第28話 グランベルク領探索
特級ポーション作りで腕が上がったのか、上級ポーションの成功率が上がった。
ほぼ一〇〇%である。
これなら商売が始められそうだ。
あとはグランベルク領へのルートだが、時短のために裏の森を越えて行きたい。
後衛職のソロで越えるのは厳しそうなので、マリベルに相談してみる。
「そんなの、戦わなければいいのよ」
護衛を頼んだら、普通に断られた。
フリーデガルト母が元ブラウン領に戻るので、それについて行ってレベル四〇まで上げてくるらしい。
二十万ギル、ついに貯まったそうだ。
「戦わないって?」
「あの森は魔物の密度はそれほど高くないわ。魔物に見つからないよう、こっそり越えればいいのよ。魔物がいるからって、毎回戦う必要はないわ」
戦闘狂に「毎回戦うなんて馬鹿?」と言われた気分だ。
いや、マリベルは戦闘狂ではないけど。
「ポーション持って戦ってたら、ポーションも危ないし」
たしかに、こっそり森を越えるのは正解なのかもしれない。
◇
作成した上級ポーション十二本を持ち、森を進む。
一本一本は小さい。オロナ〇ンCくらいのサイズだ。
だが、十二本ともなるとさすがに重い。
一応、気配察知で魔物を探りながら進む。
とはいえ、今の俺の気配察知は半径六メートルの球くらいの範囲しかわからない。
これは、もともとゴブリンとの乱戦の中で取得したスキルだからだ。
できるだけ前方に集中しても、せいぜい七メートル先がわかる程度である。
魔物をやり過ごしながら進むと、やがて上り坂になった。
朝に家を出てから五時間ほどだろうか。
ようやく頂点付近に達する。
それほど高い山ではない。数百メートル級だろう。
開けた場所なら、眼下にヴァルクレインの街やグランベルクの街が見えたのかもしれない。
だが残念ながら、頂上付近も森の中だった。
マルタに作ってもらった弁当を広げ、しばし休憩。
下りは四時間ほどで麓町へ着いた。
ここからグランベルク領都までは、乗り合い馬車で四十分ほどらしい。
「おつかいかい?」
「はい、領都まで」
「偉いねえ」
飴をもらった。
……大阪か?
飴といっても、甘い草の樹液を絞り出し、粘りが出るまで煮詰め、最後に小麦粉と混ぜたものだ。
意外と作るのは大変なんだよな。樹液を煮詰めるときに灰汁をしっかり取って、石灰や炭を入れると苦みが減って美味しくなる。
「ありがとう!」
とりあえず、子どもは笑顔である。
ついでに安い宿の場所も聞いてみる。
「ほとんどの宿は乗り合い馬車の停留所周辺にあるよ。あんまり安すぎるところはやめておきな。いとこがやってるところを紹介しよう」
おばちゃんの紹介で、こぢんまりした宿に入る。
マリーの宿屋。
女将の名前がマリー。うむ、ひねりがない。
「二泊でお願いします」
今回はグランベルク観光も兼ねているので二泊する予定だが、頑張れば一泊でもいけそうではある。
素泊まりで一泊百三十五ギル。
部屋はベッドがあるだけ。ロウソクを置く場所はあるが、ロウソクはない。
何もない部屋でやることもないので、早々に部屋を出て少し周りをうろつく。
もう日が落ち始める時間なので、夕食を買い込み宿へ戻る。
「何か食べるんなら、奥のテーブルを使っていいよ。最後の鐘が鳴るまで明かりはつけてあるから。部屋でロウソクを使うなら一本十ギルさね」
「じゃあ、ロウソク一本ください」
「あいよ。一刻くらい持つよ」
奥のテーブルで夕食を済ませ、自室へ戻る。
ロウソクを点けてみると、やっぱり臭い。
獣脂ベースの安い奴だ。まあ、実際安かったけど。
その昔、エレノア姉に見せてもらった神聖力の生活技――光球。
今では、光量の調整も持続時間も自由自在である。
ロウソクを消し、光を絞った光球の下で、紙に今日歩いた範囲の地図を描く。
夕食を買った店には×印。あまり美味しくなかった。
◇
翌朝。停留所近くで朝食を買い、数分歩いた先の広場へ向かう。
広場では人々が思い思いに時間を過ごしていた。
獣人もちらほら見かける。
うむ。パンは少し固いが、この店は△くらいかな。
グランベルクは、ヴァルクレインより栄えているように見える。
地理的に魔物に直接襲われる危険が少ないからだろう。
その代わり、冒険者っぽい風体の人は少ない。
二度目の鐘が鳴ったので、オスカーさんに教えてもらっていた店へ向かう。
……意外と大きいな。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
「オスカー・ヴァイスさんに紹介してもらったんですが」
そう言って紹介状を手渡す。
店員は怪訝そうな顔で紹介状を読み、「ちょっと待っててね」と奥へ引っ込んだ。
しばらくすると、中年の男が現れる。
