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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
始章 暁の魔女
53/58

アスカ 前編 2『ディランの海岸』



 「――と言う事で、私は元の世界に帰りたいんです!」

 「……なるほどねぇ」


 招かれたエイデの家の中。

 おんぼろのテーブルに案内され、丁寧に珈琲を出してくれたエイデに、アスカは今までのあらましを説明した。


 気が付いたらシアーナに保護されていた事。

 『異世界』からやってきて、最後の記憶はテントの中で眠りに付いた事。

 そして元の世界に戻りたいから、自分を“この世界”に連れて来たと言う「エルシュー」と言う“神“の元へ向かう旅に出る事。しかし女二人では心もとないので、エイデにも着いて来て欲しいと言う事。


 アスカが知り得る全てを包み隠さず説明した。


 アスカの説明にシアーナは補足の類は一切しなかった。部屋の隅で丸まって聞いている。

 エイデもエイデで、黙ってアスカの話を聞いている。

 最後まで話し終えると、アスカはもう一度頭を下げた。


 「突然だし、身勝手だって分かっているけどお願いします!私を助けて下さい!」


 自身の目的を告げて、素直に「助けて欲しい」と改めて協力を求めるのだ。

 彼女から視線を逸らすことなく最後まで話を聞いていたエイデは、少しの間。

 顎をしゃくって、当然の質問を彼女に投げかける。


 「なんでそんなに『元の世界』に帰りたいんだ?」

 「――私の世界だから!私が勝ち取った世界だから!それ以上の答えはありません!」


 その質問をアスカは真っすぐにエイデを見据えて答える。

 それは昨夜、シアーナに見せた瞳と全く同じものだ。

 嘘偽りも無く、ただ真っすぐな決意が籠った瞳。


 アスカの答えを聞いて、今まで彼女の話を真剣に聞いていたエイデが、チラリとシアーナに視線を向けたのが分かった。

 エイデの紫の視線と目があった瞬間に、深くフードを被って目を逸らしたが。


 「――そう、か」

 エイデは零す様に言葉を紡ぐ。

 彼の目が、もう一度真っすぐとアスカを見据える。


 「事情は分かった。とりあえずだが、男手が欲しいって事だな」

 「はい!」


 問いにアスカは力強く頷く。

 彼女の瞳に迷いはない。変わらない真っすぐなオレンジの瞳。

 エイデは僅かに笑みを浮かべた。


 「取り敢えず確認だが、俺の事は理解しているか?」

 「それは、正直驚いたけど理解しました!私とは『更に別の異世界から来た』で良いんですよね?」


 エイデは小さく頷いた。

 アスカとエイデ。そう、この2人はこの“異世界”からすれば紛れもなく『異世界人』だ。


 そして、お互いに関しても、これまた『異世界人』。

 信じがたい話かもしれないが、両者それぞれ、()()の『世界』からやって来た。

 この“世界”にとっても、お互いからしても()()な存在であるのは違いない。


 普通は互いの言葉に疑いを持つかもしれない。

 しかし其処は、シアーナが最初に認めた。アスカが事情を話すよりも前に。


 二人は正真正銘『異世界人』であり、お互い違う『世界』からやって来た存在だと。

 それも二人そろってエルシューと言う存在に連れて来られたのだと。


 アスカは自分に起きたことは、既に受け入れていたし。

 エイデも、彼はアスカより前にこの世界に来たのだ。自身の状況は把握済み。


 最初こそ『さらに別々の異世界』と言う話には驚いたが、その可能性は十分あり得ると言う事と、お互いについて全く知らないと言う点から。

 こうして、嘘みたいな話をすんなり信じる事ができたのである。


 全ての話を聞いた、エイデは紫の目をアスカに向ける。


 「――『私が勝ち取った世界』ね」


 彼がポツリと呟いたのは、アスカが元の世界に帰りたいと願う理由。

 静かに呟いて、一度目を閉じてから、何かを考えるように、また一度アスカを見た。

 彼女の目を真っすぐと見据える。


 エイデが「にやり」と、面倒見が良い笑顔を、目の前の少女に向けたのは直ぐの事。


 「ああ、いいぜ。エルシューの所までの護衛だな?引き受けてやる!」

 「凄いあっさり!」


 彼は驚きを隠せないほどに、あっさりと引き受けたのだ。

 エイデのあまりにも早い決断に、アスカは思わず驚きの声を上げた。

 シアーナも同じだ。あまりにすんなり受け入れる彼の様子に、ただ無言で驚いた。

 座っていたアスカが椅子から立ち上がって、エイデへと身を乗り出す。


 「本当にいいんですか!」

 「ああ、良いって。故郷に帰りたいって願うのは当たり前だ。それを無下には出来ねぇよ」


 エイデは何処までも、やはり面倒見が良い笑顔で言い切った。

 アスカの表情が笑顔に変わったのは瞬く間の事。


 「ありがとうございます!」


 元気が有り余るほどの感謝の声。

 その様子にエイデは、声を出して笑う。

 明るい嬢ちゃんだと、アスカを気に入った様子であった。

 


 「――……なんだ、意外そうだな」


 シアーナが今までの様子を呆然と見つめていると、エイデに声を掛けられ我に返る。

 部屋の隅にいる自分に対して、椅子に座ったまま、送られているのは何か企んで居そうな視線。

 彼女は僅かに反応して、顔をそむけた。

 

