第25話 弾丸魔法失敗
翌朝、王子一行は西へ向かっていった。
父も一緒だ。
父はこの王子一行を利用して、西の魔物を間引いておくつもりらしい。
現在のヴァルクレイン家は戦力不足で、防衛も心もとない。良い機会ではある。
帰りは別ルートになるので、こちらには寄らないそうだ。
第3王子派を増やすための顔見せでもあるらしい。
王子一行は、荷物が少なかった。
これには理由がある。
収納の魔道具である。
ファンタジーアイテム、ナンバーワン。
ただし、古代遺跡からしか出土しないうえにかなりレアらしい。大容量のものを持っている者は少ない。王家が数個、大貴族にいくつか、大商人にも、もしかしたら――くらいのものだとか。
なぜ「たぶん」なのかというと、持っていること自体が秘匿されているからである。
何かあったとき、真っ先に狙われるからだ。
ではなぜ俺がそれを知っているかというと、王子が自慢げに見せてくれたからである。
……大丈夫か、あの王子。
ギルベルト父は二週間ほどで戻ってきた。
魔物討伐は成功。まあ、王子は座っていただけだが、「見事な指揮で」魔物の大集落を落としたことになるらしい。
広い範囲で魔物を減らすことに成功したため、フリーデガルト母も少ししたら戻ってくるとのこと。
めでたしである。
「こんなものを褒美としていただいたぞ」
そう言って父が見せてくれたのは、かなり古い時代の魔道具らしい。
魔石を入れ、ボタンを押すと、中央で飛び出している棒が回る。
それだけである。
用途は不明。
王子からもらったものだから捨てられないが、倉に入れておく以外どうしようもない物体らしい。
そりゃそうだ。
回転機構自体は役に立つ。だが、それが一つだけあってもな。出力もわからないし。
「これはリュカにやろう」
王子の相手をしたのは俺だしね。
というわけで、さっそく分解してみる。
ネジらしきものがあったので外す。
ふむ、全然わからない。
モーターみたいなものでもあるかと思ったが、回る棒の先には円盤がついているだけ。
試しにスイッチを入れてみると――今度は回らない。
やば。壊したか?
恐る恐る元に戻してからスイッチを入れると、今度は普通に回った。
壊れてはいないらしい。よかった。
もう一度分解してよく見ると、小さなバネのようなものがある。
ああ、開いていると動かない保護機構か。
その小さなバネを押さえた状態でスイッチを入れると、円盤が回り始めた。
円盤を囲むように均等配置された部品へ、魔力が通っているのがわかる。
モーターと同じ原理なら、この円盤を囲む部品が、円盤側の何かに対して引力か斥力を発生していて、それが高速で切り替わっているのだろう。
では、その部品の中身は何か。
……となると、殻割りしてみないといけない。
だが、それをやると壊れるのは確実だ。
たぶん、この中で一番大事なのは、魔石とスイッチ、そしてスイッチと回路を結んでいるこの紐だろう。
金属ではない。何か繊維のようなものだ。
今日はこのくらいにしておこう。
◇
今日はヴァイス商会に来ていた。
リーゼは指南所。
マリベルは投擲の練習中。
ギルドで依頼を受けるのは週に二、三日で、他の日はみな別々に動いている。
「リュカ君は、上級ポーションは作れるのかい?」
「神聖力を込めるだけなら。薬液のほうは成功率六割くらいかな」
「そうか。ユリウス君にも教えられればと思ったんだが」
ユリウス兄は、ヴァイス商会でポーション作りを担当しているらしい。
下級ポーションはかなり上達したとか。
「知っているかもしれないが、グランベルク領では上級ポーションが不足していてね。リュカ君、やってみないか?」
獣人は自己治癒力が高く、小さな怪我なら勝手に治るらしい。
その代わりかどうかはわからないが、治癒術やポーションの効きが悪いのだとか。上級ポーションなら効くため、需要が強いそうだ。
「やってみるなら、系列の店を紹介するよ」
そう言って、ヴァイス商会系列の店への紹介状を書いてくれた。
上級ポーション作成は、素材も高いし技術も必要だ。
しかも、抽出液の蒸留が必要なので、蒸留器が必須になる。
残念ながら、蒸留器はクララさんからはもらえなかった。
蒸留水も必要なので、何台あっても困らないらしい。
ただ、蒸留器はむちゃくちゃ高い。
構造自体はそこまで複雑でもなさそうなので、自作も考えたが、とりあえず小さめの蒸留器を一台、ヴァイス商会で買っておいた。
意外と金は持っているのである。
マリベルとリーゼは食費がかかるが、俺は基本、家で食べている。
服も買う必要はない。
以前はポーション販売でもそこそこ儲けていた。
ちなみに、ポーション販売は商業ギルド員としての活動なので、利益は商業ギルドに預けてある。
そちらの残高はすでに十五万ギルほど。
冒険者ギルドにも八万ギルほどたまっている。
そう。
マリベルよりも、俺のほうが金持ちなのだ。
実家暮らし、最高である。
ついでに上級ポーションの素材も買って帰る。
今日は家でせっせと上級ポーションでも作っていることにしよう。
◇
スナッチモンキーと戦ってみて、やはり弾丸魔法が欲しくなった。
森の中では、投石にちょうどいい石を見つけるのが難しい。
弾丸魔法の最大の難点は、弾が軽くて脆いことだ。
でも、これは土の中の成分をうまく選り分ければ、重い弾を作れるのではないだろうか?
まずは、土の中に砂鉄が含まれているか。
そして、それを魔法で分離できるかだな。
砂鉄といえば、磁石である。
「磁石ってない?」
父に聞いてみる。
「あるぞ」
そう言って見せてくれたのは、方位磁針だった。
小さい。だが、このサイズでも高価らしい。
「ありがと」
北の方向をしっかり覚える。
弱い磁石なら簡単に作れる。
鉄の棒を南北方向に向け、強く叩くだけだ。
この方法でできる磁石は弱く、しばらくすると磁力も失われる。
だが、鉄を熱し、冷える過程で叩けば、もう少し強い磁石になる。
まず、庭の物置から金属片と金槌を拝借する。
コンラート不在なので、持って行き放題である。
火の生活魔法で熱し、南北を揃えて石の上に置き、数回金槌で叩く。
これで磁石完成。
土を熱して完全に乾かし、砕いて磁石を近づける。
すると、黒い砂が集まってくる。
これを何度も繰り返し、砂鉄ゲットである。
砂鉄も土扱いらしく、土の生活魔法で動かせる。
しばらく工夫した結果、土から魔法で砂鉄だけをより分けることにも成功した。
よし。
これで重い弾を作れる。
――そう思っていた時期が、俺にもありました。
土と違って、砂鉄を弾丸状に形成できないのである。
土から砂鉄を集めて、魔力で弾丸っぽくまとめることはできる。
だが、魔力を抜いた瞬間、さらさらと崩れ落ちる。
もちろん火魔法で熱してみた。
だが、温度が足りないのか固まらない。
火魔法と風魔法を合わせたバーナー魔法なら砂鉄を溶かせる。
だが、それは俺がイメージしていた弾丸魔法とは完全に別物である。
とりあえず、砂鉄は蒸留器の部品づくりに回しておいた。
◇
そろそろレオンの婚約者を招こう、というタイミングで、カスパルがやらかした。
街で庶民の女の子を無理やり、してしまったらしい。




