第95話 図書館
今日はひたすら槍を回している。いや、回しているのは槍の先端だけだ。前側の持ち手はあまり動かさず、後ろ側をくるくる動かすことで先端を回す。
「よし、逆だ」
今度は反時計回り。この動き、役に立つのかな?
俺とスティーブは向かい合いながら、この動きを続けさせられた。
◇
さて、ようやく図書館の入館許可が出たので、放課後は図書館に行ってみる。受付で補償金を払い、入館許可証をもらう。この補償金の額、一般市民は入るのが難しそうだ。歴史関係の棚をまわり、課題に必要そうな本をピックアップしていく。
本は持ち出せないので、図書館内のデスクで必要そうな情報をメモしていると、声をかけられた。
「や、やぁ。りゅ、リュカ君だよね」
誰だっけ?
どもりが印象的だから、知らないわけじゃないんだが。
「やぁ、ライオネル君。君も調べもの?」
思い出した、ライオネル君だ。
「そ、そう。リュカ君は、れ、歴史に興味が?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。ほら、歴史の課題が出たじゃん。あれの調べもので」
「そ、そうなんだ。ぼ、僕は個人的な、し、調べものがあって」
話を聞くと、彼は昔からどもりのせいで周りにからかわれていたらしい。それが悔しくて、猛勉強して学院に入ったが、周りの反応はイマイチ。
彼をからかっていた人たちは、彼が勉強はできるけど腕力がないから、優位に立てる部分でからかっていたのだろう。そんな状況で彼が学院に入っても、劣等感を刺激するだけだぞ。
「ぼ、僕は、闘気力はないから。で、でも、魔法力はある。ま、魔法使いになれるほどじゃないけど」
で、彼は魔法力で力を上げる方法があると聞いて、図書館で調べているらしい。いや、そんなヤツらの土俵で戦わなくても、自分の土俵で戦えばいいのに。
「にゅ、入館申請は大変だったけど、ようやく見つけたんだ」
入学前から申請し、許可が出てから時間があれば図書館に来ていたらしい。
どうりで学院であまり見かけなかったわけだ。
◇
魔法力で力を上げる方法。
これは禁忌に近いらしく、何かの本にやり方が書いてあるというわけではなかったらしい。ただ、ところどころにある記述や、その記述を書いた人の自伝なんかをたどり、なんとか手法にこぎつけたようだ。
その手法の名前すら秘匿されていたっぽいので、かなりの苦労だったろう。
「で、でも、お、思ったより難しそう」
これは魔法ではなく、どちらかというと魔力操作による効果なんだそうだ。回転する魔力を筋肉に通す。これはフリーデガルトの闘気浸透撃と似ているな。
ただ、違うのは“絡み合う二本の回転する魔力”を通す、という点だ。
「ちょ、ちょっと、い、意味がわからなくて」
“絡み合う二本の回転する魔力”は、魔力を二重螺旋みたいにするのだろうか?
回転の向きもわからないな。
「りゅ、リュカ君はわかるかな?」
なんとなくイメージはできる。
「わからないでもないかも。今度、放課後説明するよ」
「あ、明日でいいかな?」
すごい食いつきだ。
「うん、じゃあ明日に」
今日は課題の調べものをやらないといけないからな。
◇
授業の中でも意外と面白いのが神学だ。この世界の物語では、ときどき女神が出てくる。
女神が神かどうかとか、どうでもよい議論はあるが、興味深いのは“女神様が残した言葉”みたいなのがときどき出てくることだ。
前世でも神が言葉を残したという言い伝えは多い。だが、この世界には予言系のスキルなどがあるため、神が残した言葉を信じている人は多い。問題は、いくつかの言葉について解釈が難しい点だ。
「女神様の言葉にある、“職業システムは呪いです”と、それに続く“呪いが解かれたとき、あなたは真の力を発揮するでしょう”の解釈は様々です」
職に就くと一日十二時間、毎週六日労働が三十五年続く呪いにかかります、的な?
年間休日百二十五日は幻なんです。
「女神様が職業システムをおつくりになったのは、“外の世界からの侵略者”に対抗するためだと言われており、この“外の世界からの侵略者”が魔物を指すことは、何人もの予言者による証言から確定しています」
この“予言者”ってのは、巫女とか祈祷師とか、予知系のスキルを持った者たちだ。
“予言者”一人が何か言ってもあまり信用されない。
実際、予知系スキルによっては予知かどうかわかりにくいのもあるし、外れることもあるしな。ただ、多くの“予言者”が同一の内容について語った場合は信憑性が上がる。
たぶん、この件でもそうだったのだろう。
「次の授業はスキルについてお話しします」
スキルも女神様がらみか。
まぁ、そうだと思ったけど。
◇
さて、放課後だ。
学院の魔力阻害は教室だけにかけられているが、学院のキャンパス全体でなんか魔力操作がしにくかったりする。
各教室のどこかに複数設置されている魔力阻害の魔道具が干渉しあって、学院全体でうっすらと阻害されているんだとか。周辺魔力の影響もあって、この“魔法使いにくいスポット”は日々移動する。というわけで、学院の外に出てきた。
「ライオネル君は、魔力操作は得意?」
「と、得意じゃないけど、ずっと練習はしている」
ライオネル君は緊張するとどもりがひどくなるそうで、今日は前よりマシだ。前は緊張してたんだろうか?俺に?
「何か使える生活魔法はある?」
「水だけ」
真ん前にバスケットボール大の水球を出してくれる。意外と大きいな。
「毎日、魔力を使い切ると魔法力が上がるらしいよ」
「や、やってるけど、難しいよ」
そう、完全に消費ってのは実は難しい。ほんの少しだけ使い切れない魔法力が残ったりする。その点、“祈り”系は便利だ。勝手に魔法力が全部使われるからな。
「じゃあ、これはできる?」
ライオネル君が出した水球に、回転する魔法力を通す。水球内の水は魔法力に沿って回転し、螺旋状に水が飛び出す。
俺を真似、ライオネル君は水球を作って、それに魔法力を当てようとする。うまくできないようだが、練習すればできるだろう。
「その練習、別に自分で出した水球でやる必要はないからね」
「わ、わかった。で、できるようになったら声をかけるよ」
◇
「さて、次は“絡み合う二本の回転する魔力”だけど、これは俺もできない。でも、何を言ってるのかはわかると思う」
俺は用意しておいた紐を二本出す。赤白の色違いだ。
「この状態が、魔力を真っ直ぐに出す状態だとすると、今やった回転する魔力はこんな感じだ」
赤い方の紐をねじる。ライオネル君はそれを見ながら頷いている。
「で、“絡み合う二本の回転する魔力”はこんな感じだと思う」
今度は赤と白の紐を合わせてねじる。絡み合う螺旋の完成だ。
「お、おぉ!」
これを魔法力でやるのは難しそうだ。
「や、やってみるよ」
まずは魔法力を回転させるところからだな。