「やあ、初めまして。ここの店長をやってるルーカスだ」
「リュカです。よろしくお願いします」
「とりあえず、入ってくれたまえ」
奥の商談スペースへ通される。
「ポーション作成が得意だと紹介状に書いてあったが、今日は何を持ってきてくれたのかな?」
「これです」
上級ポーション十二本を取り出す。
ルーカスさんは一本手に取り、じっと眺めてから「ほぅ」と言った。
「ベラ君を呼んでくれたまえ」
従業員が呼ばれ、上級ポーションを持って退室する。
「今回の取引、額が大きいんでね。商業ギルドを通したほうがいいと思うんだが、どうだろう?」
商業ギルドを通さないと、俺の今回の売り上げに税がかかり、ルーカスさんがそれを売った売上にも税がかかる。
つまり、二重課税である。
商業ギルドを通すと、それが一回で済むらしい。
ただし、俺のところへ金が入るのは、ルーカスさんが誰かにポーションを売ったあとになる。
「君はギルドに“預ける”だけ。ギルドも俺に“預ける”だけ。客は君から直接買ったことになるのさ。もちろん、俺も利益は乗せるし、ギルドも手数料を取る。でも、税を二回払うよりは得になる」
なるほど。
わかったような、わからないような。
でも、得ならいいだろう。
「では、ギルドを通しましょう」
「なら、午後一回目の鐘が鳴ったときにギルドで会おうか」
まだ三時間くらいあるな。
それまで街を観光しよう。
◇
貴重品を持っているので、あまり裏道には入らず、主にメイン通りを歩く。
ヴァルクレインに比べると、店も多いし品揃えも豊富だ。
物価は少し高いかな。
歩いていると、魔道具屋を見つけた。
入ってみると、古代遺跡から発掘された魔道具を売っている店らしい。
「お客様、冷やかしはお断りです」
まあ、薄汚れた八歳児が高級店に来たら、そりゃそういう反応にもなるだろう。
俺は、いかにも貴族の坊っちゃんっぽく偉そうに言いながら、ヴァルクレインの家紋入りメダルを取り出す。
「山向こうから来た、リュカ・フォン・ヴァルクレインだ。このような格好をしているが、お忍びでな」
貴族を騙る詐欺は最悪死罪である。
向こうも完全には信じていないだろうが、嘘と断じることもできないはずだ。
店を回っていると、古代語が彫られたランプのようなものを見つけた。
「戦勝記念、ウルグ二三三年。ふむ、約三八〇〇年前か」
古代語が読めて、古代史も少し知っていないと出てこない台詞である。
「は、はい。こちら、照明の魔道具ですが、稼働状態です」
値段を見る。
二十八万ギル。
うひょ。
「もう少し古いものが好みでな。リル歴からアッバー歴のものはあるか?」
偉そうに喋ることを意識していたが、八歳児としては不自然かもしれない。
少し爺くさい気もする。
まあ、今さら路線変更はできないのだが。
「あいにくと、その時代のものは、稼働状態のものが少なくて」
「ふむ」
いや、本当は冷やかしだから。
なんか申し訳なくなってくる。
奥のほうで、ブレスレットみたいなものを見つけた。
価格は二百四十八万ギル。
「こちらは収納の魔道具となります」
「ほぅ」
え?
収納の魔道具って、国家機密級で、持ち主さえ秘匿されるレベルじゃなかったっけ?
「そろそろ時間でな。良いものを見せてもらった。また来る」
ボロが出る前に、とっとと店を出よう。
◇
商業ギルドでルーカスさんと再会し、窓口へ上級ポーションを出す。
代わりに証文を受け取り、今度はルーカスさんが証文を発行して、ポーションを受け取った。
金銭のやり取りは一切ない。
「私が上級ポーションを売ったあと、その証文をギルドに持ってくれば、お金は振り込まれるよ。次回からは直接、商業ギルドに持ち込んでもらって、証文番号だけ伝えに来てくれればいい」
なるほど。
金の受け取りは、ヴァルクレインの商業ギルドでもいいらしい。
ついでに、収納の魔道具についても聞いておく。
「存在が秘匿されるのは、大容量のものだね。それこそ軍事利用されるような。君が行った店で扱ってたのは、普通の鞄程度の容量しかないんだ。なら、鞄持ちを雇うほうが安いしね」
なるほど。
水も食料も、剣や武器さえも魔道具で運び、兵は手ぶらで移動。
そんなことが可能な大容量収納は、そりゃ秘匿される。
だが、あの店で売っていたような三十~四十リットル程度の容量なら、普通に流通しているらしい。
高いけど。
ルーカスさんと別れる。
日が落ちるまで、まだ少し時間がある。
少し裏通りのほうへ行ってみると、妙に賑やかな一角があった。
派手な店構え。
濃い香り。
きらびやかな衣装の女たち。
店の看板には夜城クリステルとある。
うむ。
危険地帯である。
◇
夕食を買い、部屋に戻る。
お、今回の飯は当たりだ。




