第23話 金を稼がねば
さらに数か月が経った。
レオン兄は、とうとう型の修行を終え、裏の森に入ってレベル上げを始めた。
マリベルも型はマスターしたらしく、朝から家に来ることはなくなった。
ただ、ときどき隠れんぼには付き合ってくれる。
この姉、なんだかんだ言って優しい。
そしてある日。
「リュカ、とりあえず武闘家に向けた修行はここまでだ」
フリーデガルト母が言った。
「私がレオンと共にローゼンフェルトに向けて出発する前、セシリアが私に“こどもたちを頼む”と言ってきた。セシリアはな、ときどき未来のことを読むことができる。たぶん、予知系のスキルを持っていたのだろう。何かを視ていたのかもしれんな」
覚えている。
俺も、あの台詞には違和感を覚えた。
「で、リュカ、お前だ。お前は闘気力がほとんどないのに武闘家を目指すという。今のままでは無理だ。あの“闘気浸透撃”はローゼンフェルト家の秘伝でな、お前の中の闘気力を活性化させ、わずかだが闘気力の基礎値を上げることができる」
そんな名前の技だったのか。
それにしても、あの修行というか、しごきは全部自業自得だったとは。
“武闘家になりたい”なんて言うんじゃなかった。
「闘気浸透撃で上げられる闘気力は、ここまでだ。だが、まだ武闘家には届かないだろう。他の職でレベルを上げれば闘気力は伸びる。あと、闘気力を上げられる秘伝が、他に二つあると聞く。以前探っていたときに、ヴァルムクヴェル子爵家に何か秘密がありそうだった。本気で武闘家を目指すなら、行ってみるといい」
いや、目指してないんだけどな。
でも、あのしごきの理由がわかって少しすっきりした。
「ありがとうございました」
さて、今後はどうしよう。
現在七歳。
ステータスはこんな感じだ。
【ステータス】
名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン
年齢:7
職業:祈祷師(巫女)
レベル:10
力:12
速さ:30
体力:18
魔法力:204
神聖力:319
闘気力:15
知性:115
スキル:
・祈祷
・虫の知らせ
・老化軽減 0%
・老化軽減 0%
・投擲
・毒軽減(弱)
スキルポイント:0
巫女のとき、予知の重要性は思い知った。
だから“虫の知らせ”は予知系っぽいので取ってみたのだが、どうなんだろう。
おかげでスキルポイントが0になってしまったんだが。
巫女のときの予知は夢だった。
実際に虫が知らせてくれるとは思えないし、どう扱えばいいのかよくわからない。
……とりあえず夢日記でもつけるか?
◇
しばらくリーゼに会っていないので、マリベルとリーゼが借りている部屋を訪ねてみた。
「なんか久しぶりだね」
「お母さんにしごかれてた」
「マリベルから聞いてるよ。ちゃんと型を教われるの、羨ましすぎ」
リーゼは、ここ最近伸び悩んでいるらしい。
レベルは二十二。
このあたりのレベル帯になると、安全に倒せる魔物ではもう経験値効率が悪い。
自己流の武闘術ではここが限界で、誰かに教わらないと先へ進めないらしい。
「なら、マリベルから習えば?」
「無理よ。自分で正しく動けるのと、他人を正しく動かせるのは全然別。外から見て動きが正しいかどうか、私にはまだわからない」
こう言うマリベル自身も、悩んでいる。
レベルは三十六。
そろそろ転職が見えてくるが、問題は金だ。
転職には二十万ギル以上かかる。
まだ手が届かない。
「おじいちゃんのところに行けば?」
「うん、それも考えたんだけど、結婚しろってうるさいのよね。次に行ったら確実に見合いさせられるし、たぶん転職は結婚が条件になる」
田舎に帰ると結婚まだコール。
世界が変わっても、ここは変わらないらしい。
マリベルはもう適齢期だ。
結婚すればいいじゃん、と思わなくもないが、本人は本人でいろいろ葛藤があるようだ。
「いいじゃーん、結婚しちゃいなよ」
リーゼは気楽に言う。
「結婚したら次は“子ども”って言われるだけよ」
マリベルは強くなりたいがために転職したいのだ。
転職したところで、そのあと結婚出産となれば、武闘家レベル1のまま今より弱くなる。
それは本人にとって、本末転倒なのだろう。
「学校は?」
庶民の学校に入れば、卒業時に無料で天啓の儀へ参加できる。
しかも庶民学校は一年制。だいたい十~十一歳で入学し、一年後、職に就ける才能があれば職を得る。
「あたし、もうすぐ十五よ。さすがに庶民の学校に入学は無理よ」
貴族の子女が入れないわけではない。
単純に年齢の問題だった。
◇
数か月後、フリーデガルト母は元ブラウン男爵領へ向かった。
向こうの防衛力に、かなり問題があるからだ。
