第31話 貧民街のチンピラ
水刃の練習をしつつ、天井材を集め、夜な夜な壁を土魔法で修理して一週間。
家がようやく家らしくなった。
入口の布はテオたちがくれた。
ジャイアントスクイラルの肉を、もう一匹分あげたからね。
家が完成した翌朝。
少し大きめの子が数人でやってきた。
十三歳前後かな。
職業を持っていてもおかしくない年齢である。
「誰に断ってこの家に住んでるんだ?」
テオ、って答えてテオがいじめられても嫌だな。
「領主様ですが」
あとでギルベルトに許可を取っておくか。
「ふざけんな、ここは俺が住んでる家だ。とっとと出ていけ」
こいつら、家が完成するの待ってたな。
むかつくが、こいつらが学校に通っていて、天啓の儀で戦闘職を得ていたら厄介だ。
祈祷師では勝てない。
「毎日五時間、七日間もかかったんですよ」
「それがどうした」
「毎日五時間で七日間なら、合計何時間だと思います?」
「は? ふざけてんのか? 二十時間くらいか? いいからとっとと出ていけ」
うむ。
学校には通ってなさそうだ。
……いや、算術が壊滅的に駄目なだけという可能性もある。
レオンみたいに。
「いいですよ。でも、本当にこの家に住むんですか? あそこに何て書いてあるか、わかります?」
家の外には、床材候補としてゴミ捨て場から拾ってきた看板がある。
リックの酒場
床が土だと、地味に湿気が上がってくるんだよね。
「ん、なんて書いてあるんだ。何か関係あるのか?」
そいつは看板をじっくり見たあと、そう言ってきた。
はい、学校行ってませんね。
「お兄さんたち、学校通ってないでしょ」
「うるせぇ! とっとと出ていけ!!」
無職確定かな。
貧民街をうろついてるやつが二十万ギル払えるとも思えない。
殴ってきた腕をかいくぐり、すれ違いざまに鳩尾へ膝を入れる。
ふむ、合計四人か。
真正面に躍り出た俺にびっくりしている男の股間へ、思いきり蹴りを入れる。
「うごぉ」
これで残り三人。
最初の一人はまだ膝をついている。今のうちにもう一人減らしておかないと。
とりあえず、パンチかな。
あ、避け始めた。
ステータスの速さが高いおかげで、動きはよく見える。
力はないけど。
このまま避けられると、後ろで棒を拾った四人目に攻撃されて危ないな。
親指を立て、避けつつある三人目の目に突き入れる。
「ぎゃぁ!」
痛いでしょ。
横をすり抜け、棒を振り下ろしている四人目のほうへ押す。
後ろからでも気配察知で動きはバレバレである。
棒を頭に受け、三人目はダウン。
でも、最初のやつが立ち上がった。
四人目も棒を持ち、準備万端である。
ちょっとピンチか?
……あ、一人目がナイフを抜いた。
足元で魔力を練る。
弾丸魔法。
弾が軽く脆いからダメージは与えられないが、目に当たれば目潰しにはなる。
棒を持ったやつの顔を狙って発射。
目には当たらなかったが、少しひるんだ。
そいつの横へ入り、伸び上がりながら肩で一人目の方へ突き上げる。
リーゼに習った技だ。
棒を持ったやつは一人目へぶち当たり、そのまま我が家へ。
崩れる我が家。
金的を食らって倒れていたやつが起き上がってきたので、顔面へサッカーボールキック。
痛たたた。
頭を蹴ると足が痛いんだよね。
さて、棒持ちはどうなった?
