第34話 学校生活
このまま直で学校に行ってもいいのだが、テオが心配だ。
まあ、三日目からサボったりはしないだろうけど。
「よし、行くか!」
ちゃんと準備できていた。
意外と真面目である。
行く前にミリアのところへ寄る。
「午後の鐘くらいに教会前に来れるかな?」
「いいわよ」
「お、デートか?」
そうそう。
◇
今日の授業は、なぜか勇者の話だった。
「勇者は死霊の軍団に立ち向かいましたが、スケルトンは倒しても起き上がってきました。そこで聖女は教皇から授かった杖を掲げ、聖なる光を放ち――」
聖女推しだった。
「勇者って、五王会議で選定された勇者ですか?」
「いえ、選定勇者とそのパーティーは、強力な魔物が現れたときに、その対処として古の勇者伝説にあやかり、王たちによって決められる人間側の最強戦力です。伝説の勇者は、遥か昔、魔王を滅ぼすべく神の代理戦力として正義の力を振るった者のことです。勇者伝説は、後の世の人たちが各地に散らばる勇者の逸話を集めたもので、当時の勇者が立ち寄った地域から聞き取りを行い、作成されたものです」
聖書みたいなものか。
で、選定勇者は伝説の勇者とは別物、と。
◇
「ミリア、お待たせ」
「今日はどこに行くの?」
「もちろん、デート」
テオとアンジェと別れ、ミリアと冒険者ギルドへ行く。
「ここは?」
「冒険者ギルド。ミリアにはまず、冒険者になってもらおうと思って」
「お金、ないわよ」
「貸しておくよ」
というわけで、冒険者になってもらった。
ランクはHである。
「僕が学校に行ってる間、ギルドで雑用を引き受けてランクを上げておいて。Gランクになったら、一緒に採取に行こう」
「わかったわ」
◇
学校がない日はミリアと冒険者ギルドに行く。
ミリアはHランクのお手伝い系依頼。俺は香草などの採取依頼である。
俺はEランクだから討伐も受けられるのだが、後衛系がソロで討伐依頼はやはり危険だ。
採取のたびに少し多めに取り、自分でも使ってみる。
おかげで食生活の質が上がった。
面白いのは、同じ香草やスパイスでも、色や大きさで風味が違うことだ。
南のほうへ行けば、もっと様々なスパイスがあるらしい。行ってみたい。
◇
学校で、俺たち貧民組三人は浮いている。
ボロい服を着た臭い三人に近づく者はあまりいないし、明らかに蔑視されている。
ときどき、「くそドブネズミが」とか言ってくる生徒もいる。
だが、テオもアンジェも成績はいい。
しかも、俺を含めて皆勤賞でもある。
他の子と違って、家の手伝いとかないからね。
もう一つ、蔑視されているグループが獣人である。
ただ、グループといっても、特に仲がいいわけではなさそうだ。
犬の獣人と猿の獣人は強そうで、誰もちょっかいを出さない。
犬の獣人に話しかけたら「臭ぇぞ」と言われたので、俺もそれ以来近づいていない。
最近は三日に一回は水浴びしてるんだけどな。
そして、三人目の獣人。
ウサギの獣人が疎外されている。
この学校、男子は男子、女子は女子で集まる傾向があり、このウサギの獣人は女子だ。
ここで、かわいいバニーちゃんを想像してはいけない。
この子、顔はそのまんまウサギなのである。
不思議の国の本に出てくる、あのタイプだ。
グランベルクで見た獣人とはずいぶん違う。
口の形状が違うせいか、しゃべるのも苦手らしい。
しかも、いつも猫背なので、大きな獣みたいに見えてしまう。
昼時も一人で食べていて、寂しそうである。
……まあ、俺ら貧民組は、食べるものがなくてひもじそうなんだが。
◇
そんなある日、帰るウサギ娘を学校の男子数人が追っているのが目に入った。
嫌な予感がする。
――“虫の知らせ”か?
