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第22話 魔王ならず

半年ほどして、アルドリック兄が戻ってきた。


「グライフェンベルク領が滅んで、王都は大混乱です。第一王子は失脚、たぶん王位継承権も剥奪になると思います。難民はアイゼンヴァルト領で受け入れているはずですが、王都にもかなり流れ込んできています」


「今回の魔物の動き、組織立っていたという話を聞いたが」


父が問う。


「はい。魔物を率いる者がいたのは、ほぼ確定です。国王は五王会議に魔王認定を求める予定です。緊急五王会議が来月開かれます」


出た、魔王。


でも話を聞く限り、魔王というのは自然発生したら即そう呼ばれるわけではなく、どうやらちゃんとした“認定”が必要らしい。


「三十年ぶりの魔王か。質は?」


「まだ確定ではありませんが、獣系の可能性が高いかと。グライフェンベルク領に攻め込んだ魔物の四割が獣系でした」


「魔王が認定されれば、次は勇者か」


「エーデルヴァルトからは、たぶんアルトゥールが推薦されるかと。彼は庶民出ですが、今回の戦いでも活躍しておりますし、リーデンフェルト侯爵とも懇意にしているとか。庶民からの評判はあまり良くありませんが、剣豪を取得しています」


レオン兄に聞くと、剣豪は上級職らしい。

戦闘職としては一番強いとか。


魔王が認定されると、各国が勇者候補を推薦し、五王会議がそこから勇者を選ぶ。


なんと勇者は職業ではなく、選定されるものらしい。


「評判が良くないなら、出ないのではないか?」


父の言葉ももっともだ。


勇者が選ばれると、今度は勇者が仲間を選ぶ。

勇者候補の中から選ぶことも多いらしい。だが、あえて今回は見送り、次の勇者選抜を狙う、という政治的判断もありうるとか。


ちなみに聖女は教会が出す。

勇者が女性の場合は聖騎士を出すらしい。


どちらも職ではなく、教会が定める役職である。


物語で読んだ勇者とは違って、なんだか妙に政治と打算にまみれている。


     ◇


アルドリック兄は、一か月ほど滞在すると旧ハインツ領へ向かった。


向こうで代官をやるらしい。


募兵と敗戦でヴァルクレイン領の兵力もぼろぼろだが、中でも西側はさらにひどい。

現在、旧ハインツ領に駐屯している領兵は三百強しかいないという。魔法使いであるアルドリック兄は、戦力としても期待されている。


東京から地方都市へ転勤したと思ったら、そこからさらに僻地へ飛ばされたようなものである。

しかも、スローライフできそうな気配はまるでない。


哀れ。


……まあ、今のヴァルクレインにはデスクワークのできる人材が足りていないので、いずれ呼び戻される気もするが。


     ◇


祈祷師に転職して八か月ほど。


現在のステータスはこんな感じだ。


【ステータス】

名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン

年齢:6

職業:祈祷師(巫女)

レベル:7

力:10

速さ:26

体力:16

魔法力:168

神聖力:262

闘気力:8

知性:105

スキル:

・祈祷

・老化軽減 0%

・老化軽減 0%

・投擲

・毒軽減(弱)

スキルポイント:5


巫女のときはほとんど伸びなかった闘気力が、少し伸びている。


これは、男性用職業である祈祷師の補正か?


毎日飲まされていた毒は、最近種類が変わっている。

……いや、ロッテはそんなに悪い子じゃないと思うよ?


午後には少し動けるくらいまでは回復するようになったが、まだマリベルたちと討伐依頼に行けるほどではない。


そこでコンラートに、投擲がずいぶん上達したことを伝えつつ、動けなくても習得できそうなスキルについて相談してみた。


本当は「スキルを取得した」と言いたい。

だが、俺は表向き無職扱いなので、それは言えない。


無職はステータスを確認できない。だからスキル取得も把握できない。

もっとも、把握できないだけで、取得自体はできるものだと考えられているらしい。


「なら、隠密なんてどうでしょう」


これは、敵に見つかりにくくなるスキルらしい。


「おいらはできないですが、取得方法はわかります」


音を立てずに歩くこと。

呼吸を浅く深く調整すること。


そうしたことを意識しつつ、気配察知スキル持ちから隠れ続ければ、そのうち取れるらしい。


「おいら、気配察知は持ってますから」


さすが歴戦の戦士。


「では、リュカ様は隠れてください。二十数えたら探し始めます」


コンラートは後ろを向き、手で目を覆って数え始める。


二十、十九……


……あれ?


