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第37話 ワイバーン肉は旨い

朝。イリーナちゃんとワイバーンのステーキを食べていると、クルガンさんが起きてきた。

ワイバーン肉、むっちゃ旨い。


クルガンさんに飛びつくイリーナ。泣いている。

やっぱり心配だったんだ。


「昨日は世話になったな」


「痛みは?」


「ない。大丈夫そうだ。少しふらつくがな」


腹をさすりながらクルガンさんは言う。

あれだけ血を失えばね。獣人の生命力、恐るべし。


「念のため、今日は安静にしててね。あと、固形物は食べないように」


クルガンさんはワイバーンのステーキをじっと見ながら、


「固形物を食べるな、ってのは?」


「腸が裂けてたんだよ。スープを作っておいたから、それを飲んで」


「それにしても、山の中で諦めかけていたときに、上級ポーションを大量に持った人族に救われるとはな。獣の神に感謝だ」


「そう。商業ギルドに納品しなきゃいけなかったんだよ。とりあえず、これ食べたら帰るね。違約金とかなったら面倒だから」


「お前は命の恩人だ。礼をせねばならん。名は?」


「リュカ。ヴァルクレインに住んでるんだ」


「次はいつ来る?」


さて、帰ってから上級ポーション十二本作成。その前に素材も集めなきゃだし、学校もあるしな。


「一週間後かな」


クルガンさんの貧血は酷そうだ。

立っていられないらしく、しばらく椅子に座っていたが、結局ベッドに戻った。酷い頭痛もするそうだ。貧血性の頭痛って痛いよね。レバーとか食べるといいよ。


「その頭痛は血を失いすぎたから。頭を低くしておけば少しはましなはずだよ」


クルガンさんの抜糸をし、今日一日は固形物を食べないこと、痛みがぶり返したら僧侶に治療してもらうこと、血を失ってるからしばらく依頼は受けないことをイリーナに伝える。


「ちゃんと見張っててね。イリーナの晩ご飯用の肉は置いておくから」


この時間に出ても、ヴァルクレインに着く頃には夜になっているのだ。


     ◇


ギルドでワイバーンに関する情報を収集してから帰路につく。

爪にも毒があって、それも価値があるらしい。


ワイバーンの死骸まで戻り、爪の毒を回収。

十二本の瓶はすべてワイバーンの液性素材となった。


残った肉もできるだけ回収し、ヴァルクレインへ向かう。


ヴァルクレインに着いたのは夜中だった。

その足で、クララさんの工房へ向かう。あの人はまだ起きてるはずだ。酔っぱらってるかもしれないけど。


「おや、リュカ。こんな時間にどうした」


「ワイバーン素材を手に入れたんだ」


十二本の瓶を出す。


「ふむ、ほとんど未処理だな。今夜は徹夜だな」


「よろしくね」


「待て、リュカも手伝え」


えー、眠いんですけど。


徹夜させられた。


     ◇


徹夜明けで学校に行く。

眠い。


気配察知で先生の動きを追い、背を向けたら寝る。こちらに振り返るのを寝ながら感知できるかが試練だな。意外と難しい。


「リュカ、なにやってるの」


アンジェにアホの子を見る目で見られた。

納得いかん。


今日はぐっすり眠りたい。

ギルドでワイバーン肉をいくつか売却し、マリベルの部屋に向かう。


そういえば、ワイバーンの目玉、忘れてきたな。

目玉は乾燥させてはいけないから、薄い塩水に漬けてクルガンさんの家のバケツに放り込んできたんだ。


マリベルの部屋に行くと、誰かがいた。

おや、家主に断りなく男でも連れ込んでるのかな?


