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第91話 恋愛相談

シクシクと泣くダイアナと、突っ立っているヘインケル様。

絵にならないな~、などと考えながら近づく。

さて、第一声、何にしよう。だが、第一声は別のところから発せられた。


グゥゥ~。


揉め事の最中から空腹を我慢してきた俺の腹は、もう耐えられなかったらしい。腹の虫が盛大に音を鳴らした。こちらを見上げるダイアナ。少しして、クスクスと笑い始めた。

ヘインケル様はフリーズしている。


「床に落ちてないサンドイッチと唐揚げを詰め直して持ってきました。まだ食べられると思いますよ」


弁当箱を差し出す。それを受け取り、開けて確認するダイアナ。三分の二ほど残っているのを見て、少し安心したようだ。


「私が、庶民が食べる弁当を食べてみたいと我儘を言ってな。ダイアナが作ってくれたんだ。早起きをさせてしまった末にこんなことになって」


再起動したヘインケル王子。いいぞ。あとは若い者同士でやってくれ。


「まだ二人分としては十分な量がありますよ。かなりの力作です」

「そ、そんな。あ、でもリュカ君もお腹が空いてますよね。少し食べていきますか?」


あの腹の音のあとで、空腹を否定することはできないな。


「じゃあ、唐揚げを一つ。すごく美味しそうだったので」


唐揚げを一つつまみ、口に放り込む。

うん、美味い。


「では、私はこれで」


咀嚼しながらその場を去る。去り際、さきほどの男子学生が何やら紙切れを渡してきた。


「これで食堂の最高級コースが食べられます」


ありがたくいただいておこう。


     ◇


最高級コースは最高だった。


教室に戻ると、意外にも平常状態だった。まぁ、コース料理を食べると時間がかかるからな。そのため、学院の昼休みは長めに設定されているが、弁当派などは時間を持て余していたりする。


「ヘインケルは大丈夫だったか?」


お、ルートヴィヒ王子、存在感なかったな。


「無事だったお弁当、食べてましたよ。悪くない雰囲気でした。それにしても、王子だっていうのに毒見とか必要ないんですかね?」

「王族は皆、“毒耐性”の強を取得しているし、傍に控えておる者は解毒が使える僧侶だ。まず問題は起こらん。しかし、“悪くない雰囲気”というのはあまり良くないな。ヘインケルの婚約者はあくまでアレクシア嬢だ」

「恋愛感情はまだなさそうでしたよ」

「“まだ”か。それにしても、お主、リュカ・フォン・ヴァルクレインで間違いないな。貴族の身分を隠しているのか?」

「覚えてくれていましたか。特に貴族の身分を隠しているわけではないのですが、逆に、貴族であることをひけらかすつもりもありませんので」

「以前のクラウディアとの対戦は楽しませてもらった。そういえば、あのときの褒美をまだ与えていなかったな」

「よくそんなことを覚えていますね」

「会った者の顔や褒賞、もらった献上品などを覚えておくのは王族必須の技能だからな」


俺には無理そうだな。


     ◇


午後の授業は普通に始まり、何事もなく終わった。アレクシアは取り巻きにきっちり囲まれているし、ダイアナもあえてアレクシアに近づかない。波風が立っているのは、どちらかというと俺の周囲だ。


「で、どうだったんだ? ヘインケル様とダイアナ嬢はいい感じだったのか?」

「別に、俺は弁当箱を渡してすぐに去ったから」


うざい。

自分で見に行けば良かっただろうに。


「アレクシア様も凄いよな。恋敵が作ってきた弁当を叩き落とすとか」


変な噂を広めるな。あれはどう見ても事故だったろうに。休み時間、アレクシアは何度かダイアナの方に向かって行こうとしていたようだが、取り巻きに阻まれていた。


揉め事の続きをするつもりか、それとも弁当叩き落としについて謝ろうとしているのか。でも、考えてみれば、この件も“人の婚約者を誑かす”の範疇に入りそうだしな。


“お弁当を作ってあげる”は、アタックとみなされてもしょうがない。


遺恨が残らなければいいんだけどな。


その週はその後、変わった事件も起きずに無事終了した。


     ◇


「リュカ曹長、今日で最終日ですね」

「はい、おかげさまで。これで二十四か月分の手当がもらえます」

「ここでの勤務は減額になるわよ」


さすがにそこに文句はない。その日の勤務を終えて退勤する。なんか、せっかくだから祝いたい気分だな。


「外に飯に行かないか? 奢るよ」


寮に戻り、スティーブに声をかけた。


「何かあったの?」


今日で軍務が終了したことを伝える。


「お金も入るはずだしね」


ちょっと高めのレストランに行き、食事をした。祝い事で野郎と二人で飯ってのも色気がないな。酒を飲む年齢なら、食後はバーに行ったりするのだが、俺はまだ十三歳。この世界では、これくらいの年齢から飲み始める人もいるが、大多数はまだだ。