なんせ、領兵がたった百人弱しかいない。
領主には、領地を魔物から守る義務がある。
戦争から戻ってきた兵のうち、もともと領兵だった者は四百ほど。
しかも、その少なくない数が怪我などで退役している。
援軍要請予告で募兵した分を合わせても、元ブラウン領に割けるのは百程度。
これでは領地防衛としては心もとない。
だが、兵の募集はなかなか進まない。
王都から参戦要求があったら、真っ先に駆り出されるのは領兵だ。先の敗戦が、こんなところでも響いている。
「おいらも行かせてください」
コンラートが言った。
コンラートの出身は元ブラウン領だ。
思うところはいろいろあったのだろう。
そして俺は、隠れんぼの相手を失った。
◇
結局、リーゼは武闘指南所へ通うことになった。
週に二、三日指南所へ通い、二、三日ギルドで依頼を受ける。
指南料はそこそこ高く、働きながらでないとやっていけないらしい。
マリベルは、ひとまず金を貯めることにした。
カスパルがそろそろ天啓の儀を受けてもおかしくない年齢だ。
もしルドルフがヴァルクレイン領へ来るなら、そのときに自分も天啓の儀をねだる。まさかヴァルクレイン領まで婚約者候補を連れてくることはないだろう。
逆に、カスパルがローゼンフェルト家へ行って儀式を受けるようなら、その線は諦める。
そのときは二十万ギルを地道に貯めて、自力でなんとかする。
カスパルルートで転職できたとしても、その先には中級職への転職もある。
金はあって困らない。
「というわけで、依頼を受けるわよ!」
チーム・マリベルの金策が始まった。
◇
レベル上げ狙いのときに受ける依頼と、金狙いで受ける依頼は、当然違う。
俺たちは近郊の果樹園に来ていた。
「あっちの森にスナッチモンキーの群れができて、果樹園が荒らされるんで」
スナッチモンキー。
小型の猿みたいな魔物である。
樹上にいるので面倒ではあるが、弱い。
ただし、近づくとすぐ逃げるため、討伐は楽ではない。
「スナッチモンキーが襲ってくることはないし、この辺りには他の魔物もいないから危険はないわ。別れましょう」
マリベル、剣でどう戦うんだろう。
リーゼは弓を持ってきている。
「倒さなくても、群れを追い払えばいいのよ。簡単よ」
マリベルはそう言って剣を一振りし、森へ入っていった。
俺とリーゼは顔を見合わせてうなずき、左右に分かれて森へ入る。
少し歩くと、樹上で鳴き声が聞こえる。
だが、なかなか姿は見えない。
あちこちで鳴き声がするし、音は葉で反射する。
これは、探すなら枝の揺れだな。
――見つけた。
白い影が見えた。
すかさず、手に握った石を投げる。
ゴン!
命中。
……あれ?
落ちたスナッチモンキー、どこいった?
森の中に落ちたスナッチモンキーを探すほうが大変だった。
これ、気絶止まりだったら逃げられてたな。
とりあえず、討伐証明部位として尻尾を切り落とす。
さて、次を探そうと顔を上げるが、さっきまで聞こえていた鳴き声が消えている。
枝の不自然な揺れもない。
昼近くになったので、ひとまず果樹園へ戻ると、リーゼが待っていた。
彼女は尻尾を三本持っている。
「リュカ君も倒せたんだー。どうやったの?」
投石で倒したと言うと、リーゼは少し羨ましそうな顔をした。
彼女は三匹倒したが、失った矢は十本。
もちろん矢代はパーティー経費だが、パーティー収入が減れば個人取り分も減る。
「命中率を上げるしかないわね。スナッチモンキーに当たれば矢は回収できるし」
「一匹しとめたあと、スナッチモンキーを見かけなくなったんだけど」
「気配を消して行動しないと、あいつら逃げるわね」
そう言って、リーゼは気配の消し方を教えてくれた。
コンラートが教えてくれた方法と大差はない。
ただ、森の中では独特の歩き方があるらしい。
そうして気配の殺し方を教わっていると、どろどろに汚れたマリベルが戻ってきた。
「あいつら、あいつら!」
どうやら、マリベルの攻撃が届かないと知ったスナッチモンキーたちは、近づいてきて彼女をからかい始めたらしい。
しかも、集団で糞を投げつけてきたのだとか。
怒りのあまり、思わず剣まで投げてしまい、その剣も失ったらしい。
「殺してやる、ぶち殺してやる!」
マリベルさん、怖い怖い。
結局、攻撃手段のないマリベルは荷物持ちとして果樹園待機となった。
その後は、
気配を殺して森へ入る。
見つけたら投石。
尻尾を回収したら、また気配を消して移動。
この繰り返しで、俺は七匹のスナッチモンキーを倒すことに成功した。
リーゼはさらに四匹を狩ったところで矢が尽きた。
一日の成果としては、悪くないらしい。
帰り道。
マリベルは武器屋で弓を買っていた。
……ちゃんと練習してね。




