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第43話 迷宮

もう一泊し、レッサーラビットを狩って少し懐に余裕を持たせてから、アイゼンフェルト子爵領へと向かう。領都アイゼンフェルトまでは乗合馬車で一日。朝に出発して、夕方遅くに着く。


「ずいぶんと立派な領都ね」


マリベルはヴァルクレインと比べて、とは言わなかったが、まあそういうことだろう。実際、アイゼンフェルトはエーベルシュタインと比べても栄えているように見える。そして、宿も高い。


「大部屋で六百八十ギルですか?」


もう四件目だ。外は既に日が暮れている。


「わかりました。とりあえず、二泊でお願いします」


もう歩き疲れたし、空腹も限界である。部屋に荷物を置き、外に食べに出る。


「なんか、高いわりにはイマイチの味ね」


店員に聞こえる声で言わないでください。


「スープも肉はほとんど入ってなくて、芋ばっかりだし」


リーゼさんまで不満そうである。


「その肉も、なんか硬いわね。なんの肉かしら?」


ティナも肉好きだったとは。

肉はフェルゼンベルクからの輸入じゃないかな。


「そんなに文句言うなら、よその店で食いやがれ」


ほら、怒られた。


宿に戻ってからも、女性陣はずっと食事の文句を言っていた。


     ◇


翌朝、とりあえずギルドに向かう。


「迷宮に潜るのに申請書が必要なの?」


「はい、こちらで提出可能です」


受付嬢が申請用紙を渡してくれた。


「この『迷宮の経験』ってとこ、パーティーメンバーの誰かが潜ったことがあれば『有』にしていいの?」


「はい」


マリベルはローゼンフェルトのダンジョンに潜ってるからな。


「パーティー名っていうのは、書かないと駄目なの?」


「はい。パーティー名と所属メンバー名をすべて書いてください」


結局、午前中は申請だけで終わった。

パーティー名は“マリベルズ”に決まった。


他にもっと良い名前、無かったのか?


     ◇


「なんでよ!」


「このアイゼンフェルト・ダンジョンは領の経済に大きな影響を持ちます。Dランクパーティーだからといって、必ずしも許可が出るとは限りません。それに、“マリベルズ”は当ダンジョンに適しているようには思えません」


「なんでそんなこと、わかるのよ?」


「メンバーと装備を見れば、自明です」


マリベルが騒いでいると、貴族っぽい男性に声をかけられた。

なんとなく強そうな男だ。


「もしかして、マリベル・フォン・ヴァルクレイン嬢ではないか?」


「げ」


振り向くなり、マリベルは失礼な声を出した。


     ◇


「しばらく塩のダンジョンにでも潜っているといい」


と言い残し、彼――ディートハルト・フォン・アイゼンフェルトは去っていった。アイゼンフェルト家の長男であり、ルドルフがマリベルと結婚させようとしている相手である、とのこと。


「マリベルが貴族様だったとはね~」


「リュカもよ」


リーゼは知っていたらしい。


「は?」


そんな目でこっち見んな。


塩のダンジョンに入る許可はすぐに出た。

このダンジョンからは、名前の通り塩が取れる。だが、ヴァルクレインで岩塩が取れるので塩の価格はそう高くなく、あまり人気のないダンジョンである。出没する魔物もゴブリンやマッドドッグなどの低レベルのものが多く、レベルアップにも不向きという不遇ダンジョンだ。


「ファイヤーボール!」


ティナが前方のゴブリン集団を焼き払う。

避ける余地が少ないダンジョンではティナ無双である。


「許可が出るとしても、ディートハルト様と一緒なんでしょ?」


「そうみたいね。それに、借りを作ったことになるわけだし」


「それより、明日の晩は領主様の屋敷に呼ばれているのよ。着るものある?」


「私は行かないわよ。絶対無理」


前衛組はおしゃべりである。


     ◇


夕方、俺とマリベルは服飾店に行き、服の注文である。

もちろん、今から完全オーダーメイドで明日の夜まで、というのは無理なので、質の良い中古のものを仕立て直すことになる。


「こんなのでどうかな?」


「いいと思うよ」


ちなみに、俺は「いいと思うよ」を四連発中である。

他になんて返せばいいんだ?


