表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/49

第26話 カスパル廃嫡

その夜、ヴァルクレイン家は重苦しい空気に包まれていた。


市場で買い物をしていた少女を、「俺はヴァルクレイン家の嫡男だぞ」と脅し、人通りの少ない裏道へ連れ込み、無理やりいたしてしまった――ということだった。

その後、娘の姿が見えないことに気づいた母親が領兵とともに探し、現場を目撃。カスパルはその場で取り押さえられた。


しかもカスパルはその場でも、


「俺はカスパル・フォン・ヴァルクレイン様だぞ。無礼者」


などと言っていたらしい。


だが、領兵からすれば、ただの強姦男だ。

牢に入れられ、家へ連絡が来た、というわけである。


「なぜ、あんなことをした」


ギルベルト父が低く問う。


「そんなことより、俺を牢に入れた領兵の処罰はどうなってるの? ヴァルクレイン家の嫡男に無礼すぎるでしょ?」


父の圧が、さらに増した。


「もう一度聞く。なぜ、あんなことをした」


「たかが庶民の女、別にいいじゃんか」


次の瞬間、ギルベルト父の動きがほとんど見えなかった。


かろうじて、顔を殴ろうとした拳の軌道を変え、腹へ叩き込んだのだけは見えた。

前は気絶でうやむやになったからな。


「こいつを廃嫡とする。今すぐ、家を出ていけ」


「え……な、なんで?」


腹を押さえながら、カスパルがかろうじて声を絞る。


「ロッテ。かまわないな」


「はい」


ロッテは静かに答えた。


「と、父さん……」


「お前はもう、俺の子ではない。とっとと出ていけ」


とぼとぼと部屋へ戻ろうとするカスパル。

だが、父は冷たく言った。


「そっちは出口ではないぞ。情けで、今着ている服だけはくれてやる」


呆然とするカスパル。


「レオンハルトを次期領主として指名する」


その言葉を最後に、カスパルはとぼとぼと出ていった。


     ◇


「カスパル、どうするんだろう?」


「馬鹿じゃなければ、ローゼンフェルト領へ向かうだろう。あの服を売れば旅費にはなる。向こうで心を入れ替えれば、じいちゃんも手を貸すかもしれん」


まあ、孫は可愛いだろうしな。


その夜、カスパルが使っていた部屋に気配があった。

覗いてみると、ロッテが後片付けをしていた。


「ロッテ、大丈夫?」


「リュカ様」


ロッテは、どこか寂しそうだった。


この二人の関係は、いまいちよくわからない。

憎んでいるようにも見えるし、情があったようにも見える。


「結局、私なんて、カスパルからしたら都合のいい存在でしかなかったんでしょうね」


いきなり呼び捨てだ。

まあ、もう廃嫡されて一般人だし、そこは問題ないのかもしれない。


「肌を重ねていると、最初は嫌でも情は湧いてくるんですよ。カスパルが嫡男になれないだろうことは、わかっていました。でも、真面目にしていれば、小さな町の管理くらいは任されたでしょう。貴族じゃなくなるなら、私をもらってくれるかもしれない――そう思っていました」


ロッテは少し笑った。

だが、その笑い方はかなり危うい。


「でも、アイツは町娘を無理やり、、、。相手が誰でもよかったんでしょうね」


呼び捨てからアイツまで落ちてきました。


「決闘の時、アタシに気を使ってくれてただろ。嬉しかったよ。あの後、あいつになんて言ってあげたか教えてあげようか?”それもすぐに漏らしちゃうのかい”ってね。あはははは」


今度はカスパルの早漏を暴露しました……情緒がかなり不安定っぽい。


すると、ロッテはいきなり脱衣し始めた。


「え、ロッテ、ちょっと」


俺は思わず一歩引いた。


その瞬間、嫌な予感がしてステータスを開く。

今、俺はたしかにいろいろ感じている。だが、ステータスに変化はない。


よし。

少なくとも、巫女だったときほど危うくはないらしい。


「どう?」


ロッテが誘ってくる。正解はなんだ?俺はまだ8歳。女に興味が無いピュア路線で正解なはずだ。


「水を浴びるの?」


ロッテは小さく笑い、距離を詰めた。


……怖い。


ふふ、とロッテは笑い、おれに抱き着いた。すると、ステータスの職業欄、“祈祷師(巫女)”の巫女が急速に青から黄色、そして赤くなる。


“巫女”の文字が薄くなり始めた!これは危険だ。俺はロッテを突き飛ばす。ピュアな男の子だったらなんと言う?


