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第33話 庶民学校入学

昨日、塩抜きして干した肉を燻製し、またアンジェの家に吊るす。


「テオ、約束していた飯だけど、アンジェに預けてある。学校が終わったら一日分をもらうようにして」


「え? 学校に行くとリュカから飯がもらえるの?」


テオと住んでいたのは骨付き肉君だった。

今回だけだよ?


肉だけってわけにもいかないし、もう少し買い物するか。

せっかくだから、ミリアを誘ってみる。


「なんでアンジェとテオ君を助けてるの?」


この子、なんか鋭いんだよな。

建前を言うと見抜かれて好感度が下がりそうである。


「まあ、僕にも事情があってね。アンジェは賢そうだったし」


「へえ。じゃあ、あたしは?」


「ミリアは綺麗だよね」


「あたしも娼館に入りたくはないんだけどね」


アンジェから何か聞いているのかもしれない。


娼館に入った女は、性病などで三十歳前後には亡くなる。

娼館から路上へ堕ち、路上で変な男に引っかかる。

その前に客に見受けしてもらえればラッキーな人生らしい。


助けてあげたい気持ちはある。

でも、全娼婦を助ける力はないし、その気もない。


「何か、冒険者になれるような特技はないの?」


冒険者はこの世界のセーフティネットだ。

誰でもなれるし、職がなくても頑張れば生きていける。


「前にリュカ君が見せてくれた投石、まだ練習してるのよ」


ミリアは石を拾い、投げる。

路地から出てきたネズミを見事に仕留めた。


どうやら彼女は努力家らしい。


「採取、やってみる? 僕もいろんな香草系の勉強をしたいと思ってたんだ。そのついでに薬草の見分け方も教えられると思う。だから、体を売る決断は一年先延ばしにして」


「リュカ君、やさしいのね」


男は美女に弱いのですよ。


「投石の練習は続けてね。あと、いつも周りに何がいるかに気を配る習慣をつけるのがいいかも。後ろに誰が立ってるとか、家の外に誰かがいるとか。あとは、そう、ネズミとかね」


貧民街にはネズミが結構いる。

こんなので気配察知を習得できるかわからないけど、やらないよりはいいだろう。


     ◇


店で固く焼いたパンを買う。

ついでに、お菓子を売っている屋台へ。


ここはクッキーや飴を売っている。高くはないが、貧民街の子供が気軽に買える値段でもない。そもそも貧民街の子供はあまり金を持っていない。


「買ってあげるよ」


ミリアは少し驚いた顔でこちらを見たあと、少し迷う。


「アンジェとテリアにも買っていい?」


誰だ、テリア。

ああ、もう一人いた女の子か。


「いいよ。でも、僕が少しお金を持っていることは内緒ね」


固焼きパンはアンジェの家に置かせてもらった。


     ◇


さて、いよいよ入学である。


三人で学校へ向かう。

学生証を見せ、教室に入る。


ちゃんと出席を取るようだ。リストと照合している。


生徒は全部で六十人ほどだろうか。意外と多い。

貧民っぽいのは俺たちくらいかな。

身なりがいいのは商人の子か。獣人もちらほらいる。


「では、始めます。みんな、よく学校に来てくれました。学校では読み書きと、それから簡単な計算を教えます。これらは今後、あなたたちにとってとても大事な力になります。一年間ですが、しっかりやっていきましょう」


校長先生の話は、やっぱり短くないとね。


「授業は週に四日あります。四分の三以上出席しないと天啓の儀には出られないので気をつけてください。四分の三の意味については後ほどの授業で教えますが、週に三日は出ないと駄目ということですね。二週間で二日休めるわけです。三週間全部出れば、次の週は出なくても大丈夫になりますね」


この先生、説明下手だな。


でも、分数がわかっていない人に「四分の三以上出席」を説明するのは、たしかに難しいかもしれない。


まあ、ここで俺が学ぶことはあまりないと思うんだが。


「……神は魔物の脅威に怯える人類を憐れみ、職業を授けました」


あれ?

読み書きそろばんは?


「……神は人の内に秘められた力を……」


まあ、教会だし、仕方ないよね。


     ◇


授業は午後三時前に終わった。

ほとんどの人は昼食を持ってきていた。持ってきていないのは貧民組くらいだ。


「腹減ったな~」


テオ、学校初日の感想はそれだけですか?


「戻ったら肉とパンね。楽しみにしてて」


アンジェ、お母さんみたいですよ。


貧民街に戻ると、少し注目を浴びた。

貧民街から学校に通う住民は俺たちが最初だから、物珍しいのだろう。


     ◇


翌日から、ちゃんと読み書きの授業が始まった。


テオもアンジェも真面目に聞いている。

最初は文字からだ。


暇だ。

生活魔法の練習でもしてようかな。


一番なんとかしたいのは弾丸魔法だが、土がない。

風はどう改良したらいいのか、皆目見当がつかない。

となると、水か火だ。


火魔法について考える。


「リュカ君、この文字は?」


「Dです」


黒板の文字を読む。

先生はうなずき、先へ進む。


火魔法は、何を燃やしているんだろう?


前世では、燃焼は急激な酸化だった。

可燃物と酸素、そして反応を開始させる熱が必要だった。


では、この世界ではどうなんだろう?

魔法力と酸素を反応させているんだろうか?


「リュカ君、この単語は?」


「わかりません」


目立ちたくないから、正答率六割強を目指している。


さて、この世界の魔法力や神聖力は不思議エネルギーだ。

火魔法は魔法力の酸化ではなくてもいい。実際には、何でもアリだと思う。


授業が終わったら実験してみよう。


「ふぅ~、終わった」


「帰ったら復習しておけよ。アンジェ、帰ったら復習がてら、今日習ったことをミリアに教えておいてくれる?」


「うん、いいよ」


「俺はこのあと、ちょっと行くところがあるから、よろしく」


     ◇


マリベルの部屋で着替え、家に行く。

ちょっと実験したいのだ。


この世界では、透明なコップは高級品である。

メイドに皿と透明なグラスを借り、子供部屋へ向かう。


もう子供はソフィアしかいないし、ソフィアは個室を使っているから、ここには誰もいない。


さて、どうやるんだっけかな。


皿の中央にロウソクを立てる。

いつぞやグランベルクで買ったロウソクだ。

そして皿に水を満たす。


ロウソクに火を点け、グラスをかぶせると、じきに火は消えるはず。

よし、消えた。


で、下の隙間から水が上がってくるはずだが――お、上がってきた。


ここで、なぜタイムラグがあるかというと、ロウソクで中の気体が温められていたり、水蒸気と二酸化炭素が発生していたりするためだ。中の気体が冷え、水蒸気が水に戻り、二酸化炭素が水に吸収されて、ようやく中が負圧になる。


ふむ、だいたい二割。


前世の世界と大気組成は近いのかな?


次は火魔法だ。


今、中の酸素はほぼゼロのはずだから、中で火魔法を発動させても火は起きないはず。


えい!


……あ、発動した。


火魔法を続けていると中の気体が膨張し、水位が下がってくる。

火魔法を止めると、ふむ、前と同じ水位まで戻ってきた。


どうやら、火魔法は酸素を必要としないっぽい。


火が燃えているときに起きる現象――つまり、炎が見え、光が発生し、熱が出る――これを“真似”しているだけに見える。


魔法は過程をすっ飛ばして、現象だけを再現する。

そういうことだろうか?


     ◇


貧民街に戻って寝るかな、と思ったところでソフィア登場。


「リュカ兄、本読んで」


「もちろん、何がいい?」


結局、家で寝ることになった。



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