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第35話 ウサギ娘

翌日、先生に呼び出された。


起きたことはちゃんと説明したが、信じてもらえない。

まあ、こちらは貧民街出だしね。


あの生意気君の名前はハンスというらしい。ネヒト商会の息子だとか。


「その訴え、明日には取り下げられると思います。明日また話しましょう」


相手が親の力を頼ってくるなら、こちらも――と言いたいところだが、身分を隠したままというのは、ちょっと面倒だ。


学校帰り、ヴァイス商会に寄ってオスカーさんと面談する。

自分が貧民のふりをして学校に通っていることを正直に話し、どうしたらいいか相談した。


「ああ、ネヒト商会の。知ってます」


「父にも知られたくないし、教会にも身分が知られたくないんですよ」


身分を明かせば一発解決だが、それでは臭い思いをしてまで貧民街で暮らしてる意味がない。


「わかりました。今からネヒト商会に行ってきます」


なんとかしてくれそうだ。


     ◇


翌日、ハンスは学校に来なかった。

そして彼の訴えは取り下げられたらしい。


なんか、疑いの目で見られてる。


「神の思し召しですよ」



教室に戻る。

カーモもいないな。この武器、返そうと思ってたんだが。


あとでヴァイス商会に行って、オスカーさんにお礼しておかないと。


「ねえ、何かあったの?」


「別に。明日からお昼はペリと食べない?」


「ペリ?」


「あのウサギの子」


「いいよ」


「昼に食べると、夜腹が減るんだよな~」


「テオには干し肉をあげるよ。夜はそれを齧ってればいい」


「やったぜ!」


テオ君は簡単である。


     ◇


翌日の昼、一人で昼食を食べようとしているペリのところに行く。


「ペリ、一緒にお昼食べない?」


「いいの?」


「もちろん」


ペリは無口だが、ときどき俺たちの会話に混ざってくる。

貧民ズと食べるのが嫌というわけでもないらしい。


ウサギ顔だからわかりにくいが、笑顔っぽい表情を浮かべることもあるようだ。


     ◇


授業は意外と面白い。


「……勇者の仲間であった獣人のウルファンは、この戦いで自分が精神魔法に無防備なことに気づきました。そこで勇者らと相談し、戦士の職を得たのです。もちろん、戦士になっても魔法防護が上がるわけではありません。でも、ウルファンはもっと先を見ていたのです」


ウルファンは、スピードとパワーを備えた戦士系キャラだ。

敵をバッタバッタとなぎ倒す描写は格好いいのだが、ときどき睡眠魔法で寝てしまったり、幻惑魔法で味方を攻撃してしまったりする。


そうか、戦士に転職したのか。

俺が読んだ物語でも、途中から剣で戦ってたな。


「……こうしてアメリアランドに平和が訪れました」


ちなみに、勇者の職業は不明である。

基本は剣で戦っている描写が多いが、無手で戦うこともあるし、魔法をぶっ放すこともあるし、回復もしたりする。


勇者研究の分野では、勇者がときどき転職している説と、特別なオールマイティ職に就いていた説があるとか。

転職説が有力で、どの順番で転職したかを考える学問まであるらしい。


     ◇


「ペリちゃんは天啓の儀に出ないんだ」


アンジェ、もうペリをちゃん付けで呼ぶくらいには親しくなってるようだ。


「獣人は転職しないの」


ペリは純粋に読み書きと計算を学ぶために学校へ通っている。


他の獣人も同じらしい。


「あれ? ウルファンは?」


「彼は獣の神を裏切った。だから死んじゃう」


たしかにウルファンは魔王戦の前に死んでしまう。

でも、かなり格好いい壮絶な最期だったと思う。


ウルファンは獣人の中で人気が二分されているとのことだ。

裏切り者扱いと、英雄扱い。

ペリは裏切り者派らしい。


ちなみに、ウルファンはクズリの獣人だそうだ。


「獣人は獣人であるだけで強い。もちろん、獣人でも得手不得手はある。力が強いもの、速さに優れるもの、感知に優れるもの。獣人であることは、獣人本来の強さを引き立てる。転職はそれを失わせる」


獣人が持つ獣性を失うと弱くなる、という意見らしい。


     ◇


そんな感じで過ごしていると、ようやくレベル40になった。


【ステータス】

名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン

年齢:10

職業:祈祷師(巫女)

レベル:40

力:23

速さ:59

体力:33

魔法力:465

神聖力:725

闘気力:24

知性:185

スキル:

・祈祷

・虫の知らせ

・老化軽減 0%

・老化軽減 0%

・投擲

・毒耐性(強)