「き、汚いよ!」


心と息子を落ち着かせるため、フリーデガルトの顔を思い出す。間に合った。


ロッテは諦めたように


「まだ早かったわね」


と言うと下着をつけ始めた。


カスパルが廃嫡されたから、何か別の立場を探っているのか。

それとも、ただ感情が不安定なだけなのか。


どちらにせよ、今ここで深入りするのは危険だ。


「ボク、いつもの普通のロッテのほうが好きだよ」


とりあえず、そう言っておく。


ロッテは少し目を伏せたあと、


「ありがとうございます。さあ、もう遅いですよ」


とだけ言った。


いや、お前のせいで遅くなったんだが?


     ◇


翌朝、ロッテはいつも通りだった。

よかった。


昨夜のことを思い返す。


巫女だったときと違い、少し心が揺れた程度ではステータスに変化は出なかった。

つまり、少なくとも条件は少し変わっている。


ただ、油断はできない。

“祈祷師(巫女)”の後ろのそれが、まだ完全に消えていない以上、何かしらの制約は残っているはずだ。


現在、まだ第二次性徴前。

だが、残された時間はそんなに多くない。


巫女の職は多少ステータスに貢献しているのかもしれない。

だが、それほど決定的というほどでもない。


ただ、失うのも違う気がする。


もう一度転職すれば、そういう制約も消えるのか?


……さすがに一生童貞は嫌である。


     ◇


カスパル、無事に夜を越せただろうか――などと考えていたら、連絡が入った。


無銭飲食で捕まったらしい。


早すぎないかい?


しかも今回は、廃嫡されたあとにもかかわらず貴族を名乗ってしまったという。

貴族を騙るのは重罪だ。最低でも鞭打ち二十回と強制労働。最悪なら死刑もありうる。


……まあ、さすがにギルベルト父も死刑にはさせないだろう。


カスパルの刑が鞭打ち二十回+強制労働三年に決まった。廃嫡を言い渡されたが、貴族名簿にはまだ名前が残っていた。貴族の子女は6歳で貴族名簿に名前が載り、その状態では準貴族扱いとなる。ギリギリ「貴族を騙った」にはならなかったらしい。


そんな感じにヴァルクレイン家があれている頃、レオン兄の婚約者がやってきた。


「カタリーナ・フォン・ドラッヘンベルクと申します。以後、お見知りおきを」


武闘派のはずだが、どこぞの類人猿と違って、意外と美女だった。

背は高いが、ゴツくはない。十六歳で戦士レベル12。すでに武闘家も取得済みらしい。


カタリーナはここでしばらく花嫁修業に入るそうだ。


……戦士修業じゃなくて?


王子一行のおかげで西も落ち着いているため、フリーデガルト母とアルドリック兄も領都に戻ってきている。


そういえばアルドリック兄、まだ結婚の話はないのかい?


明日以降は、レオン兄、カタリーナ、アルドリック兄でパーティーを組んで裏の森でレベル上げをするそうだ。


武闘家、戦士、魔法使い。回復役がいないので、自作の中級ポーションを何本か渡しておこう。


     ◇


嫡男が結婚し、夫婦が子を持つまでの間に、他の子は家を出ることが多い。


つまり、俺ももうじき、ということだ。


“子を持つまで”というのは、嫡男が万が一その方面で不能だった場合に備えるためである。

前世のような検査はないので、だいたい三年ほど子が生まれなければ不妊認定らしい。


ただ、理由がどちらにあるかわからないので、その前に第二夫人を取るか、再婚になることもある。


まあ、まだ結婚には至っていないので、三年くらいの猶予はあると思っている。


でも、新婚さんの家に居座るのは気まずい。

だから、マリベルのところへ行くことは今後ますます増えそうだ。


……完全に引っ越すには製薬道具、多いんだよなあ。



同じ作品をTALESにも投稿しています。

小説家になろうでは表現できない描写はTALESの方で書かせていただいてます。

https://tales.note.com/nekomot_mao/w4gz6seh3e04x?ss=wslovu36g4bmzl3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