第100話 魔力操作
週明けの一限前、なんか教室が少し騒がしいな。
「なにかあったの?」
メロー君は男子の中では噂好きだ。クラスのほとんどが知ってる噂なら、間違いなく彼も知ってるだろう。
「街中のカフェでヘインケル様とダイアナさんが食事してるのを見かけたって噂があるんだ」
別に、それくらいいいだろうに。俺だって、前にジェニファーと二人でカフェに行ったぞ。そんな中、アレクシアさんがダイアナさんの前につかつかと歩んでいく。教室が静まり返る。
「どういうつもりですの?」
ずいぶん抽象的な質問だ。
「なんのことでしょうか?」
「とぼけないで。あなた、週末にヘインケル様とカフェで食事をしたって。そのあとも、しばらく二人で王都をまわってたって」
「ヘインケル様が、王都での庶民の暮らしを知りたいって」
「泥棒猫みたいな真似をして。恥ずかしくないの?」
「そんな、あたしたち、そんな関係じゃありません!」
バチン!
アレクシア様がダイアナの頬をはたいた。倒れるダイアナ。そこにエミリア先生が入ってくる。頭部から血を流しているダイアナを見て、慌てるエミリア先生。
ダイアナは保健室に連れていかれることに。朝っぱらからヘビーな出だしだな。
ダイアナは一日、教室に戻ってこなかった。
◇
「月曜日から解毒ポーション作成とは、 一年生は元気だね」
ファルマチータさんだ。急遽呼び出し、来てもらった。
「こいつ、昨日の夜中に門限破ってこっそり帰ってきたと思ったら、解毒ポーション作成を手伝えって。明け方までかかったよ」
うん、申し訳なかった。
「リュカ君は今日もアタシの神聖力の流れを追うのかな?」
「うん、お願い」
前回は神聖力を注いでいる腕での神聖力の動きに注目していた。今回は別のところにしよう。ファルマチータさんの背中に手を当てる。肩甲骨のあたりと背骨のあたりだ。
「肩をもんでもらいたい気分になるね」
そう言いつつも、ファルマチータさんは解毒の神聖力を瓶に注いでくれた。
ファルマチータさんにとっては一万九千八百ギルの稼ぎだ。断れまい。
「夏休みは裕福に暮らせそうだよ。食堂が閉まる期間は厳しいんだ」
お金を払うと、ホクホクとした顔で去っていった。
「このまま商業ギルドに行く?」
「そうだね。今から出れば門限までに戻ってこられるし」
「そういえば、前に納品した分は売れた?」
「実はまだ数本残ってるんだ。次はもうちょっと間を空けてくれるかな?」
「わかった」
売れ行きが悪くて在庫が嵩むのはきついよな。
「ちなみに、平均売却価格は今のところ二千二百三十四ギルさ」
コイツ、高めに売り抜こうとしてやがる。
◇
「りゅ、リュカ君。ちょ、ちょっといいかな?」
お、ライオネル君。魔法力を回転させることができるようになったのかな?
「う、うまく、で、できないんだ」
今日はどもりがきついな。緊張してるのか?
「な、なんか、こ、コツとかあるのかな?」
「コツっていうより、魔力操作がうまくできないと難しいのかも。ライオネル君は魔力操作は得意?」
「い、いや、あ、あまり、と、得意じゃないん、だ」
「何か生活魔法はできる?」
「な、なにも」
生活魔法ができれば、魔力操作の練習もやりやすいんだけどな。
その後、俺が生活魔法を発動する時の魔力の動きを感じてもらったところ、彼は風魔法に適性がありそうだった。
「ライオネル君は風魔法に適性がありそうだから、まずは風の生活魔法発動を目指してみたらどうかな? 魔力の動きが大きい方が見やすいから、魔法使いで風魔法が使える人に頼んで魔法を見せてもらうといいよ」
上級生も含めれば、魔法使いで風魔法に適性がある人もいるだろう。
◇
寮の部屋で、魔力を体内で二本の線にする練習をする。
今日、ライオネル君に話しかけられたとき、彼がもう魔法力を回転させられるようになったものと勘違いし、少し焦ったんだよね。次の段階を教えてと言われても、教えられることがない。
「スティーブは魔力操作は得意?」
「いきなりだね。あまり魔力操作は練習してないよ。リュカに言われるまで、自分に魔法力がそこそこあるなんて知らなかったし。いきなり、どうして?」
魔力を二本の線に分ける訓練は、指先で分かれた魔力線が、分かれたまま肘と肩の中間くらいまできている。
さて、どこまで進めればいいんだろう?
魔法力の発生源はわかっていない。丹田あたりという説もあるが、そこに特別な臓器は発見されていない。
「ライオネル君がさ、ちょっと魔力の操作で悩んでて。でも、どうやって教えたらいいのかわからないんだ」
「魔力操作の訓練は、自身の中の魔力を検知することから始めて、それを体内で巡らせるのが主流らしいね。最近、自分でもやってみようとしているんだけど、やっぱり難しいよ」
「そうなのか? 手伝ってやるよ」
スティーブと両手を合わせ、魔法力を循環させる。
「わかる?」
「うん、動きはわかるけど、自分で動かすのがうまくいかないんだ」
「そうか。ちょっとやり方を変えようか」
魔法力を動かすとき、起点となるのが丹田あたりだ。それもあって、丹田あたりに魔法力の発生源があると考えられているんだろう。でも、詳しく感知してみると、丹田で発生した流れに体中の細胞から少しずつ魔法力が集まり、大きな流れになっているように感じる。
魔法力は体中の全細胞から発生していて、丹田が魔法力の起点と考えられているのは、イメージしやすいからだけかもしれない。魔法の訓練ではイメージは大事だ。
俺は片手をスティーブの丹田に、もう片手を胸元に置き、スティーブの魔法力を動かす。
「魔法力はここを起点として捉えるのが一番わかりやすいからな」
丹田に置いた手で、魔力の流れを軽く誘導する。
「あ、くすぐったい」
「こら、魔法力の動きに集中しろ」
しばらくスティーブの魔法力を強制的に動かしてやると、いつのまにか自分でも動かせるようになったようだ。
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう」
どういたしまして?
◇
「このように、足首を制するだけで、相手の体全体の動きを支配下に置くことができる」
ミツアがパヤット先生に取り押さえられている。あれはヒールホールドか?ずいぶんスムーズに決まったもんだ。
最近、体術の授業はミツアがパヤット先生に突っ込み、それをパヤット先生が取り押さえるところから始まる。
「では、お互いやってみろ」
まずは俺がムアイ君に突っ込む。ルールとしては、今までに習った技はなんでも使っていいが、その日に習った技が決まると“勝ち”となる。
なお、勝っても特に褒美はない。
お互いにヒールホールド狙いなので、まずは相手を倒すところだ。お互いに相手を倒そうとするが、ムアイ君は力が強いだけでなく、バランス感覚も優れている。簡単には崩されない。逆に、こちらが力ずくで組み伏せられる。
すぐにヒールホールドに入ろうとするムアイ君。こちらは腕がらみを狙い、足へのアプローチを妨害する。警戒されていたようで、こちらのアームロックは不発。
しばらく攻防が続くが、結局足を取られてしまう。
ひどく痛かった。
先生はミツアと練習だ。
先生はミツアのスピードとパワーを完璧にいなしている。あれは技なのか、スキルなのか。
この授業であの領域まで辿り着けるのかな?




