第24話 王子来訪
マリベルは、やっぱり弓が苦手だった。
いや、苦手そうだとは思っていた。
ただ、スナッチモンキー討伐依頼は割がいい。
この季節は外せない。
マリベルが大きな音を立てながら森へ入っていく。
スナッチモンキーを見つけると、大きく剣を振るう。
当たらない。
さらに跳び上がって樹上のスナッチモンキーを狙う。
これも外れ。
すると、スナッチモンキーたちはマリベルをおちょくり始めた。
これでいい。
俺とリーゼは音を立てないように森へ入り、石を投げる。
リーゼも矢の値段を考えて、対スナッチモンキーでは投石に切り替えていた。
スナッチモンキーたちは糞を投げ始める。
マリベルは器用に避けているが、後ろからの一発を頭に受けた。
大声で罵るマリベル。
この声は、木から落ちるスナッチモンキーの音を消すためでもある。
本当に激怒しているわけではない――と思う。たぶん。
俺たちは静かに数を減らし、最後の一匹も俺の投擲で仕留めた。
「ほんと、頭にきちゃう。レディーの髪をなんだと思ってるのかしら」
「キラキラしてるし、囮としては最高よ!」
今日もリーゼの笑顔がまぶしい。
◇
ゴブリンの討伐依頼も受ける。
今回は上位種、ゴブリンウォリアーとメイジゴブリンがいた。
リーゼがゴブリンウォリアーへ突進する。
俺はメイジゴブリンへ石を投げる。
この距離なら外さない。
一撃で殺すことはできない。
だが、魔法の発動は妨害できる。
ほれ、もう一発。
メイジゴブリンが倒れる。
マリベルは通常種を両断している。
こっちは雑魚相手に無双だ。
マリベルもリーゼも、ゴブリンではもう一切レベルが上がらないらしく、残り三匹まで減らすと観戦モードに入った。
「ほら、攻撃できるときはきちっと入れる!」
「見えてないからって真後ろとは限らないわよ、斜め後ろ!」
「ちゃんと気配を見なさいよ!」
こちとら後衛なんですが。
ただ、ギリギリ三匹までなら対応できるようになってきた。
本当にギリギリだが。
「リュカくん、よろしく~」
リーゼはゴブリンウォリアーの一撃で骨折したらしい。
癒しの手で治す。
「普通、癒しの手じゃ骨折は治らないはずなんだよね~」
治るんだから文句言わないでほしい。
◇
そんな感じでマリベルたちの金稼ぎに付き合っていたら、八歳になっていた。
【ステータス】
名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン
年齢:8
職業:祈祷師(巫女)
レベル:20
力:16
速さ:40
体力:23
魔法力:294
神聖力:459
闘気力:17
知性:139
スキル:
・祈祷
・虫の知らせ
・老化軽減 0%
・老化軽減 0%
・投擲
・毒耐性(中)
・気配察知
ようやく、気配察知を習得した。
なんとなく樹上のスナッチモンキーの存在がわかる。
なんとなく背後のゴブリンの位置がわかる。
ある程度集中は必要だが、便利なスキルだ。
マリベルとリーゼのおかげである。
虫の知らせは、予知とは少し違うらしい。
未来を夢で見るわけではない。
たとえば「今日は嫌なことがあるかも」と感じたら剣が折れるとか、「天気が崩れそう」と思ったら大雨になるとか。
その日から数日以内くらいの、ちょっとしたことがわかることがある。
ただし外れることも多く、あまり当てにもならない。
予知よりは頻度が高いように思えるが、巫女時代は夢の記録を取っていなかったので、正確な比較はできない。
毒耐性は(中)に上がった。
……毒、盛ってませんよね、ロッテさん。
◇
マリベルが買った弓は、結局俺のものになった。
「ちゃんと練習するのよ」
どの口でそれを言う。
ただ、弓は難しい。
競技なら距離は固定だが、現実は違う。
毎回距離は変わるし、水平とも限らない。風も吹く。相手も動く。
しかも、矢も工場の大量生産品ではないので一本ずつ癖がある。
弓での狩りを専門にしている人たちは、作り手指定で矢を買うらしい。特定の鳥の討伐依頼などを受けて、それで稼ぐのだとか。
リーゼのギルドランクはD。
これは、俺やマリベルがフリーデガルト母にしごかれていた間も、一人で依頼を受け続けていたからだ。
リーゼは庶民である。働かなければ食べていけない。
マリベルはE。
俺はF。
パーティーとしてはE扱いになる。
◇
家に顔を出すと、少し騒がしい。
ギルベルト父に聞くと、王国軍が通るらしい。
第三王子の初陣だとかで、西の森に出るのだという。
ルートヴィヒ王子、七歳。
第一王子が失脚し、第二王子が動き出した。
学院入学前に箔をつけるため、南へ遠征し、魔物討伐作戦を成功させてスタンピードを未然に防いだ――という触れ込みらしい。
「スタンピード云々は、まあ、ただの宣伝だろう。そんな兆候はなかったと聞いている」
これを受けて、第3王子派は「我らも」となったらしい。
北は帝国。
東はまだ落ち着かない。
というわけで、西に来たのだとか。
迷惑な。
しばらくマリベルのところに籠もっていようかと思ったが――
「ルートヴィヒ王子はお前と歳が近い。お前が相手をしろ」
えー。
◇
王子がやって来た。
父ギルベルトと挨拶を交わしたあと、
「では、若い者同士で」
と、こちらに投げられた。
いや、お見合いじゃないんですよ?
