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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
始章 暁の魔女
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アスカ前編 4『ディランの海岸』



 「よし!決まりだ!あいつならこの近くにいるだろう。直ぐにでも返事は聞けるはずだ」


 シアーナの返事を聞いて、一番に反応を示したのはエイデだ。

 フードの下から不服な視線を彼に飛ばす。

 そんなに、こいつはディランと言うストーカーに自分を合わせたいのかと、唇を噛みしめる。

 わなわな震えるシアーナにアスカも、何とも言えない表情を一つ。エイデへ向けた。


 「あの、エイデさん……。言った手前、アレなんだけど。そう急かさなくても」

 「だめだめ。やっぱり行きたくないって言いだす前に動くのが、ちょうどなんだよ!」


 しかしエイデはアスカの視線も、シアーナの視線をものともせず。

 まるで、急かすようにと正座する彼女の細い両腕を掴むと、軽々と持ち上げ立たせるのだ。

 シアーナは思い切り顔を顰める事になったが。


 「それに、旅をするなら買い出しが必要だからな」


 そんな彼女からあからさまに、目を逸らしてエイデは部屋の奥にあった戸棚へと向かう。

 中から何やら小さな袋や、ナイフなどを取り出して、次はクローゼットへ。

 衣服を引っ張り出すと、これまた部屋の隅にあったベッドへ放り出す。

 どうやら、旅の為に準備するらしい。


 「………旅の準備なら、私、してきました」


 そんな様子を見て、シアーナがポツリ。

 エイデは無言のまま、彼女の元へ。

 手に持つ小さなリュックを見下ろすと、大きな手で、シアーナの頭を撫でる。

 撫でられた本人は嫌な顔を浮かべたが。


 「これじゃあ足りない。少なくとも、次の街までの食料数日分と、最低限の道具が必要だ。毛布と、ランプとかな。小さくてもいい、鍋も持っていた方が良いだろう。身体が冷えた時、暖かい飲み物は助けになる」


 あまりにテキパキと。ダメ出しと助言。

 呆然とするアスカとシアーナ。シアーナは心の隅で思った。

 そうだった、こいつは元の世界では『冒険者』とか言う存在だったと。


 冒険者、すなわち世界のあちこちを旅して生活する集団。

 つまりは旅のエキスパート。

 旅なんて、百年近くしていないシアーナからすれば手も足も出ない存在。

 シアーナは無言で、鞄を隠すしか無かった。


 「……俺は、パーティ……じゃないな、旅メンバー全員分の必需品をもつ。たが、個人個人となると更に別だ。必要な物が変わってくるからな。むしろ一人に押し付けるより、数人で分けて持っていた方が良い」


 エイデはそう言って、今度はシアーナの頭を軽く叩く。

 まるで「ソレは無駄じゃないぞ」と言わんばかりの行動。

 シアーナは顔を顰めたが。エイデは溜息。


 後ろ手に隠した鞄を奪い取り、エイデはテキパキと中を確認すると。

 お金が入った袋と、保存の聞く食料だけを取り出して。シアーナに手渡すのだ。

 

 「お前はそれだけで十分。鞄も大きすぎる。後で俺が用意するから。後は此処に置いていけ」

 「………」


 これには、無言でムスりとするしかない。

 側では思わずアスカが拍手を零す。


 「すごいエイデさん!ベテランみたいですね!」 

 「………一応、ベテランのつもりだからな。さて、こいつだけじゃない。お前もだ」


 シアーナが終わって。エイデの視線はアスカに向かった。

 と言っても、彼女はシアーナと違って荷物と呼べるものは余りない。

 腰に差す。細い剣ぐらいか。

 そればかりか、エイデはアスカの今の格好を見て、眉を顰めた。


 「………分かった。この町で少し買い物をしてこよう」


 今現在、必要な物をあらかた理解したようで。エイデが頷く。

 その言葉に、シアーナが眉を顰めて、アスカは目を輝かせた。

 どうやらアスカの方は異世界の町に興味が有るらしい。シアーナは御覧の通りだが。

 エイデは溜息を零す。


 「悪いな。買い物は俺一人で行く。そいつ、着いてくる気もなさそうだし」


 すかさず指摘。

 アスカはシアーナの様子を見て、オレンジ色の瞳を大きくさせる。

 彼女が、笑ったのは次の時だ。


 「分かりました!シアーナちゃんと待っていますね!」


 シアーナの腕に抱き付いて大きく頷く。

 勿論だが、いきなり抱き付かれたものだから、シアーナは驚きアスカの顔をまじまじと見つめる。

 しかし直ぐにフードを深く被ると目を逸らして、身体をそむけ、抱き着く腕を振り払った。


 別に嫌な訳じゃない。アスカの行動度突拍子も無さ過ぎて、困惑するしか無いのだ。

 その時のアスカの表情は見ることは出来なかったが。

 