予知系のスキルが働いたのなら、無視しない方がいいだろう。
俺はそいつらの後をつける。
町はずれに差しかかったところで、男子たちがウサギ娘を囲んで、やいやい言い始めた。
ウサギ娘はまだ歩いているし、ここまでは普通のいじめかな、と思っていると、その中の一人がウサギ娘を押し倒した。
「その服の下も獣なんじゃねーか。見せてみろよ」
いきなり服を引っ張り始めた。
――これはアウトでしょ。
俺は駆け出す。
ちょっと距離を取りすぎたかな。間に合うといいんだが。
「おい、やめろ!」
ウサギ娘の服はびりびりに引き裂かれている。
俺たち貧民の服もそうだが、紫外線で劣化していて破れやすいんだよな。
下半身は大丈夫。
上は、腕で隠して見えていないからセーフとしよう。
「なんだ、スラムのドブネズミか。ネズミどうし仲良しか?」
ウサギもネズミも同じ齧歯類です。
よく知ってたね。
「リスも仲間だぞ。とにかく、もうやめておけ」
変なことを考えていたら、変なことを言ってしまった。
「うるせぇ!」
取り巻き1が殴りかかってくる。
とりあえず、ビンタだな。
取り巻き2も来たので、こっちもビンタ。
「くそ、やっちまえ!」
ビンタでは駄目だった。
怪我はさせたくないんだよな。
とりあえず、鳩尾にやくざキックを入れてみた。
そいつは腹を押さえてうずくまる。
これは良いな。
二人目にもやくざキック。
偉そうにしていたガキの後ろから、ひときわ大きい子が前に出てきた。
「頼んだぞ、カーモ」
何かが気配察知に引っかかる。
何かはわからないが、とりあえず場所はずらそう。
横に飛びのいた瞬間、今まで立っていた場所を木の棒が下から通り過ぎた。
なんだこれ。
ヌンチャク……ではないな。棒に紐がついたものか。
今度はその棒が上から降ってくる。
再び飛びのきざま、石を二個拾う。
こいつ、ちょっと強いな。
でも、わかってしまえば怖くない。
あの武器は軌道が変則的で、死角から飛んでくるのが脅威だ。だが、気配察知の範囲内なら対応できそうだ。
また下から来た、と思った瞬間、木の棒が引かれてカーモの手の中に戻る。
そして今度は一直線に投げてくる。
体をひねって躱すと、風の魔法で地面の葉を相手の顔へぶつける。
同時に投石。
よし、目に命中。
相手がうろたえている隙を突いて、もう一方の目にも石を投げる。
倒れた相手の腹を思い切り踏みつけて終了。
さて、ラストはこの偉そうなクソガキだ。
「い、いいのか? 俺の父ちゃんは領主とも付き合いがあるんだぞ」
ギルベルトと付き合いがあるんだ。
「知るか」
とりあえず、ビンタ。
「な!」
もう一回ビンタ。
さらにビンタ。
「もう、その子に手を出すな」
「は、はぃ~」
手下1と2とともに逃げ出していった。
……カーモ忘れてるぞ。
◇
「ねぇ、大丈夫?」
ウサギ娘はビクッとした。
どうしよう。
とりあえず、カーモの上着をはぎ取る。うめいていたので、念のためこめかみに蹴りを入れておく。
「とりあえず、これを羽織ったら」
カーモの上着を渡す。
縮こまって胸を隠していたウサギ娘だが、上着は素直に羽織ってくれた。
乳首が六つあったりはしなかった。
「僕、リュカっていうんだ」
「……ペリ」
「家まで送るよ」
ペリはゆっくり立ち上がる。
「あっち?」
コクン、と頷く。
しばらく歩くと、
「さっきはありがとう」
「どういたしまして。怪我はなかった?」
「うん」
会話は全然はずまない。
そのうち、ペリの家に着いたようだ。
「じゃあ、また明日」
「うん」
帰るときには、カーモは消えていた。
彼の武器は取り上げてある。
この武器はネギと名付けよう。




