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第99話 ミニボア

「え? リュカは一緒に住まないの?」


ベネットにはちゃんと説明してたと思ったけど?


「俺は寮に住んでいるからな。ワンダーに泊まれなくなったから、こっちに泊めてもらうことがあるかもしれないけど」


「泊めてもらうなんて、ここはリュカが借りてる部屋でしょ」


これはチェリー。


「あと、一つだけお願いがある。もう、これから先、体を売らないで欲しいんだ。それだけ」

「うん、約束する」

「あたしも」


軽いな。本気だぞ。


「別に、好きでやってた仕事じゃないからね。それに、抱かれたら相手を病死させるってわかってたら、やれないよ」

「そうか。あと、ベッドが一つしかないから、今日は二人で使ってくれ。お金は渡すから、明日、買ってきて。俺は明日、ダンジョンに潜る予定だから」

「アタシとチェリーは何度も一緒のベッドで寝たことがあるから大丈夫よ。客に言われて、一緒に寝る以上のこともしたことあるし」


何をしたかは聞かないでおこう。


「で、今夜はここに泊まっていくでしょ。一緒に寝よ」

「いや、俺は台所で寝るからいいよ」

「そんなの、あたしたちが許すわけないでしょ」


一緒に寝ると男の性が活性化して、よく眠れないんだよ。


     ◇


「とりあえず、これで生活に必要なものとか食べ物を買って。明日はできるだけダンジョンで粘るから、ここに寄れるかわからない」


翌朝、二万ギルを渡しながら言う。


「こんなにいらないわよ」

「最初はやっぱり必要なものとか多いと思うし。ベッドも注文しておいてね」

「寝る用とヤる用ね」


違うから。


     ◇


少し寝不足だが、とりあえず森ダンに向かう。前回の儲けは一万三千八百ギル。彼女たちが住む部屋の家賃だけなら、二、三回こなせば1年分がなんとかなる額だが、食事や生活必需品を考えるともっと必要だ。


潜る階層は前回と同じだが、効率を上げて下級解毒ポーション三十本を目指そう。二十層までなら危険も少ない。サクサクと弱い魔物を薙ぎ倒しつつ、二十層に到着。


何回か潜るうちに魔物の行動パターンがわかってきたぶん、少し効率が上がっている。


さて、この階層で採れる薬草、実は前回“来るのが面倒な深い層だから”と多めに採ってしまい、余ったんだよな。前回の半分の量で良かった。


ということは、目標三十本なら前回の三分の二ほど採取すれば良いことになる。……少し余分に採るか。


採取しながら上の階層へと戻っていく。


ここは十七階層。


前回はここで採れる薬草が足りなくなって調剤が終了となってしまった。他の薬草の倍くらいの量を使ってたからな。今回は多めに採っておこう。


採取を続けていると、魔物が寄って来るのを察知した。五、六匹いるな。小さめの気配だが、速い。直線的な動きだし、これはミニボアだな。ミニとはいっても、柴犬くらいのサイズがある。


薬草が生えているエリアを荒らされたくないな。移動しよう。移動していると、前方にちょうど良い木がある。木に登ってしまおう。


木の上から矢を射る。ロングボウはこういうとき、ちょっと扱いづらいな。二匹目を仕留め、三匹目を狙うと、なんとそいつがジャンプしてきた。


え?!


ここ、三メートル以上あるんだけど。


ボアがジャンプするとは思っておらず、体勢を崩して木から落ちてしまう。残った二匹が突進してくる。木から落ちたばかりの俺は避けることもできずに突進をくらう。


腰に柴犬が突進してくることを想像してみて欲しい。


しかも、相手はモフモフしていない。


ミニボアの硬い頭蓋骨が俺の腰に衝突する。吹き飛ばされる俺。た、立てない。


腰の骨がどうにかなったようだ。


ミニボアはここぞとばかりに突進してくる。治療している隙がない。痛みを堪えながらゴロゴロと転がる。


剣は振れない。魔法しかない。とっさに火魔法を放つ。


火の球がミニボアへ向かうが、ミニボアはそのまま突っ込んでくる。幸い、火炎が目くらましになったのか、突撃は外れるが、このままでは駄目だ。


考えている時間もないので、次は水球だ。ミニボアはこれにも怯まず、水球に突っ込んでくる。


ならば風、いや土か。もう、生活魔法の乱れ撃ちだ。風と土の同時発動により土煙が起き、ミニボアがこちらを見失っている。


急いで腰を治し、気配察知で二匹のミニボアの位置を探り、剣を突き立てる。


あともう一匹いたはずだが。


もう一匹のミニボアは水球の中でもがいていた。


ミニボアは水に浮くらしく、足がつかないため水中でジタバタしているだけで、全く前に進んでいない。


剣でコイツにもとどめを刺し、ピンチを切り抜ける。


     ◇


酷い目にあった。


さて、実はミニボアの肉はそこそこ高い。体が小さく取れる肉も少ないため、狩りの対象としては人気がない。その分、値段が高いんだそうだ。ダンジョンに吸収されてしまう前に急いで捌き、肉を回収する。


気配察知で薄く広い範囲を索敵するが、もう魔物は近くにいないようだ。俺はそのまますぐに薬草の採取を続けられるほど、心が強くはない。今日はもう、そのまま帰ろうかと考えてしまう。


でも、ベネットとチェリーの家賃と食費を稼がないといけないんだよな。彼女たちの生活は任せろと言ってしまったしな。あまり不便をかけさせたくない。もうひと頑張りするか。


気力を奮い立たせ、採取を続ける。

そのまま上へ上へと採取を続け、なんとか解毒ポーション三十本ぶんの目途がついた。


     ◇


さて、ミニボアの肉はどうするか。今までだったら、普通に自分で調理して食べていた。ただ、今住んでいる寮にキッチンはない。都市部なので、野焼きにすることもできない。


ベネットとチェリーが住む部屋には台所がついているが、今のところ、調理器具も何もない。調理用の薪も買わないとな。このへんは、おいおいと整備していこう。ベネットの料理は意外と美味しいしな。


仕方がない。冒険者ギルドに売るか。


「五匹で四千ギルになります」


思ったより高額になった。もともと、王都は肉が高めだしな。


「リュカ様に、クララ様より手紙が届いています」


なんだろう?


読んでみると、どうやら闘気力ポーションが完成したらしい。持ってきてくれるそうだ。来週末、王都南部の停留所近くにある公園で待ち合わせだそうだ。ギルド待ち合わせにしてくれれば楽なのに。まぁ、わざわざ持ってきてくれるんだ。文句は言うまい。


     ◇


さて、ミニボアの件もあって、ずいぶん遅くなってしまった。


寮の門限は過ぎているが、薬草の下処理をしてしまいたい。仕方なく、こっそりと忍び帰る。


「スタンダー君、起きてる?」

「もう寝るところだったけど?」

「解毒ポーションの素材を採取してきたんだ。下処理を手伝ってよ」


ブツブツ文句を言いながらも、スタンダー君は手伝ってくれた。


三十三本ぶんの薬液が完成した。


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