第96話 典型的ないじめ
人に教えるためには、自分がしっかりできていないといけない。ライオネル君が魔力を回転させられるようになったら、次は絡み合う二本の螺旋だ。絡み合う二本の、ということは、魔法力の線を二本作らないといけないことになる。まずはそこからだな。
本来は体内でできないといけないのだが、まずは体外でやってみよう。親指と親指、人差し指と人差し指で魔力を通す。指はつけたままだ。ここまでは簡単だ。二本の魔力の線ができている。だが、人差し指と親指へ流れる魔力の線は、手のひら中央くらいまでは一緒だ。
ここから枝分かれしている。この枝分かれしている部分を徐々に手首に近づけていく。なかなか難しいが、ライオネル君だってそんなにすぐに魔力を回転させることはできないだろう。
地道にやっていこう。
◇
ある日、武術の授業から教室に戻ろうと歩いていると、前から変な歩き方をしているダイアナが現れた。
よく見ると、靴を履いていない。
「ダイアナ、どうしたの? 靴がないみたいだけど」
「靴入れからなくなってたのよ」
なんか、定番中の定番って感じのいじめだな。
「一緒に探してあげるよ。心当たりは?」
「それが、全くないの」
いじめで隠されたなら、心当たりがあるわけないよな。いかにもありそうな場所、ゴミ箱や教卓周りを探すが見当たらない。定番の焼却炉とかドブとか、学院内にないしな。
「もういいわ。授業が始まっちゃう。ありがとうね」
「放課後、また探してみよう」
◇
さて、放課後はスティーブも巻き込んで探したが見当たらない。裸足で探すのも大変だろうということで、とりあえず今は研究室で休憩中。
「私、家が遠いからそろそろ帰らないと」
裸足でか?昔履いてた靴とかないかな?ロッカーの裏から魔法の収納を出し、探してみるが古い靴なんて入ってない。入れた覚えもないしな。だが、一角ウサギの皮が何枚か出てきた。なめしてないからガチガチだが、少し煙でいぶしてあるので腐ってはいない。
「こんなのがあった。ダイアナ、足を見せて」
足、小さいな。女の子の足ってこんなに小さいのか。
大ざっぱに足を覆えるくらいに皮を切り取り、整形していく。
足の甲がくるあたりに何個か穴を空け、紐を通す。かかとの部分にも穴を空けて、足首を紐でくるりと巻く。
「これで家までなんとかなるかな?」
紐は残念ながら赤と白だが仕方がない。ライオネル君に説明するときに使った紐だ。
「リュカ、変なところで器用だよね」
変なところって言うな。
「ありがとう、大丈夫だと思うわ。丈夫そうだし」
「返さなくていいからね」
返されても困る。
「うん、一生の宝物にするわ」
それも困る。
◇
靴は翌日、発見された。発見現場は校門の上。そんなところには昨日はなかったから、今朝早くに誰かが置いたのだろう。
そして、第一発見者はなんとヘインケル様だ。なにやら靴を囲って取り巻きと話している。取り巻きに獣人もいるんだ。
「あぁ、ダイアナ。君の靴が見つかったぞ」
ダイアナが靴をなくしたことをどこで聞いたんだろう?ヘインケル様は一年生の中に情報源がいるのかな?
「ありがとうございます」
ダイアナは俺が作った靴もどきを履いてきた。いや、そこは別の靴で登校してこようよ。
「低俗なことをやるものだ。精神年齢が幼いのか。いずれにせよ、その靴では不便だろう。履き替えると良い」
「いえ、少し汚れているようなので洗ってからにします。ありがとうございます」
これで一件落着、なのかな?
