アスカ前編 5『ディランの海岸』
町の外。町から少し離れた林の中に、その小屋はあった。
エイデの言った通りのボロボロの人は住んでない小屋。
そこで、シアーナとアスカは此処でエイデが来るのを待っていた。
正確に言えば、シアーナは小屋の中で。アスカは小屋の外で。
いつだって、逃げられるようにシアーナは小屋の端にいる。子供一人通れる大きさの穴を見つけたからだ。此処からなら逃げられる。そう判断して。穴の前に、蹲る。
「あ、きたきた!」
アスカが声を上げたのは、シアーナが穴の確認を、再度行っていた時。
移動して、窓の外から除けば。アスカが町から出て来た、待ち人に手を振っているのが見えた。
よく見ても、遠くの陰は一つかいない。
シアーナは警戒しつつも、小さく息をついて。僅かに、安堵を浮かべるのである。
◇
「悪い、待たせたな」
「あれ!服装が変わっている!」
小屋の中。エイデは、人の好い笑みを浮かべる。
アスカは、エイデを前に声を漏らす。
当たり前か。彼の格好は先程と変わっていたから。
先ほどは「the村人」という簡単な物だったが。
今は、シャツにベスト、皮のパンツ。見た目からしても動きやすい服装に変わっている。
シアーナには見覚えがある。
初めて彼が、この世界に来た時に纏っていた服装だ。
旅をするなら、慣れた服装の方が良いと言う事か。楽しそうに談笑する二人から、シアーナは目を逸らし、相変わらず部屋の隅で丸くなる。
アスカが「こほん」と話を戻したのは、それから少し経ってから事。
「そう言えば、買い物終わりましたか?」
「………」
アスカは視線をチラリ。エイデが背負っている鞄を見た。それはシアーナも同じ。
その視線に気が付いてか。エイデは声を漏らす。
「思ってたより小さいって顔してんな」
「うん!私もっと大荷物で来ると思ったよ!」
エイデが背負って来たソレは、小さなリュック。
先ほどの彼の話を聞く限り。大きなカバンを背負って来ると考えていたシアーナからすれば、以外の一言でしかない。そして、それはアスカも同じだ。素直に言葉にする。
エイデは小さく笑った。
「この町は小さくてな。いい品が見つからなかった。だから隣の、もう少し大きな街に行こうと思って、必要な物しか買ってこなかったんだよ」
そう言って。彼は、鞄から丸まった紙を1つ取り出す。それはどうやら地図の様だ。
小屋の中、ただ唯一の家具であるテーブルの上に、エイデはその地図を広げた。「それじゃあ」と前置きして。
話が始める前に、アスカも地図をのぞき込む。
「さっそく…ディランの居場所だが」
「遠いんですか?」
アスカが問う。しかし、エイデは直ぐに首を横に振り、地図の一つを指で示す。
「いや、言っただろ?――ほら、直ぐここだ」
状況が見えない。仕方が無い。
シアーナが渋々と、テーブルの側へ。のぞき込む。
エイデが指差す地図の上。
それは、この小さな町の隣にある、もう少し大きな街――……。
――では無く、町と街の間にある大きな海岸であった。
「え、ここ?」
アスカが驚き、エイデは大きく頷く。
「ああ、ここだ。この海岸をアイツは住み家にしている」
「………」
シアーナは何も言わない。むしろ前と変わらないな、と思ったほどだ。
なにせエイデの言う通りだ。彼が指す、海岸こそディランと言う“海の神”の住み家であるからだ。
首を傾げたのはアスカだった。本当に居るの、と言う様に。
いいや、何か疑問に思ったらしく「キリ」とした表情。
「あの、この地図、この町と海岸と隣街しか描かれてないんですけど?」
アスカが再び問う。その様子にエイデは苦笑を浮かべるように頷いた。
当たり前かもしれない。だってアスカの指摘した通りだ。
広げられた地図には、この「町」と隣の「街」。そして、大きな「海岸」しか記されていないのだから。
つまり、他の街々が書かれていないのだ。地図の隅には「ディランの海岸」
シアーナは小さく息を付く。この理由を彼女は知っている。
「――気持ちはわかる…。コレは、「ディランの地図」だ…」
そして、エイデも地図の見方は、勿論知っている。
エイデの答えに、傾げるアスカ。彼は続けた。
「なんて言うか、簡単に言うとな、ディランって“神”が縄張りにしている地域だけを記したものだ」
「ええ…」
困惑の声をアスカが漏らす。
仕方が無く、シアーナはそれに補足するように言葉を投げる。
「……好き勝手に、自分の治める『国』を決めて。さらには“神”は自分の名前を付けているんです。ディランの場合は、この町と隣の街。海岸も合わせて『ディランの海岸』と呼ばれています」
「え、ええ」
もちろんだが、之にもアスカは困惑。
コホンと咳を漏らしたのはエイデ。
「いちおう、フォローしておくと。ディランの場合は勝手に人が集まって来ただけらしいぜ?で、勝手に名前を付けられたとか」
「……それを受け入れている時点で、アイツは“神”なのです」
そんなフォローをシアーナが受け入れる筈無いのだが。
「ま、まぁ。海岸は歩いて30分程度の場所だ。直ぐ着くよ」
エイデは苦笑を一つ。地図を鞄にしまった。
さて、と。彼が本題に戻ったのは直ぐの事。
持っていたカバンを、改めてテーブルの上に置く。
「じゃ、お前たちはコレに着替えてくれ」
彼の言葉に少女2人は、目を大きくさせた。
「?それは何」
最初に覗き込んできたのは、アスカだ。
興味津々に鞄の中をみて。「おお」と、彼女は直ぐに声を漏らし、手を伸ばすと。
「シアーナちゃん!見てよ、可愛い!」
その白と青の可愛らしいワンピースを
鞄から取り出して、シアーナに見せのである。