リーゼだった。

おやすみ。


     ◇


翌朝起きたら、リーゼはいなかった。


「リーゼ、戦士になったって」


剣や防具を借りに来たらしい。


マリベルは武闘家として順調にレベルを上げている。

がっつり型をやらされてたからね。


マリベルのギルドランクはDになったそうだ。

マリベルは拠点を移すことを考えているとのこと。


ヴァルクレイン領だと、レベル上げの最後の方は西の砦付近になる。

だが、最近はフリーデガルトが頑張って魔物を減らしているぶん、遭遇率が低いのだとか。


「あとは、お金ね。稼げるのはやっぱり王都の迷宮かな。他国に行くのは面倒だし。帝国なら言葉が同じだからいいんだけどね」


外国語を勉強する気は皆無なようである。


マリベルに、売らなかったワイバーン肉の一部をおすそ分けする。


     ◇


今日は直で学校だ。

テオもアンジェも、学校を理由なくサボったりしないことはもう明らかだ。俺が一番サボりそうだったりする。


以前の検証で、火の魔法は何かが燃焼しているわけではなく、過程をすっ飛ばして直接現象が発現しているっぽいことがわかった。


なら、魔法で“火”という現象をすっ飛ばして加熱することもできるはずだ。


火が燃えて暖かくなるのは、燃焼の過程で物質に含まれていたエネルギーの一部が生成物の分子運動、たとえば水分子の運動に変換され、それが空気分子に衝突して温めたり、あるいは電磁波として周囲の分子の運動を加速させたりしているからだと思う。


魔法の火は何も燃やさないし、生成物もない。

光という電磁波で温めている、いわゆる輻射熱の可能性もあるが、なんとなく違う気がする。


とりあえず、魔法の“火”が燃焼でないなら、光を出さない火を魔法で生成したらどうなるか。

そこらへんからイメージして、魔法の発動を練習してみる。


さて、そんなことをしていたら放課後である。


「ちょっと美味しい肉が手に入ったから、また勉強会やろうか?」


「肉か、いいな!」


こいつ、計算はできるんだよな。

何か読み書きの課題を考えないと。


テオには作文、いわゆるエッセイ問題をやらせた。

ミリア、アンジェ、ペリには三桁÷二桁の計算だ。ペリは割り算が一番苦手だ。まあ、頑張ってくれ。


勉強が終わったら肉を焼く。

そう、ワイバーン肉だ。


「なんだこの肉、むっちゃ旨いぞ!」


「ワイバーンの肉だよ。森の先、山を越えたところで死んでたんだ。あ、死にたてで新鮮だから大丈夫」


昨日食べたときより旨い。

熟成されたのか?


「ワイバーン!?」


ミリア、アンジェ、ペリの三人が同時に驚く。

君たち、ずいぶん仲良くなったよね。


「どうしてワイバーンが? ここら辺にはいないはずだけど」


「ワイバーンの横で倒れていた獣人のおっさんが倒したみたいだけど、なんでそんなところにいたのかは聞いてないな。今度、聞いてみるよ」


「なんだよ、獣人のおっさんって?」


クルガンって名乗ってた。

たぶん、熊の獣人だな。


「鉄腕のクルガン」


とペリがつぶやく。


「そういえば、そう名乗ってたな。有名人?」


「獣人の中ではとても有名」


なんか、有名人っぽかった。


     ◇


なぜかペリは俺の部屋で寝た。

しかも、俺にひっつきながら。


さすがにウサギ顔相手に欲情はしないけど。

バニー系だったらやばかったな。


「おはよう」


「ん、おはよ」


とりあえず、火魔法と水魔法の混合でお湯を沸かし、コップに注ぐ。


「ありがと」


保存肉を薄く切り、固焼きパンに載せて差し出すと、もぐもぐと食べている。

以前のヤギの獣人のときも思ったが、草食顔して肉を食べるのを見るのはいつも違和感がある。


ミリアとは放課後、教会前で待ち合わせをして、学校へ向かう。


     ◇


天啓の儀が近いからか、最近は授業で職業の説明がある。

今日は待ちに待った祈祷師の説明だ。


「祈祷師はあまりおすすめしません。もし他の選択肢が表示されたら、そちらを選ぶのが正解です」


がーん。

まあ、知ってたけど。


「ただ、祈祷師が表示されるということは神聖力がそこそこある、ということなので、将来僧侶に転職することを考えるなら悪い選択ではありません。ただし、転職には二十~三十万ギルかかるので、そこはご両親とあらかじめ相談しておくと良いです。僧侶と祈祷師から中級職へ、というのは後衛系では多いパターンなので」


商人の子とかもいるからな。

僧侶になってひたすらポーション作成でも、元は取れるだろう。


「祈祷師は“虫の知らせ”という予知系のスキルがありますが、こちらは使い勝手が悪いそうです。当たる場合も、当たらない場合もあるので、信頼性が低く、あてになりません」


あんまりディスるなよ。

祈祷師しか出なかった子がかわいそうじゃん。


「ただ、祈祷師でもレベルを上げればステータスも上がります。無職よりは良いということを覚えておいてください」


そうそう。

そういえば、“祈祷”と“祈り”の効果は不明らしい。



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