 その様子に、エイデは小さく笑んだ


 「じゃあ、町の外で待っていてくれるか?町の外に、古い小屋があってな。そこで待っていてくれ」


 エイデのこの言葉に、思わずアスカが首を傾げる。


 「え、此処じゃ駄目なんですか?」


 もっともな質問だ。だが、時間は現在おそらく8時ごろ。


 人が本格的に動き出す時間である。エイデの紫の瞳がシアーナを見る。

 目があった瞬間、シアーナは激しく首を横に振った。ボロ屋とはいえ、此処は人の住む町の中。

 これ以上彼女は此処にはいたくなかった。人が多くなるなら尚更だ。

 エイデは呆れたように息を付く。


 「こいつ、人見知りが激しいから。此処()に居たくないとさ」

 「――……なるほど!」


 彼の一言に、アスカは酷く納得したように頷いた。


 「だったら仕方がない!」

 アスカはシアーナの腕をもう一度掴む。

 「町の外で待っていますね!」

 と、驚くほど素直に、柔軟に受け入れるのである。


 シアーナは終始無言でしか無かった。

 彼女からすれば勝手に話が進んだとしか言えない。。


 結果、自分とアスカは町の外で待機。エイデが必要な物を買いそろえて来る、との事だけは分かった。

 其方に関しては、「有難い」の一言であるが、アスカを見る。

 彼女がこんなにあっさりと、笑顔で、現状を受け入れてくれたことに驚くしか出来なかったのである。


 「あ、エイデさん!神様に会いに行くならあれですよ!お供え物買ってこないと!」

 「え?ああ、いらねぇよ。ディランはそう言うの、嫌うんだ」


 呆然としていると、目の前で2人の会話が流れるように進む。

 漸く我に返ったシアーナはアスカの手をもう一度払うと、慌てたように距離を取った。


 「あの……」

 「ん?」

 シアーナの様子にアスカが首を傾げる。


 「………わ、私との、き、きょり、近くないでしょうか……」

 「え、そんなこと無いよ!」

 「………そ、そうじゃなくて……」


 言いたいことが言い出せなくて、俯く。

 何故、彼女は此処まで受け入れるのが早いのか、聞きたいのはそれだ。


 小屋で待つのは良い。でも、ソレはシアーナ一人で良いはずだ。


 アスカがこの町に興味が有り。自由に町を歩きたいなら、歩けばいいのに。むしろ町を散策する事を望んでいたようだったのに。

 彼女は当たり前に、自分の側にいる事を選んだ。――……それはどうして?

 でも、その問いは口には出せない。


 「あ、もしかして……私がエイデさんに着いて行かなかったのが不思議とか?」

 正に、正解をアスカが出す。


 「………」

 「おお、正解か!」


 彼女はシアーナの反応を見て笑った。

 アスカの手がシアーナの頬に伸びる。


 「簡単よ、シアーナちゃん」

 「………」

 「一人でお留守番なんて、寂しいでしょ?」


 そう、彼女は、また笑顔を浮かべた。

 あまりに理解が出来ない言葉に、シアーナは不思議そうに首を傾げ見る。


 「おい、今のじゃ伝わらないぞ」


 まるで、フォローを入れるようにエイデが苦笑を零した。

 「あれ?」と同じように首を傾げたのはアスカだ。

少し悩むように顎に手を添え、ポンと手を叩いたのは直ぐの事。

 彼女はシアーナの手を握り言った。


「私は町の散策より、シアーナちゃんの側にいたいのです!だって、貴女今にも逃げていきそうだから!だから私は見張りなのです!」


 ――……シアーナは肩を震わした。アスカは続ける。


 「だって、どうしてかは分からないけど、貴女はエイデさんを怖がっているでしょう?人さらいを見るような目で見ていたもの」

 「――……っ」


 息を、飲む。

 思わずと、エイデを見た。エイデは苦笑。頬を掻く。

 気が付かれていた。この様子を見るに、アスカからも、エイデからも。

 エイデが此方を見る。シアーナは目を逸らす。――……怒られる、そう思ったから。


 「俺は気にしてない。その視線には気が付いていたからな」


 だが、彼はすんなりと許してくれた。ただ、その言葉が本気かは分からない。

 余計に怖くなって、今すぐ逃げたくなった。


 「あ、まてまて!」

 慌てたような声と共に、白い手がシアーナの手を取る。

 温かな手の、少女が真っすぐに見つめていた。


 「ねえ、それに実は思っていたでしょ。エイデさんが居るから、もう安心って。自分が居なくてももう平気だって、思っていたりしない?」

 「………」


 逃亡の権利を失った中で。アスカのオレンジの瞳に自分が映っていた。

 彼女の言葉に、大きく肩が震える。

 同時に俯く。全てが当たっていたから。

 

 「残念ね。シアーナちゃん」


 アスカが言う。おそる、おそる、シアーナは目だけを上げる。

 オレンジの瞳が、優しく細くなり。

 温かなアスカの頬笑みが、瞳に映った。


 「私は私を助けてくれる子を、そんなに簡単に手放したりしません!」


 キラキラした笑みで、彼女は迷いもなく、言葉を真っすぐに当てるのだ。

 まただ。シアーナは目を逸らせなくなる。

 綺麗だ、なんて。ちょっとだけ思ってしまうアスカの笑顔。


 「………」

 逃げる隙を完全に失ったシアーナをアスカが笑う。

 そもそも、なんて声を上げて。


 「というか、私がシアーナちゃんに側にいて欲しいのです!駄目よ、男の人と二人旅なんて不安ですから!」


 そう、アスカは冗談交じりに。その笑顔は正に、花の様だった。

 無言になるシアーナと。釣られたように笑うエイデ。「そりゃそうだ」と。


 シアーナは改めて、アスカの顔を「じい」と見つめる。

 オレンジの瞳を、しっかり見つめてから。

 逃げようとした自分が酷く愚かしく感じて。


 「……ごめんなさい」

 小さく謝罪を口にする。逃げ出そうとして、ごめんなさい……と。

 そんな暗い顔のシアーナの代りに、アスカが声を出して笑った。


 「何に謝っているか分からないな」

 なんて、言葉を紡ぎながら。


 「大丈夫よ!誰も怒ってなんていないわ!」


 もう一度。まるでシアーナを安心させるように、大きく頷くのだ。




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