第38話 頑張り屋のミリア
放課後はミリアと採取だ。
ただし、ギルドの依頼ではなく、上級ポーションの素材集めである。
ミリアは採取の手際が良い。
俺が護衛、ミリアが採取という形でやっていこう。
「ミリア、わかる?」
「わかります。あっちに三匹」
「正解。マッドドッグだよ。基本的には僕が倒す。投石は、僕と相対していないやつを狙って」
ミリアは気配察知を習得しつつある。
ジャイアントスクイラルで練習したんだそうだ。肉をテオにあげることで、いろいろ手伝ってもらっているらしい。
飛び出すマッドドッグ。
刃こぼれすることがあるから頭蓋骨は叩きたくないんだが、三方向から飛び込んでくると、横から頸動脈というのが難しい。
投石で一匹を牽制し、中央のやつの頭にショートソードを叩き込む。
もう一匹にはミリアの投石が命中。
中央のやつの頸椎を蹴り折り、ミリアの投石が当たった方のマッドドッグへショートソードを振るう。
こうしないと、そいつが投石したミリアへ向かってしまう。
もう一匹が俺に飛びかかってこようとしているのは気配察知でわかるが、とりあえず今のを仕留めてしまおう。腹を切り裂き、後ろを振り向く。
ミリアが投石で牽制してくれたらしく、後ろから襲われることはなかった。
一対一なら余裕である。もう一匹も始末する。
「リュカ君は、やっぱりすごいわね」
「ミリアの投石アシストがあったからだよ」
一人で三匹は厳しかったと思う。
まあ、だからこそミリアを連れてきたんだけど。
幸い、歯こぼれはしていなかった。
ミリアに採取してもらい、俺は警戒する。
「あたし、ソロでやっていく自信はないかも」
「テオは? 冒険者になるって言ってるよ」
ミリアは何も言わず、微笑んだ。
◇
「巫女は祈祷師に近い職ですね。あまり強くはなれません。ただ、祈祷師と違って、巫女になれば巫女の館に入ることができます。巫女の館とは、巫女を集めた施設です。巫女の館に入ると三食が保証されますし、住むところも与えられます。さらに、巫女の館を出たあとに年金までもらえます」
三食保証でアンジェの目が光った。
「ただ、あまりおすすめはしません。巫女の館にいる間は、誰とも会えません。他の巫女とすら会わないのです。食事も全く同じで、同じものをずっと食べ続けます。これは、巫女の予知に影響を与えないためです。巫女の予知は“夢”として現れます。他の人と話したり、食べるものが変わると、夢の内容が変わります。だから、毎日同じ生活を送ってもらうことになります」
それはきつい。
「巫女の館を出たあとにもらえる年金額は、入っていた期間が長いほど多くなります。でも、気が触れずに三年を超えて入っていられる人は少ないようですよ。一年間、巫女の館で生活すれば五万ギルの年金が毎年もらえます。三年入れば、年に十五万ギルになります」
年に十五万ギルあれば生活はできるな。
「中でやることは、毎日夢を報告するだけ。一年くらいなら良いかもしれませんね」
「一年間入って、出たあと、また入り直すことはできますか?」
アンジェの質問だ。
前のめりだな。
「可能です。そういう巫女も多いですよ」
巫女の館は国営で、百人ほどの巫女から得た夢を解析し、複数の巫女から同じ予知を得た場合に予言として扱い、対策するそうだ。
巫女が何を予知するかはさまざまだが、大きな災害はだいたいわかるらしい。
時期や場所などは「花が咲いていた」とか「雪が降っていた」などの情報から探るらしいが、これが難しい。
ヴァルクレイン領が巻き込まれたスタンピードも、予知は出ていたが場所の特定に失敗したとか。
今は「ものすごく美味しい菓子が出る」という予知が出ているらしい。
しょうもない予知だが、そんな予知でも菓子開発がブームになるなどの影響は出るらしい。
◇
「います、あの茂みに二匹」
「一匹は僕がやるね。次の一匹を焦らず仕留めて」
ミリアの気配察知はかなり精度が上がった。
飛び出してきた一角ウサギの首を刎ね、もう一匹を後ろにそらす。
ミリアは左腕に装備したバックラーで一角ウサギの攻撃を受け、動きが止まったところへ腹にナイフを突き入れる。
「うん、もう大丈夫だね」
ミリアは大きく深呼吸している。
「リュカ君は、天啓の儀が終わったらどうするの?」
考えてなかったな。
ただ、貧民街は出るだろう。
上級ポーションを売って生活するのもいい。普通に働いて、普通に生きる。
でも、それでいいのだろうか?