ダメージはそれほど大きくないはずだが。
土煙が収まると、棒を持っていたやつの腹にナイフが刺さっていた。
なんという不運。
一人目は血まみれになった自分の手を見て唖然としている。
俺は棒を拾い、とりあえず一人目の顔面を思いきり殴打した。
棒を持っていたやつ。
たぶんこいつがリーダーだ。一番後ろにいたし、なんか偉そうにしていた。体格もいい。
うなっているそいつに近づき、しゃがんで顔を見る。
……うめいてるけど、意識はあるな。
「せっかく人が直した家を奪おうなんて、酷くない?」
あれ。無視された。
ナイフを、ちょっと触ってみる。
「うぐぉー!」
元気だ。
「ねぇ、酷いと思わない?」
「す、すまなかった」
脂汗を流しながら、男が言う。
ごめんで済んだら警察いらないよ。
俺は血まみれのナイフを見せる。
あ、これ、なかなか良いナイフだな。
「柄まで刺さってたよ。これ、このままだと助からないね」
男の顔が絶望に歪む。
「君が死んで、あっちのやつは殺人で処刑。これで、ここも少しは平和になるかな?」
男は何も言わない。
「平和になるかな? って聞いてるんだけど」
傷口を小突く。
「た、助けてください。お願いします。なんでもします」
うめき声を上げながら懇願してくる。
器用やね。
「癒しの手で治してあげる。今後、僕にちょっかい出さないように」
男は、光の中で塞がっていく傷を見て、唖然としていた。
「このナイフはもらっておくね。あ、あと、君の家はどこ?」
こいつの家は、貧民街入口に近い木製の家だった。
床も板張りである。出入口は相変わらず布だけど、以前は扉がついていた形跡がある。
……直せるかな。
「君たちが僕の家を壊しちゃったでしょ。だから、家を交換しよう。今日からこっちが僕の家ね」
良さげな家をゲットした。
わらしべ長者である。
◇
ざわついていた貧民街も、夕方には落ち着いてきた。
「さっきの、凄かったな」
テオがやってきた。
「コツがあるんだよ」
「そのコツってやつ、なんでもありだな」
うん、そう思う。
「今日からこっちに引っ越したから」
「ああ、わかってる」
家を掃除したり、気になるところを修繕したりしていると、さっきのチンピラがやってきた。
「ああ、待ってくれ。別に、あんたと事を起こそうって気はないんだ」
チンピラの名前はクルト。
この貧民街を一応仕切っているらしい。
「ラッツの目を治してやってくんねぇか?」
ラッツ?
「ああ、クルトが棒でぶっ叩いて気絶させてた人ね。酷いよね、思いっきり棒で殴るなんて。見てみるから連れてきて」
クルトがラッツを連れてくる。
目はひどく化膿していた。
まあ、しばらく手を洗ってなかったからね。
「これは、このままだと失明するね」
「お、お願いします」
もったいぶるのも面倒くさい。
癒しの手でささっと治す。
「クルトに割られた額もサービスで治療しといたよ」
「ありがとうごぜいやす、兄貴」
え?
俺、あんたたちの兄貴なんかじゃないけど。
◇
クルトたちが俺を兄貴と呼ぶので、テオも俺を兄貴と呼ぶようになった。
ここに長居するつもりはないから、懐かなくてもいいよ。
さて、そろそろ学校の入学の時期だ。
「テオは何歳?」
「俺は、たぶん十一歳だ」
「他に十歳から十一歳くらいの子、いる?」
「アンジェが十歳だな。呼んでこようか?」
テオはアンジェを連れてきた。
あ、この子は知ってるな。
快活な子だ。将来は美人になるだろう。
「二人とも、僕と一緒に学校に通わないか?」
「学校? いや、そんなつもりはなかったが。学校なんて行ってどうするんだよ?」
「これから先、生きていくうえで、読み書きと計算は大事だよ。それに、卒業のときの天啓の儀で職業を得られるかもしれないし」
「孤児が読み書きできても、雇ってくれるところなんてないぜ。それに、その間どうやって食っていくんだよ?」
「戦闘職に就ければ冒険者になれるよ。このまま貧民街でチンピラになっても仕方ないだろう」
「学校に行けば、リュカみたいに強くなれるのか?」
「努力すればね」
祈祷師でも、無職よりは強いし。
「あたし、学校に行ってみたい」
黙って聞いていたアンジェが、いきなり口を開いた。
「テオだって知ってるでしょ。ここを出た女の子がどうなるかって。お店に入って、知らない男のものを口に入れさせられて、大事なところにも入れられて。で、最後は病気になって。それが変えられるなら」
テオは気まずそうに下を向く。
「残飯あさりのあとでも、学校には十分間に合う。もう一食は僕がなんとかしてあげるよ」
貧民街の子どもたちは、一日一~二食だ。
「わかった。学校に通ってみよう。飯は本当に大丈夫なんだろうな」
翌日、学校に手続きに行くことになった。