     ◇


翌日も朝から塩の迷宮。

今日はマリベルがゴブリン相手に憂さ晴らししていた。


あと、初めてスライムを見かけた。襲ってくることもなく、素材を落とすわけでもないので無視したが、倒そうとすると、それはそれでやっかいらしい。


夕方、服を受け取り、宿で着替えたら貴族子女のできあがりである。


「ヴァルクレイン子爵家が次女、マリベル・フォン・ヴァルクレインと申します。本日はこのようなご縁をいただき、誠に光栄に存じます」


「リュカ・フォン・ヴァルクレインと申します。本日はお目通りの機会を賜り、感謝申し上げます」


リーゼとティナはお留守番だ。


「ルイトガー・フォン・アイゼンフェルトだ。なに、そんなに格式張ることはない。そなたらの父とは戦場で戦った仲だ」


受け答えはマリベルの役だ。

俺は後ろで気配を殺していればいい。隠密スキルの本領発揮である。


「……で、こやつ、ヘレナ嬢を迷宮に連れ出してな。当然、翌日にはふられておったわ。がはははは」


ディートハルト様、貴族令嬢とのデートでどこに行ったら良いかわからず、魔物の出る森に行ったり、迷宮に連れて行ったりして振られ、行き遅れているようだ。


これはあれか?

オタクが初デートでノーマルな子を秋葉原やコミケに連れて行ってしまった、というやつか。


「初デートが迷宮なんて、素敵ですわね?」


は?


食事は肉たっぷりだった。


「明日の昼頃には入ダンジョン許可が出ると思う。明後日の朝、迷宮の入り口で会おう」


うむ、デートの約束である。

俺たちも行って良いのだろうか?


     ◇


翌日は普通に塩ダンジョンに潜り、その次の日、ディートハルトさんは金属鎧とウォーハンマーを装備して迷宮前で待っていた。


「これが入ダンジョン許可証だ」


パーティーリーダーはマリベルのままで、メンバーにディートハルトさんが追加されている。パーティー名もマリベルズのままか。ここは変えてもらって良かったんだが。


「今日はそのままの装備で潜ってもらおう。そうしたら、ギルドの受付が言っていた意味がわかるはずだ」


さて、ダンジョンデートの始まりである。


「ここが第一層だ」


階段を降りて最初の層である。下りの階段はそのまま続いているので、下り階段を見つけなければ次の層に行けないという制約はないようだ。


「ここにはカッパーゴーレムしか出ない。まずは君たちだけで戦ってみるといい」


とディートハルト様は後ろに下がった。


しばらく歩くと、二体のゴーレムが現れる。

いかにも銅な色で、高さは子供の背丈くらい。


前衛組が飛び出し、マリベルが拳を叩き込み、リーゼが剣を振るう。

リーゼの剣はカッパーゴーレムの表面をわずかに傷つけたが、マリベルの攻撃を受けた方は無傷だ。


「下がって!」


ティナが叫ぶと、ファイヤーアローが飛んでいく。

命中!


だが、カッパーゴーレムにはほとんどダメージがない。

マリベルの追撃も入るが、こちらもノーダメージ。リーゼの方も有効打を与えられずに苦戦している。


「ゴーレムを相手にするときは、こうするんだ」


ディートハルト様が前に出ると、ウォーハンマーを振るった。


ドン!


ディートハルト様の一撃はカッパーゴーレムの胸に直撃し、その一発だけでカッパーゴーレムは倒れた。もう一体も一撃で倒す。


「ゴーレムはコアが胸にある。胸に強い衝撃を加えるんだ」


カッパーゴーレムは銅のインゴットを落とした。

インゴットといっても、手のひらサイズだ。


「ゴーレム戦では戦士メインのパーティーで、打撃武器を使うのが定石なんだ。だから、君たちの今の装備では苦しい。地上に戻って武器を新調しようか」


残ったゴーレムのかけらなどは放置すれば迷宮に吸収されるし、迷宮外に持ち出しても消えてしまう。

ご都合主義的な設定すぎるし、このような設定を味わうたびに、この世界がゲームの世界に思えてしまう。


ゲームなら空腹設定や武器破損などの要素はいらなそうだが、前世での実ゲームでも、これらの要素を取り入れているものはあった。俺はRPGやFPSでこのような設定はあまり好きではなかったが、SLGならあっても良いな。兵糧が足りないと兵が減ったり、戦闘のたびに武器が減ったり。


まあ、ゲームの中であったとしても、どうすることもできない。

知ってるゲームならバグ技を試せるのに。


逃げるを八回繰り返してから攻撃してみようか。


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