ギルベルト父は将軍と、西の地形や最近の魔物の動向などについて話すらしい。
レオン兄もそちらへ参加している。
「疲れた。どこか面白いところはないか?」
こんな田舎に面白いところなんて、あるわけないじゃないですか。
「こっそり抜け出して街に出てみようぞ」
嫌です。
あなたが暗殺でもされたら、俺が処刑コースなんですが。
「護衛がついている。心配するな」
それは、こっそりではないのでは?
近くにいた若い女性騎士を見ると、小さくうなずいた。
あ、OKなんだ。
まあ、教会とギルドを見せて、買い食いでもさせれば満足するだろう。
◇
「いや、実に楽しかった。あのカラスの串焼きというものは美味かったな」
王城じゃ、あんなゲテモノ出ないでしょうしね。
「ヴァルクレイン家は武門と聞く。さぞ強いのであろう? ひとつ、この者と勝負してみせよ」
そう言って、先ほどの護衛の女性騎士を指さす。
いや、無理っしょ。
体格が違うし。
そもそも女性騎士なんて、どう考えても戦闘系の中級職以上でしょうに。
「では、各々準備をするが良い」
これはギルベルト父と選手交代だな――と思って父の方へ行こうとすると、その女性騎士がやってきた。
「申し訳ありません。クラウディアと申します。ああなってしまうと、王子はもう駄目です」
「クラウディアさん、戦闘職でしょ。僕、八歳の無職ですよ。勝負になるわけないじゃないですか」
「本当に申し訳ありません」
仕方がないので、とにかく防具を付けて裏庭に向かう。
まあ、さすがに大怪我させられることはないだろう。
「このクラウディアはな、戦鬼だ。強いぞ。そうだな、三本勝負で一本でも取ったら褒美をつかわそう」
戦鬼かー。
ほら、レオン兄、わくわくした顔で見ないの。
「木刀を防具に当てたら一本だ。よいな」
◇
始まってしまった。
軽く礼をする。
クラウディアさんは間合いを詰めると、打ち下ろしてくる。
速っ――いや、速くないな。
ちゃんと手加減してくれている。
横へ避けると、そのまま打ち上げ。
そこで木刀を合わせ、俺は手を放した。
木刀は真上へ打ち上げられる。
俺は急いでバックステップ。
クラウディアさんは、きょとんとした顔をしている。
よし!
風の生活魔法を発動し、クラウディアさんの横へ落ちてきた木刀の軌道を曲げる。
風魔法は周囲にバレないよう、控えめだ。
コンッ!
軽い音がして、木刀がクラウディアさんの兜に当たった。
「一本!」
笑いが起きる。
俺もクラウディアさんへ笑顔を向ける。
今のがすぐに一本判定になったのは、事前に審判役のアルフォンスへちゃんと言い含めていたからである。
そこから先の二本は瞬殺された。
クラウディアさん、大人気ないですよ。
◇
夕食後の歓談の時間。
クラウディアさんが近寄ってきた。
「あれ、全部計算づくだったんですね」
「戦鬼に無職が勝てるわけないですからね。冗談ですよ」
「いえ。もしあれが木刀でなく、毒でも塗ってあったら死んでいました。私の慢心が招いた結果です」
「クラウディアさん、真面目すぎですよ」
「これでも王子の護衛ですから」
そう言って、クラウディアさんは笑って去っていった。
入れ替わるように来たのは王子である。
「見事であった」
「ありがとうございます」
「褒美だがな、実は何も用意していない」
まあ、そんなもんでしょ。
「では、次に王都で会ったときに」
レオン兄はその後、クラウディアさんに挑み、普通に吹っ飛ばされていた。