これって、隠れんぼでは?


     ◇


そんなこんなで、


午前中はフリーデガルト母に殴られて昼寝。

午後はコンラートとかくれんぼ。


という、ある意味とても健全な六歳児生活を送り、いつの間にか七歳になっていた。

祈祷師に転職して一年ほど。

ずっと確かめたくて、でも確かめられていないことがある。


欲情すると、どうなるのか。


ロッテは、あのお漏らし事件のあとしばらくカスパルの部屋に行っていなかった。

だが、今はときどき呼ばれて、やることはやっているようだ。


ステータス画面を見ながら、ロッテの裸体を思い出してみる。


……特に変化はない。


というより、あまり鮮明に思い出せない。


もう一人のメイド、メリアはまだ十一歳。

若すぎて欲情の対象にならない。


あれ?


ヴァルクレイン家、欲情テストの材料がない?


     ◇


フリーデガルト母のかめ○め波を受け続けた結果、だんだん技の出るタイミングがわかってきた。


技の直前、体幹から魔力がうねりながら左手へ集まり、手のひらに回転する魔力が収束した瞬間――俺にインパクトが来る。


これ、逆回転の魔力をぶつければ相殺できるのでは?


魔力を回転させ、手のひらに収束させるのはかなり難しかった。

だが、一か月ほどで何とかできるようになった。こちらも必死である。


フリーデガルト母の体が沈み込む。

俺の真正面。


何回も受けた攻撃だ。

タイミングはばっちり――のはずだった。


俺は回転する魔力を込めた手を、かめ○め波にぶつける。


次の瞬間。


俺の体が回転しながら吹っ飛び、両手の骨が折れた。


両腕開放骨折。


血相を変えて近づいてくるフリーデガルト母。

腕から信じられないほどの激痛。


だが、あの魔力をかき回されるような感触や吐き気はない。


「リュカ!」


フリーデガルト母の叫び声を聞きながら、俺は気を失った。


夜、腕はギルベルト父が呼んだ僧侶によって治療されていた。

どこにも痛みは残っていない。


俺は回転しながら吹っ飛んだ。

しかも、その回転方向は、魔力の回転方向と逆だった。


……やっぱり、何かは相殺できていたのか。


次の日から、かめ○め波を撃つときにフェイントが入るようになった。


ひどい。


     ◇


レオン兄には許嫁ができた。


ただし、レオン兄自身もまだ会ったことはないらしく、どんな女性かも不明。

ローゼンフェルト家の伝手だそうで、わかっているのは十四歳、ドラッヘンベルク男爵家の長女、ということくらいだ。


ローゼンフェルト家の紹介なら、きっと闘気力満載の戦う女子だろう。


あと、エレノア姉が出産した。

男の子だそうだ。


長男を生んだことで、エレノア姉の立場も安泰だろう。


マリベルにも婚約話は来ているそうだが、全部本人が断っているらしい。


そして――五王会議では、魔王認定は見送られた。


仕方なく、王都と周辺貴族の軍で無理やり魔物の群れをすり潰し、群れを率いていた魔物(未魔王?)も排除したらしい。


五王会議で魔王認定されれば、各国が軍を出し、連合軍として魔物の群れと戦う。

それと同時に、五か国で最も強い者を勇者として魔王にぶつける。


だが今回は、帝国と北のノルトラント王国が反対したという。


今までにない事態らしい。


今回の戦いで、エーデルヴァルト王国は大きく力を減じた。


……今度は人間同士の戦にならなければいいんだけど。



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