結局、ダイアナは一日、あの靴もどきを履いていた。
◇
さて、待ちに待った週末。ダンジョンへと向かう。スタンダー君から初級解毒ポーションに必要な素材は聞いてある。いざ、森ダンへ。
ソロでの森ダンも慣れたものだ。とりあえず、とっとと二十層へ。これくらいの階層ならロングボウが効くから簡単である。
この層で必要な薬草を集める。初めて聞く薬草もあり、探すのに手間取ったが、二十層で必要なものを集めて上へ。やっぱり、どうしても採取に時間が取られるな。
必要なものを集め、ダンジョンを出たときにはすでに夕方遅くだった。これは、中級ポーション素材の日帰りは完全に無理だな。
とっとと寮に戻り、下処理をする。
◇
「で、これはどうするの?」
「それは、そのまま水に一晩浸しておいて」
「こっちは?」
「それは乾燥だね。半乾きで良いよ」
スタンダー君に下処理を習う。スタンダー君、手際が良い。彼、調合もできそうだな。
「ホントは、調合方法は秘密なんだけどな~」
翌朝、全ての調合を済ませた。全部で二十三本だ。
「二年生のファルマチータだ。一本で六百ギルだったな。やらせてもらおう」
神聖力の動きを見る。ポーションを作るときと似てるようだけど違う。
「腕を触ってても良いかな?」
「エロ目的じゃなければ良いぞ。これでも婚約者がいるんだ」
神聖力の動きを詳しく見たいだけです。作業は午前中に終わった。あとは、これをスタンダー君に渡せば終わりだ。
「商業ギルド経由でやる?」
「え? リュカ君、商業ギルドに入ってるの?」
「一応ね」
三万六千八百ギルの取引。大きな取引ではないが、せっかくだからギルドを通そう。
ギルドで契約書を交わし、取引成立。支払いはギルド経由で二か月後にしてあげる。
それだけ時間があれば、スタンダー君も全て捌けるだろう。
◇
商業ギルドを出、そのままジェニファーの家に行く。スラムでの治療を終えると、南東のスラムの取りまとめ役がいた。
「あなたとは取引しないと言ったはずだけど?」
「前は済まなかった。是非こちらにも来てもらいたい」
まだ昼を少し回ったくらいだ。行ってみるか。
「いいだろう。案内してくれ」
南東のスラムに行ってみることにした。ジェニファー、君もついてくるんだ?
南東のスラムも、南西のスラムとそんなに違いはなかった。南西のスラムより規模が少し大きくて、より荒れてるくらいかな。
「王都では南のスラムが一番デカい。あっちは他の領から来たヤツとかもいるしな」
他の領から仕事を求めて王都に来る人は、南の方の工業地帯で仕事を求める。で、仕事にありつけない日々が続くとスラムに流れるらしい。
治療は三十分程度で終わった。初日だからか、怪我人の数は南西のスラムよりも多かった。少し遠いけど、毎週来れるかな。午後だけで南西と南東、どちらも回ろうと思えばできそうだ。
「また来週来る」
そう言い残し、帰路につく。帰路といっても、行先はジェニファーの家だ。
◇
「じゃじゃーん、どう?」
水球の大きさがかなり大きくなった。子供の頭くらいの大きさかな。
「さーらーに」
火魔法で温める。ある程度温めると、ジェニファーは火を消した。
「完成!」
水球に手を突っ込むと、ほどよい温かさだ。
「この大きさと持続時間だと全身は洗えないけど、気になる部分は洗えるわ。このあとも上達するだろうし」
パチパチパチ。
素直に拍手してあげる。すごい上達ぶりだ。
「でも、今日もお湯を出して。やっぱり、たっぷりのお湯で全身を洗うのは外せないの」
結局、風呂魔法をやらされた。
「あと、石鹸なんだけど、植物油の方も固まったわ」
二回蒸留したアロマもそこそこの量ができている。
「じゃあ、来週はアロマを入れてみようか」
「うん、そうする。こっちの植物石鹸はお母さん用ね」
ジェニファー本人はあくまで最初に俺が渡した、購入した石鹸を使うようだ。