・気配察知

・隠密


天啓の儀に間に合った。

よかった。


毒耐性が強になっていた。


それにしても、戦闘職と比べるとやっぱり弱い。

レオンがレベル28のとき教えてくれたステータスでは、たしか力が54だった。戦士レベル28で、祈祷師レベル40の倍以上である。


非戦闘職は戦闘職には決して勝てない、とかつてフリーデガルトが言っていたことを思い出す。


現在、闘気力は24。

これで戦闘職に転職できるかは、甚だ疑問である。


     ◇


ミリアがGランクになった。


今日は学校が休みなので、ミリアと一緒に採取依頼を受ける。

ミリアは初採取依頼だ。


「ちゃんとアンジェから読み書きと計算、習ってる?」


「もちろん。ただ、アンジェ自身が計算苦手みたいで、わからないところを聞いてもアンジェもわからないってことがあって」


アンジェに教師役はちょっと無理だったか。


「気配を感じる練習はどうかな?」


「そっちも頑張ってるけど、さっぱりね」


今日は依頼が多い薬草の採取だ。

薬草の採取さえできれば、貧民街で生活するくらいの稼ぎにはなるだろう。


「ほら、これが薬草だ」


地面に生えている薬草を指さす。


「でも、これをしゃがんで採取に集中しちゃうと――」


と言いつつ、石を投げる。

すると、飛び出す一角ウサギ。


「こいつに刺されるってわけ」


一角ウサギはフックで吹っ飛ばす。

だが、着地すると素早く茂みに隠れる。


全力の祈祷師フック、効かず。


仕方ないからナイフを抜く。

ミリアは驚いて口に手を当てている。


「ミリア、わかる?」


わからなそうだ。


「一角ウサギが飛び出すときに音が出る。まずは、その音から方向がわかるように頑張って」


飛び出してきた一角ウサギの首をナイフで切る。

さらにもう一匹。

こいつらはテオの昼飯だな。


「もういないみたいだ。いる、いないがわかるだけでも安心感が違うからね。さあ、薬草を採っちゃおうか」


「はい」


薬草の採り方を教え、ミリアにやらせる。

手際は悪くない。


「じゃあ、帰ろうか」


ギルドに戻り、薬草を納品して任務完了である。

依頼料は全額ミリアのものにしてあげた。


     ◇


「ミリアは、ナイフで魔物と戦ったことは?」


「ないわ」


「一角ウサギの気配がわかっても、勝てないとね」


「それで刺せばいいの?」


「今度、練習してみようか」


保存肉の作り方はアンジェに教えてある。

アンジェに一角ウサギの肉を渡し、角は洗っておく。


     ◇


今日はミリアと森に来ていた。

キノコの採取依頼だ。


実は、俺はキノコの見分けが苦手で、ときどき間違える。

ギルドの納品所ではじかれるからいいんだが、籠いっぱいのキノコが全部毒キノコだったときは脱力した。


さて、ミリアはどうだろうか?


ミリアには、森に入る前に石を集めてもらった。


「集中して。ジャイアントスクイラルは体が大きいから見つけやすいし、動きもそんなに速くない。五感を全部使うんだ」


ミリアはじっと森を見つめると、


「……そこ?」

と小声で言ってきた。


「正解。体に当ててもダメージは少ないから、頭を狙って」


ヒュッ!


ミリアの投石が命中し、ジャイアントスクイラルが地面に落ちる。


これはもう投擲スキル、生えてるでしょ。


「やった!」


笑顔で喜ぶミリアの姿はかわいい。

捌き方を教えてあげる。


「そのナイフさ、クルトの腹に刺さってたやつなんだ。ミリアにあげるよ」


少しきょとんとした顔をしていたが、喜んでくれているみたいだ。


「悪くないナイフだよ。あとで手入れの仕方を教えてあげる」


「ありがとう」


     ◇


採ってきたキノコを納品する。

三分の二が毒キノコだった。


「依頼の分には足りてるが、もう少し見分けがつくようにしておけよな」


納品カウンターで言われる。どうやらミリアもキノコの見分けは無理っぽい。


「その毒キノコってさ、どれくらいの毒なの?」


十本ほど抜き出して、


「これらは猛毒だな。あとのは腹を壊したり、幻覚を見たり、その程度だ。ああ、熱も出るな」


猛毒以外はもらって帰った。


毒耐性(強)があるなら、食べられるかもしれない。


予想以上に美味しかった。

前世でもベニテングダケ、実は美味しくて長野県民は食べてるって話もあるしな。



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