第101話 王都でのクララさん
さて、週末だ。クララさんとの待ち合わせは夕方だ。
それまでギルドで弓の練習でもしていようかな。
自称、弓の指導員はいるかな?
「やぁ、少年。弓の方はどうかな?」
いた。この人、暇なのかな?
せっかくなので、指導してもらうことにする。
「うむ、上達しているようだな。見たところ、実戦で磨かれたか。だが、基本の姿勢が崩れ始めている。どんな姿勢で射ても、体の芯はぶれてはならん」
まずは何射かして、今の自分の技能を見てもらう。
崩れかけていた姿勢を修正してもらった。
「『命中』とかいうスキルはないんですか?」
「あるぞ。だが、自力で取得しなければならないスキルだ。弓をメインで扱う職業はないからな。取得条件は不明だが、かつてそのスキルを取得した人物を分析した結果、弓だけでなく、『投擲』スキルも関係がありそうだという結論になっている。あとは、石弓や古代魔道具の銃を頻繁に使っていたという傾向もあるとか」
『投擲』スキルは持っている。あれも命中補正があれば嬉しいスキルだな。
それにしても、石弓や銃か。もしかしたら、石弓は弓とは違ったカテゴリーなのかもしれないな。
◇
弓の訓練を終え、少し早めにクララさんとの待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ場所に着くと、すでにクララさんが待っていた。
「クララさん、お久しぶりです。ずいぶん早く着いたんですね」
「あぁ、そうだな。とりあえず、どこか落ち着けるところへ行こう。リュカはどこに住んでいるんだ?」
クララさんはあたりをキョロキョロと見回し、何やら警戒している。
「僕は寮なんで。クララさんはどこに泊まってるんですか?」
「あまり宿に泊まりたくなくてな。どこか、こっそり泊まれるところはないか?」
何か事情がありそうだ。
とりあえず、ベネットとチェリーの部屋へ行くか。
「わかりました。ついてきてください」
◇
ベネットとチェリーの部屋へ行く。
「ただいま」
「おかえり、リュカ! あれ、その人は?」
「僕の薬師の師匠だよ。君たちの治療の相談をしてる人だ」
クララさんには亜ヒ酸の手配もお願いしているし、ベネットとチェリーへの毒耐性付与の相談もしている。
「この子達が、リュカが言っていたインキュバスの嫁か。なら、さながらここはインキュバスの館だな。調べたが、亜ヒ酸でインキュバスの嫁を治療した記録はあった。発症は遅らせられるようだ」
クララさんはベネットとチェリーを見ながら言う。
「だが、亜ヒ酸はそこそこ強い毒だ。毒耐性の『中』は欲しいところだな」
クララさんはカバンから様々な薬品を取り出す。
「いっそのこと、毒無効まで取るとか」
「何年かかると思ってるんだ。毒無効取得に使う毒は猛毒だ。通常、一種類終わるごとに一年くらいは休養する。体がボロボロになるからな。次から次へと猛毒を飲んでいくリュカは阿呆かと思ったぞ。猛毒でボロボロになる体を、無意識に自ら治療していたんだろう」
それ、教えておいてよ。
「まずはリュカの闘気力ポーションだな。これだ。猛毒だからな、気をつけろよ。毒無効持ち以外が飲んだら即死だからな」
飲み方を教わる。
最初は少しずつ量を増やし、途中からは決められた量を一年間飲み続けるようだ。
「とりあえず、まずは飲んでくれ。経過を見たい」
指定された量を飲み、しばらく待つ。
「ふむ、即死はしないようだな。このまま様子を見よう」
即死してたらどうするつもりだったんだ?
◇
「さて、次はこの子達の毒耐性だな。まずはこの薬から始めてくれ。死ぬような毒じゃないから心配するな」
クララさんはベネットとチェリーにも薬を渡す。
「さて、王都にいる間はこの部屋を使ってよいのか?」
ベネットとチェリーは相変わらず同じベッドで寝ており、新たなベッドは購入していなかった。
「なんで宿に泊まれないんですか?」
「その昔、ちょっと面倒なところから金を借りてな。そのレースは必ず当たるはずだったんだ。だが、番狂わせがあってな」
金を借りてギャンブルして、借金を踏み倒しか。屑だな。
「わかりました。ベッドを手配します。とりあえず、この部屋の床で寝てください」
使っていない部屋をクララさんの部屋として使うことにした。
「あとな、ちょっと懐が寂しいんだ」
二万ギル渡す。
「絶対にギャンブルには使わないでくださいよ」
「も、もちろんだとも」
信用して大丈夫かな?
◇
「ねぇ、あたしたち、何をしたらいいかな? さすがに何もやることがないのも苦しいのよ。今までの仕事はできないし」
「庶民の学校に入ることはできないかな? できれば職を得た方がいいと思うんだ。神聖力や闘気力を上げれば、病に対抗できるかもしれない」
「アタシたちみたいなの、入れるかな? 知ってると思うけど、私たちは教会から嫌われてるし、庶民の学校は教会がやってるのよ」
そうなんだよな。彼女たちが娼婦だったと知れたら、入学できないだろう。
「私の知り合いに頼んでみよう。知り合いが庶民の学校の教師だ」
クララさんから助け舟。それはありがたい。
◇
翌朝、庶民向けの学校を運営している教会へ向かう。
王都ともなると数か所あるのだが、クララさんの知り合いがいる所だ。
幸い、借りている部屋から歩いて一時間ほどだった。
「あら、クラスナーラ。久しぶりね。貸したお金を返しに来てくれたのかしら?」
クラスナーラ?
クララさんのあだ名か?
クララさん、こんな所からもお金を借りてたんだ。
「も、もちろんだ。長い間すまなかった」
クララさんは昨日渡したお金を全て渡す。
「クラスナーラ、利子ってご存じかしら?」
クララさんが固まる。この世界での一般的な利子ってどれくらいなんだろう?
「冗談よ。元クラスメイトから利子を取る気はないわ。で、何をしに来たのかしら?」
「いや、王都に来たから、せっかくだから昔の友人に挨拶しておこうと思ってな。あはは」
ジト目で見られてるぞ。
「ナマーテに相談があってな。実は、この子達なんだが……」
クララさんはベネットとチェリーのことを説明し、庶民の学校へ入れたいことを話す。
◇
「クラスナーラ、あなたは賭け事さえしなければ、面倒見の良い人なのよね。忘れてたわ。いいわ。少し歳がいってるけど、大丈夫でしょう。以前、娼婦だったことを隠して学校に入れてあげるわ。ただ、今後、一切体を売らないことを誓ってくれる?」
ギャンブル依存症がクララさんの全てを台無しにしている説。
「もうしません。誓います」
「誓います」
「どうやら、本当にもう体を売る気はないみたいね」
ベネットとチェリーの目を見て、ナマーテさんが言う。
「ちゃんと勉強するのよ」
ベネットとチェリーの入学が許可された。
「あと、クラスナーラ。まだ借金取りがあなたを探してるわ。いくら借りたのか知らないけど、気を付けてね」




