのインゴットが十二個。ブロンズのインゴットの買取価格は八十ギル。なんと銅の方が高い。
「ブロンズのインゴットは小さいからな」
ブロンズの方が苦労するんだが。
「だから、あの階層は人気がないんだ」
◇
さて、次に進むかどうかが問題だ。夕食を取りながら相談する。
「アイアンゴーレムとは戦ってみたいわ」
これはマリベルさんの意見。
「攻撃力不足だと思う」
「私の魔法は足止めにもならないと思うわ」
「無理する必要はないんじゃない?」
俺を含め、他の三人は反対だ。さすがに三対一だ。マリベルも諦めるだろうと思ったが、そこでディートハルト様が助け舟を出した。
「次の階層ではアイアンゴーレムは一体で出ることが多い。複数体で出たとしても、アイアンはその中の一体だけだ。僕がサポートすれば危険は少ないから、一度くらい試してはどうだろう?」
マリベルに対する露骨なポイント稼ぎかな。
でも、マリベルは嬉しそうだ。
◇
そして翌日。いよいよアイアンゴーレム狩りだ。
第三階層。ここからは中級職の領域と言われている。
今回は初っ端からアイアンゴーレムに出会えた。だが、他のゴーレムもいる。
「私がアイアンゴーレムを抑えている間に、ブロンズとカッパーを頼む」
今回はアイアンとブロンズ、カッパーが一体ずつだ。マリベルとリーゼがブロンズに向かった。ということは、俺とティナがカッパー?
「ティナ!」
「ファイヤーアロー!」
ティナがカッパーゴーレムの顔面にファイヤーアローを当てる。
一瞬動きが止まったその隙に、今度は俺が回転力で強化したフレイルを胸部にぶち込む。
俺的には完璧な一撃だったが、カッパーゴーレムはまだ倒れない。
ゴーレムが俺に向かって腕を振るう。遅い。難なく避ける。だが、こちらも攻撃に移れない。
ゴーレムの攻撃を避けていると、ティナが杖でゴーレムの胸を打つ。少しよろけたゴーレムの胸めがけて、思いっきりフレイルを振る。なんとか倒せた。
マリベル達の方を見ると、ブロンズゴーレムは倒し終わり、アイアンゴーレムと対峙している。
「あたしたちはやること無さそうね」
カッパーゴーレムですら手こずる後衛組では、アイアンゴーレムに立ち向かうことはできない。
「近くで観戦しようか」
マリベルとリーゼが果敢に攻め、ディートハルト様は少し引いた位置でサポートしている。
アイアンゴーレムはカッパーゴーレムよりも一回り大きい。成人男性より少し小さいくらいだ。
だが、その大きさから想像するよりはるかに速い。
アイアンゴーレムのフルスイングがマリベルへと向かう。マリベルはガントレットで受け止めたが、吹っ飛ばされる。すかさずリーゼがウォーハンマーを振るうが、アイアンゴーレムの腕に阻まれる。
ディートハルト様は傍観。
俺とティナも観戦モード。
これ、無理じゃね?
マリベルとリーゼも本来であればスピードはあるのだが、重い装備のためにイマイチ動きにキレがない。我ら後衛組は近づくことすらできない。あんな腕、当たったらイチコロである。
ゴーレムは疲れないから、ダメージが入らない攻撃を続けても無意味である。
そういえば、ブロンズゴーレムのときは貧弱な俺の攻撃でも膝ならダメージが入ってたな。
「二人とも、膝を狙って!」
動きが遅くなれば、なんとかなるんじゃないかな。
リーゼがウォーハンマーで膝を狙うが、躱される。ゴーレムはモノアイだが、くるくる回るので後ろに回っても見られてしまう。
「ティナ、目を狙って!」
ティナのファイヤーアローが頭部を狙う。もちろん、激しく動くモノアイには当たらないが、目くらましにはなる。
俺は膝裏を狙い、フレイルを投げた。
少しバランスを崩すアイアンゴーレム。
必殺、膝カックンである。
その隙を狙い、リーゼのウォーハンマーが膝にクリーンヒット。
少し動きが遅くなったかな。
武器を失った俺はやることがない。
しばらく観戦していると、マリベルによるガントレットの一撃により、アイアンゴーレムは倒れた。
「いや、すごいじゃないか。普通、初級職だけで倒す場合、戦士四人と回復役一人でやるんだ」
アイアンインゴットはカッパーより大きかった。それでも取引価格は一つ三百ギルくらいらしい。
「相場があるからね。実は、今は少し低調なんだ。高いときは八百ギルまで上がることもある」
次からはディートハルト様も戦闘に参加し、アイアンゴーレム四体を追加で倒して、アイゼンフェルト・ダンジョンを後にした。
ちなみに、アイゼンフェルト・ダンジョンを正式名で呼ぶ者はほとんどいない。
通称、鉄の迷宮である。塩の迷宮も正式名があったはずだけど、なんだっけ?




