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第104話 ヴァルムクヴェルへ出発

さて、期末テストの結果発表だ。総合順位が貼り出される。

トップはライオネル君。魔法力操作の練習ばっかりしていたのに、さすがである。二位はダイアナ。庶民学校から推薦されるだけあって優秀である。

俺は八位。思ってたより悪くない。

意外だったのはアレクシアだ。三十二位、後ろから数えた方が早い。彼女の後ろには脳筋が並んでいる感じだ。

「リュカ君、なかなかの成績だね」

「レスカだって悪くないじゃん」

レスカは十二位。立派な成績だ。

「明日は早朝出発だよ。準備はできてる?」

「大丈夫。特に持って行くものもないしね」

魔法の収納もあるし。

「じゃあ、明日、北側の停留所で。ヴァルムクヴェル方面は一路線しかないから、迷うことはないと思う」

ヴァルムクヴェル領は北東にある。北側の停留所は行ったことがない。というか、南以外は行ったことがない。この「迷わない」は信じちゃ駄目だな。

明日は少し早めに行っておこう。


     ◇


翌朝、かなり早起きしたが、スティーブも起きて見送ってくれた。

「戻ってきたらヴァルクレイン領だからな」

「うん、前衛としての動きを練習しておくよ」

マジで任せたぞ。前衛一、後衛三なんだから責任重大だぞ。


さて、北停留所だが、環状線の始発前なので歩いて行かないといけない。テクテクと歩いていると、周囲の建物が立派になっていく。ここらへんは貴族街と聞いていたが、ここまで立派だと歩いている俺が不審者っぽく感じられる。しかも、衛兵の見回りが多いので、気配察知全開で衛兵を避けながら進む。やっていることは不審者だが、変に誰何されても面倒だしな。

北停留所は、南停留所とは大違いだった。さすがに人は多いのだが、あまりざわついていない。周辺に屋台はなく、宿も三軒だけ。しかも、中級・上級・最上級といった構成だ。南停留所は中級・低級・最底辺の三種類だからな。

衛兵にヴァルムクヴェル行きの場所を訊いて向かうと、既にレスカが待っていた。

「おはよう」

「おはよう、レスカ。早いな」

「来たばっかりだよ」

「南の停留所とずいぶん違うからびっくりしたよ」

「貴族街の中にあるからね。ヴァルムクヴェル方面は東停留所からも出てるけど、遠回りする分、少し時間がかかるの」

ヴァルムクヴェルは北東でも少し北寄りだ。ヴァルムクヴェルまでは三日と聞いている。エーデルヴァルト王国は帝国から独立後、南へ南へと魔物の領域を切り開き、領土を拡大してきた。だから、王都は北寄りにある。

そのうち、大きめの馬車が俺たちの前に停車する。

「これだよ。乗ろうか?」

レスカと共に乗り込む。

その後、ほかの人も乗って来るが、それほど混んでいないようだ。

「今は東部で魔物騒ぎがあるせいで東北に行く人が少ないけど、いつもならこれくらいの時期は結構混むんだよ」

前世世界の北半球と同じく、俺が住んでいるこの地域も北へ行くほど涼しくなる。そして、高地にあるヴァルムクヴェルはさらに涼しいため、夏場の避暑地として人気らしい。その代わり、冬はむっちゃ寒いらしいが、温泉があるので冬でも物好きな観光客は来るんだとか。

雪を見ながら温泉、いいよね。


     ◇


「レスカってさ、婚約者とかいるの?」

馬車の中では話すことくらいしかやることがない。魔力操作の鍛錬をしていても良いが、それは真ん前のレスカに失礼だろう。

「貧乏子爵家の五女よ。しかも領地は超田舎。婚約の話しなんてそうそう来ないわよ」

「ヴァルクレインの領都のしょぼさ、行ったら驚くぞ」

「ヴァルムクヴェルの領都も同じようなもんよ。田舎度勝負なら負けないと思うわよ」

前世での田舎度自慢だと電車の本数とかで勝負したりするんだが、こっちの世界ではどうなんだろう?

