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第29話 パーティー解散

翌朝、早めに起きて二食分の食料を調達する。

今回は乗り合い馬車が出る時間を聞いていたので、待ち時間のロスはない。


馬車の中で朝食を食べ、麓の町まで四十分。

今日は話しかけられることもなく、すぐに森へ入る。


森の中では、できるだけ魔物の気を引かないよう、気配を殺しながら進む。

同時に、魔物の気配も探る。


頂上に着いても、まだ太陽は真上まで来ていない。

前回と同じか、少し早いくらいか? 腹時計で見ても、まだ昼ではない。


そのまま下り、途中で見つけた小さな空き地で昼飯にする。

きれいな小川があるが、こういう水は見た目がきれいでも寄生虫がいることがある。水の生活魔法で喉を潤す。


家に着いたのは夕方だった。

残念、行きと同じだけ時間がかかってしまった。少し急いだんだけどな。


ルーカスさんは、二週間に一回くらいのペースなら全部買い取れると言ってくれた。

二週間後、次は一泊を狙おう。


     ◇


しばらくして、マリベルが西の砦から帰ってきた。

無事、レベル四十になったらしい。フリーデガルト母は、西の砦に入ったままだ。


「弱いのは倒したらいいんじゃない?」


グランベルクまで九時間かかったことを伝えたら、実に現実的な答えが返ってきた。


たしかに、魔物を回避するときは遠回りになる。

次は試してみよう。


無事、マリベルは貯金をはたいて武闘家に転職した。

そしてリーゼは、指南所での指導のおかげで壁を抜けたらしい。


そして、俺は九歳になった。

ステータスはこんな感じである。


【ステータス】

名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン

年齢:9

職業:祈祷師(巫女)

レベル:32

力:19

速さ:50

体力:28

魔法力:384

神聖力:599

闘気力:19

知性:163

スキル:

・祈祷

・虫の知らせ

・老化軽減 0%

・老化軽減 0%

・投擲

・毒耐性(中)

・気配察知

・隠密


隠密を覚えた。

そして、そろそろレベル四十が見えてきた。


ただ、この年齢だと、いつ第二次性徴に入るかわからない。

急がなければ。


エロカスパルは八歳でロッテを襲ってたんだしな。

まあ、幸いまだ無毛だが。


     ◇


三人で久々に討伐依頼を受けてみる。

リーゼは見違えるほど強くなっていた。


正しい型で攻撃が入ると、威力が増大するらしい。

ゴブリンの頭部が破裂していた。


ただし、少しだけ魔力を消費するとのこと。


「魔物と戦いながら型どおりの技を入れるのは難しいんだけどね。それが達人の条件らしいの。あと、魔力消費はほんの少しだけど、もともと私は魔力がほとんどないから気をつけないと」


戦闘中に魔力欠乏で気絶したら助けてね、とリーゼは笑う。


逆に弱くなったのがマリベルだ。

そう、転職によるステータスの減少である。


さらに、フリーデガルト母から無手の修行を受けてきたとはいえ、剣での戦いに慣れすぎている。

無手なら、もしかすると今は俺のほうが強いかもしれない。


そう言ってみたら、普通にボコられた。


だが、いずれにせよパーティーのバランスは悪い。


マリベルは裏の森くらいが適正だが、リーゼは西の砦近辺が適正になりつつある。


話し合った結果、パーティーは解散となった。


実はリーゼ、別のパーティーに誘われていたらしい。

美人だもんね。絶壁だけど。


部屋はそのまま借り続け、部屋代はマリベルと俺で折半。


「レベル1のかわいい戦士の子を探すわ」


頑張って探してください。


それまで、マリベルはソロで、裏の森でレベル上げをするとのこと。

……お金は?