このゲームのような世界に、転生というイレギュラーな形で放り込まれた存在が、普通に生きるだけ?
この世界で特別な使命が欲しいとは思わない。
魔王討伐させるなら、特別なチートでももらわないと割に合わない。
でも、違和感はある。
俺は何故この世界に転生した? させられた?
「冒険者やりながらポーション作成かな」
とりあえず無難に答えておこう。
「リュカ君ってさ、実はそれほどお金に困ってないでしょ。貧民街で生活する必要ないくらいには。あたしのギルド登録料も、このナイフも、今やってる採取だって」
採取を手伝ってもらっているので、ミリアには小遣いを出している。
「でも、あたしに対して一切下心がない。これが不思議。町で特別に優しくしてくれるおじさんは何人もいるわ。でも、あいつらはねっとりした目であたしを見る」
下心は巫女の天敵なんですよ。
祈祷師になっても消えない巫女の呪い。
「テオが職業を得たら、一緒に冒険者をやるわ」
しばらく沈黙したあと、ミリアは言い切った。
「テオは狩りや採取のこと、何も知らないから教えてあげて」
ミリアはいきなり俺にキスをすると、足元の薬草を採取し始めた。
ディープキスですよ、びっくりした。
何故このタイミングなのか、全くわからなかった。
◇
集めた素材で上級ポーションを作成し、グランベルクへ。
弱い敵は倒し、面倒な敵は避ける方針で、半日程度でグランベルクだ。
今回はギルドから配達依頼も受けているので、配達を済ませ、達成報告のためにギルドへ行く。
すると、クルガンさんから伝言が入っていた。
「家に顔を出してほしい」
冒険者ギルドは伝言の預かりもやっている。
冒険者は拠点を持たない者も多いので、ギルドの重要な機能だ。
クルガンさんの家に行くのは明日でいいかな。
まずは上級ポーションを納品しよう。
上級ポーションを商業ギルドで納品すると、ここにもクルガンさんから伝言が来ていた。内容は同じ。
上級ポーション納品のためにグランベルクに来ていることは言ったし、商業ギルドに伝言を残しておくのは鉄板だろう。
まあ、それは置いといて、ルーカスさんに納品の件を伝えておかなくては。
「リュカ君、ずいぶん早かったね。うちに納品する予定だった上級ポーションを全部使って、鉄腕のクルガンの命を救ったって聞いてたから、次の納品まで二週間はかかると思ってたよ」
噂、どんだけ!?
「クルガンさんの家に寄るように伝えておいてくれって伝言されてるんだ。よろしくね」
怖い。なんか怖いぞ。
ストーカーか?
今日はもう宿に行って、明日ヴァルクレインに帰ってしまおう。
「あら、今日はクルガンさんの家に泊まるって聞いてるよ」
宿屋にまで手配が回っていた。
ワイバーン素材を勝手にもらっていったのを怒ってるのか?
でも逃げるにしても、もう夕方だ。夜の山越えはちょっと怖い。麓の町で宿を探すか。
“マリーの宿屋”を出ると、目の前に熊の獣人がいた。
「なかなか来ないからな。迎えに来た」
「お、お元気そうで、クルガンさん」
「おう、おかげさまでな」
豪快に笑う熊。
そのままクルガンさんの家まで連行された。
◇
「イリーナ、お久しぶり」
「リュカ!」
イリーナが飛びついてきた。
良かった。イリーナには歓迎されているようだ。クルガンさんに殺されそうになったら庇ってね。