「武器屋が防具屋を兼ねてて、しかも一軒しかないし」

「それはウチもそうね」

「宿屋は二軒しかないし、食堂も二軒だけだし」

屋台はあるんだけどな。老いて魔物と戦えなくなった冒険者ギルド員が始める仕事の定番らしい。

「ウチは観光地だから宿屋は多いわね。食堂も十軒以上あるか。もしかしたら、ウチの方が上かも?」

「いや、田舎度勝負なんだから、田舎度が高い方が上なんじゃないか?」

レスカは旅慣れているんだろう。

休憩の時も普通に済ませるべきことを済ませていたし、食事にも特に文句はないようだった。宿泊地は中規模の町。ちゃんと宿屋も複数軒ある。

「どの宿がいいの?」

「私もこの町は前に一回来たことがあるだけだけど、そこの宿が安い割には良い感じだったよ」

「じゃあ、そこに泊まろうか」

当然、別部屋である。素泊まりで一泊三百ギル。部屋は簡素だが、清潔に保たれている。

「リュカ君、夕食はどうする?」

「屋台で何か買って食べようか」

「いいわね。前に食べて美味しかった屋台があるの」

その屋台は濃厚なスープを出す店だった。パンはサービスだ。屋台の近くに置かれたテーブルに着き、二人で食べる。

「うん、なかなか美味しい」

「そうでしょ」

その後、宿に戻って休む。


     ◇


翌朝、屋台で軽い朝食を済ませ、出発。この町で降りた人が何人かいたのか、乗っているのは俺たちと老婆が一人。馬車をほぼ独占である。

「ねぇ、リュカ君。お姉ちゃんから聞いたんだけど、リュカ君はやっぱり戦士や武闘家みたいな戦闘職になりたいの?」

「そんなこと言った覚えはないけどな? どうしてそう思ったんだろう?」

「ベスカ姉が、『リュカ曹長は素質もないのに、暇な時間を見つけては剣術の訓練をしていた』って言ってたし」

何か、むっちゃ失礼だな。

「ネスカ姉は、『闘気力もあまり感じられないのに、スラッシュの真似事をしていた』って言ってたし」

ちゃんとスラッシュは発動するようになったからな!

「あたしもリュカ君の気持ちはわかるな。ヴァルクレインって武の傾向が強い家でしょ。実は、ウチもそうなんだ。ヴァルムクヴェル流槍術ってそこそこ有名なんだけど、知らない?」

「いや、知らないな。ウチは父が剣術、母が体術で、槍術を習ったことはないんだ。今、授業でやってるのが槍初体験さ」

「槍で“大切断”のスキルを使うと凄いんだよ。ヴァルムクヴェルに着いたら、お父さんが見せてくれるわよ」

レスカが見せてくれるんじゃないのか。


     ◇


休憩のために停まった町は乗り換えポイントでもあったようで、唯一俺たち以外で乗っていた老婆はここで降りてしまった。

貸し切りである。

「私もね、家ではこっそり槍の練習とかしてたんだ。でも、お姉ちゃんたちの才能を前にすると、やっぱりへこむんだよね」

「俺の姉も優秀だよ。俺より八歳上なんだけど、戦士と武闘家を終えて、今はもう戦鬼になってる。ヴァルクレインは魔物狩り放題っていうのもあるけどね」

「私も闘気力さえあれば、ってよく考えてたわ。で、リュカ君になら言っていいと思うんだけど、実はウチの領には“闘気の秘湯”っていうのがあるの。なんと、その秘湯に浸かると闘気力が上がるっていう」

レスカは笑いながらそんなことを言ってくる。いや、さすがにそれは眉唾だぞ。そんな温泉があるなら、全国各地から戦士や武闘家志願の人が集まって来るだろう。

「あ、その顔、信じてないでしょ。嘘みたいな話だけど、本当よ。ただ、今はその温泉は枯れてるんだ。何年かに一回、一週間だけ湧くの。しかも、闘気力を上げるには一週間入り続けないといけない」

周期があるんなら、それに合わせれば可能なのか?近くでずっと待つとか?

「しかもね、その温泉は強酸の湯なの。一時間も入れば、もう皮膚は溶けて肉が顔を出すっていうね」

無理ゲー。

「あ、そういえば、俺も飲むと闘気力が上がる薬っての、持ってるよ」

「え? もしかして魔人の秘薬?」

「いや、名前は知らないんだけど」

そう言いながら、俺は闘気力ポーションを取り出す。

「そ、それって、本物なの?」

一応、闘気力は少しずつ上がってるんだよな。

「うん、一応効果はあるっぽい」

「それって、あたしにも分けてくれたりするのかな?」

レスカが顔を近づけてくる。奇麗な顔でじっと見られると照れるぞ。

「別にいいよ。ただ、闘気力が上がるといっても少しだけっぽいよ」

「闘気の秘湯も、それほど闘気力が上がるわけじゃないのよ。でも、戦士になれない人が、その少し上がった闘気力で戦士職に就くことができるかもしれない。それが重要なのよ」


     ◇


せっかくなので、俺はレスカの前で闘気力ポーションを飲んでみせる。量は養命酒一杯程度だ。

「ただ、これって猛毒らしい。一滴でも普通なら即死らしいよ」

「え? じゃあ、どうしてリュカ君は?」

「毒無効のスキルが必須なんだ」

「ちょっと、それ、酷くない? 期待させておいて」

ふくれっ面になるレスカ。


入ると溶ける強酸の温泉だって、似たようなものじゃない?


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