「まだ早い時間だし、最近できたケーキ屋にでも行こうか?」


ぱっと明るい顔をするスティーブ。わかりやすい。酒を飲まないと甘味に走るっていうしな。ケーキ屋に入り、注文する。運ばれてくるのを待っていると、別の客が入ってきた。あれ、見覚えがあるな。


「ユリとユキナだね」


俺が“誰だ?”と考えていると、スティーブが教えてくれた。


「ほら、ユリはピスタの婚約者で、前にちょっと話題になった」


あぁ、あれか。


     ◇


席はちょっと離れている。向こうは気が付いていないし、放っておこう。運ばれてきたケーキとお茶を堪能する。この世界のケーキ、やっぱりボソボソしてるんだよな。


あと、生クリームが使われていない。ここらへんは冷蔵庫の存在が大きいのかな。


向こうのテーブルではユリが泣き始めた。ユキナが慰めている。いや、どっちがユリか知らないけど、たぶん泣いてる方がユリだろう。


しばらくするとユリが席を立った。便所か?


すると、相対していたユキナがこちらに気が付いた。軽く手を振っておく。すると、ユキナは店員さんに声をかけ、こっちにやってきた。


「スティーブ君、リュカ君、こんにちは。ご一緒していいかな?」


確かに四人テーブルに二人で座っていたから、合流することは可能だけど、なんで?


「いいよ、どうぞどうぞ」


俺が答える前にスティーブが答えた。


「ここ、よく来るの?」

「いや、リュカが奢ってくれるっていうから」

「あら、あたしたちもいい?」


おい、たかる気か?


「冗談だって」


答えに窮していたら、笑って冗談だと言ってくれた。


「今日は特別な」


貯金がないわけではない。この二人は貴族だったはずだが、だからといってお金に余裕があるとは限らないしな。


「あ、こっちこっち」


ユキナは戻ってきたユリに合図した。


「あら、こんにちは。合流したんだ」

「そう。やっぱり、男子の意見も聞いておかないと、って思って」


     ◇


「ユリはね、ピスタの婚約者なの。知ってた?」


俺とスティーブは頷く。


「で、知ってるかもしれないけど、最近ピスタはダイアナにばっかりかまってユリの相手をしてくれないんだって。ね?」


ユリはうつむいている。


「まず聞きたいんだけど、ダイアナって男子から見てそんなに魅力的?」


え?これって、何が正解?魅力的って答えると“ユリより?”って質問が降ってきそうだ。

逆に魅力がないと答えると、じゃあなんでピスタはダイアナを追っかけてるんだってことになる。


「う~ん、顔は整ってるし、性格もさっぱりしてて悪い人じゃなさそうなんだけど」


悩んでいたら、スティーブが答えてくれた。


「じゃあさ、じゃあさ、婚約者がいても、その魅力に引っ張られて、肝心の婚約者を蔑ろにするくらい?」


スティーブは俺の方を向く。今度は俺が答えろってことか?


「ユリさんみたいな、かわいい婚約者がいたらダイアナさんに惚れるってことはないと思うよ」


“かわいい婚約者”のところで、ユリが顔を上げた。


「じゃあ、なんでピスタはダイアナと一緒にいたがるの? 二人でいるときだって、“ダイアナはこう言った”とか“ダイアナならこうした”って、ダイアナの話ばっかり」


ピスタ、それは最低だぞ。でも、ユリはそんなピスタの行動に悲しんでいる。まだピスタのことを嫌いになったわけではないんだろう。


「ダイアナの考え方が目新しいだけだと思うよ。彼女は庶民だから、貴族とは考え方やものの見方が違うから」

「ピスタは結局、どうしたいのかな?」


知らん。ピスタに聞いてくれ。


「ねぇ、リュカ君。ちょっとピスタにユリのこと、どう思ってるか聞いてきてくれないかな?」


俺、ピスタと交流ないんだけど。その後、しばらく話し、俺がピスタの考えを聞いてくることになった。


俺、ピスタと接点ないんだってば。


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