低ランク依頼をソロで受けることで工面するという。


「足りないときは貸して」


うるっとした目で頼まれる。

嫌とは言えない。


結局、部屋代は俺が全額負担となった。


     ◇


俺は、こっそり庶民の学校に通うことにした。


目当ては、卒業時の天啓の儀である。

ちょうど入学式が二か月後にある。それまで、庶民の友達作りに励んでおこう。


庶民はだいたい十一歳で学校に入り、そこで一年間、読み書き計算を習う。


この「だいたい」というのは、誕生日を正確に把握していない子もいるからだ。

たとえば貧民街の子だ。元ハインツ領の戦災孤児なんかも、ヴァルクレイン領には多い。


この層に紛れ込んでしまおう。


学校で読み書き計算を教えるのは、知力が必要な職業があるためだ。


祈祷師や巫女もそうだが、僧侶や魔法使いも、ある程度の知力が必須である。

そこらへんの職が取れるくらいの知力がつくようなカリキュラムになっているらしい。


なお、ここで優秀な成績を収めると、さらに一年間学習の機会が与えられ、王都の学園に推薦される。


この“優秀”は、もちろん学習だけでなく武も見られている。

武に秀でた者は、戦士なら剣術、武闘家なら武術を学ぶ機会が与えられ、騎士学校への進路が開かれる。


さて、市民証は求められる。求められないのは貧民街のものたちだ。

となると、元戦災孤児で貧民街に住んでいた設定がよいだろう。


そうなると、まず貧民街を見ておく必要がある。


できるだけボロい服を購入し、その服を着て労働者街の服屋へ。

この世界、庶民は基本的に古着だ。こうして古着のランクを落としていけば、それっぽい服は手に入るだろう。


     ◇


リアルなボロさを演出するため、手に入れたボロ着のままグランベルク領まで行く。

森を通れば、そこそこ汚れるからな。


上級ポーションを納めるとき、商業ギルドの人には不審な顔をされた。

ルーカスさんには「貧民街見学のため」と言ったら大笑いされ、グランベルクの貧民街がある場所を教えてくれた。


さて、ここがグランベルクの貧民街だ。


道端では子どもが地面に座ってガラクタで遊んでいたり、大人が葉巻をふかしていたりしている。

家は土でできていて、扉はなく、代わりに布が垂れ下がっている。


うーん、入れば絡まれるかと思ったが、特にイベントは発生しない。


「そこの坊っちゃん、貧民街の見学かい?」


おばちゃんが話しかけてきた。


「やっぱり違和感あるかな?」


「歩き方がね、違うんだよ」


もっと姿勢を悪くして、下を向いて歩いたほうがそれっぽいらしい。


仕方ない。このおばちゃんに技術指導を受けるか。


「よそ者が新しく貧民街に入ってくるときは、もうちょっとビビった感じで入ってくるんだ。警戒して、周りをキョロキョロして」


やり直してみる。

もうバレてるんだから、開き直ろう。


「うーん、五十点だね。なんか、顔つきに自信が出てるんだ」


よし、もう一回。


「俺らは同じ年代同士でつるむんだ。だから、お前が最初に声をかけるなら、十歳くらいのやつだな」


「向こうも新入りには、まず上下関係をわからせようとしてくる」


「新入りの実力が高そうなら、ダチってことで取り込もうとするしな」


おばちゃんは、貧民街でも顔が広い方らしい。

おばちゃんの指導を受けていると、周りからもいろいろ人が集まってきて、あれこれ世話を焼いてくれた。


宿に泊まると言うと、貧民街の人間は宿になんか絶対泊まらないという。


ではどうするのかというと、空き家を探してそこに住み着くらしい。

貧民街の家はたいてい土を固めて作ったもので、中は一部屋。屋根は水辺に生えている背の高い草を束ねたものだ。


「そう都合よく空き家なんてあるんだ?」


「なければ弱そうなやつを追い出すんだ」


なるほど。


弱いやつらは複数で同じ家を使い、力の強い者に対抗したり、逆に力の強い者の下について他の強い者を牽制したりするらしい。


ちょうど空き家はあったので、そこに一晩泊まることにした。


床は地面に藁を敷き詰めたもの。

寝心地は悪そうだし、なんか虫もいそうだ。


出入口は密閉されていないし、天井にも隙間がある。

冬は相当寒いだろう。


まあ、寝られないことはない。


     ◇


さて、ヴァルクレインに戻るわけだが、何の礼もしないのも変な話だ。

どんな礼がいいだろう?


現金は、なんか違う気がする。

とりあえず、昨日のおばちゃんを探し出すか。


「あら、もう帰るのかい?」


と言いながら、お茶……お茶っぽいもの?を出してくれる。

沸騰させてあるそうだし、大丈夫だろう。


「ああ、世話になった。次に来るときは何か持って来るとしよう。何がいい?」


「毛布が助かるかねえ」


「わかった。また来る」


貧民街を出て、乗り合い馬車の停留所へ。


そういえば、昨日の晩は何も食べてない。

肉がたっぷり入ったサンドイッチを買って頬張る。


お、これはうまい。


昼食用にもう一つ買い、麓の町まで乗り合い馬車で向かう。


乗るとき、御者にじろじろ見られる。


「金はあるのか?」


十ギルを渡すと、「ふん」と言ったきり、礼すらない。

乗客にも無視される。


……格好が違うと、待遇もずいぶん違うもんだ。


     ◇


山を越えてヴァルクレイン領へ。


そのままマリベルの部屋に直行する。

幸いマリベルはいないようなので、一人で寝る。


ヴァルクレインの貧民街は明日だ。



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