 なんだか怖い。

 彼なら協力してくれる。

 その可能性が一番高い事をシアーナは知っていたが、此処まですんなり受け入れるなんて、流石に思いもしていなかった。だから、僅かな不安を覚える。


 ――こいつ、実は、シアーナ(自分)を売るために、着いてくる気になったのではないかと。


 だが、同時にありがたいとも思う。

 先程の会話を聞く限り、少なくとも、エイデはアスカ()()協力してくれだろう。

 例えシアーナと言う存在を売り払ったとしても、エイデが居れば大丈夫だろう。


 売り払われるのは仕方が無い。もう覚悟はしている。

 なにせ、エイデはシアーナが“死”だと言う事実を知っているのだから。


 「……おい、おまえ。今ものすごく失礼な事を」

 「……私からも、礼を言います。ありがとうございます。……エイデさん」


 それでも、とりあえず。アスカに合わせる様にシアーナもエイデに頭を下げた。

 なんにせよ、着いて来てくれるのは、ありがたい事だから。


 そんなシアーナ(彼女)を見て、エイデがほんの少し眉を顰める。

 小さくため息を零したのち。ただ、とトーンを落としたのは直ぐ後。


 「――その用心棒でいいのか?それは引き受けるがよ。最初に言っておきたいことがある」

 「はいなんでしょう?」


 エイデの真剣な様子に、同じように真剣な表情になるアスカ。

 そのアスカにエイデは続ける。


 「先に言っておくが、その、なんだ。俺は格闘技と炎魔法しか使えねぇぞ?……本当はもう少し使えた筈なんだがな」


 酷く、申し訳ないように。彼は今現在自分の状態を口に零す。

 不服そうな、視線をシアーナに向けながら。


 シアーナはその視線に目を逸らし。

 驚きの声を上げたのは、アスカであった。

 嫌、ほら、アスカの世界には『魔法』が存在しないから。


 「魔法!!魔法があるんですか!?うらやま……大丈夫です!」

 「うらやま……って、まさかと思うが、お嬢ちゃん……アスカの世界には魔法ないのか?」

 「無いですね!!あるのは『奇跡』だけですから!」


 見事なまでに、アスカは言い切る。

エイデは首を傾げる。同じく彼からすれば『奇跡』なんて言葉は初耳だ。

 アスカは続ける。


 「むしろ私なんて、身を守る程度の本当に簡単な剣術しか使えないし。唯一何とか使えた奇跡。『回復の奇跡』この“異世界”では全く使えなくなりましたから!むしろ魔法使えるエイデさんズルくないですか……!」

 

 妙に何故か自信満々に答えた。最後は僅かに嫉妬が混ざっていたが。

 エイデは思わず苦笑い、口を開いた。


 「あー。えー、その『奇跡』てなんだ?」


 当然の問いだ。

 アスカは、頷く。『奇跡』の簡単な説明をする。


 「『奇跡』は『奇跡』です。人の傷を癒したり、それこそ炎を生みだしたり……そういう仔らを『奇跡の仔』って呼んでいるんです。私も一応持っていたんだけどなぁ」


 あからさまにアスカの声に元気が無い。

 シアーナは終始無言だ。フードを深く被って、難しそうな表情を浮かべている。

 そのアスカに乗じるように「うんうん」と頷いたのは、エイデだ。

エイデは一人、納得する。


 「安心しろ、気持ちはわかるぞ!辛いよなぁ。身につけたモノが無くなるなんて」


 そう言って、エイデはチラリとシアーナを見る。

 シアーナは勿論目を逸らした。

 何を望まれようが無駄だ。この世界に「魔法」はない。

 無いのだから、例にもれず“世界(ココ)”の住人だと許した彼らにも与えるわけには行かない。


 そもそもと、シアーナは思う。

 エイデとアスカ。

2人の世界は、似ていて似ていない。


 例えばアスカの世界は「魔法」はないが、「奇跡」がある世界。

 特定の少女が特別な力をもって、生まれ落ちる世界。

 人はソレを「奇跡」と呼ぶ、「生命力」を使って能力を使用する世界。


 反対にエイデの世界、完全なる『魔法の世界』。

 産まれ持って持つ力であり、全ての人類が魔法を使える世界。

 「マナ」と言う存在から力を借りて、魔法を使用するファンタジーな世界。


 この通り、2つは全く別物だ。

 お前達に合わせて「魔法」を創り上げるのがどれだけ大変か。

 ――……なんて、心の中で悪態をついた。


 何であれ、この世界では彼らには不必要な能力。

 だから、エイデが訝しげに見てこようと、何度も言うが、どうにもならないのである。

 

 目を逸らして、全く視線を合わせなくなったシアーナに、エイデは苦虫を噛み潰した表情を一つ。

 何も言う気は無いと悟ったらしく、コホンと咳払いを1つ零した。


 「ま、なんにせよだ」

 一度、間を置き。エイデは続ける。


 「言った通り、魔法……がない俺じゃ、お前たちを護衛しきれないかもしれない。だから旅の同行には条件を出させてもらう」

 指を一本立てて、放つ。


 「え、な、なんでしょう」

 「………」


 アスカは、緊張した面持ちとなって。

 シアーナは無表情のまま、しかし小さく眉を顰めた。この男、信頼してはいけなかったか。という様に。

 エイデが、慌てたように笑みを浮かべたのは次の瞬間。


 「ああ、別にそんな身構えるな。――もう一人仲間が欲しいだけだ」


 なんて。当たり前のように高難易度の条件を出すのである。

 シアーナは更に眉を顰めた。


 そんな、簡単に同行者(仲間)を増やせるものか。

 エイデ()の所に連れて来たのはシアーナだ。


 そのシアーナがエイデしか頼れる人物は無いと判断してきたのに。彼ときたら、同行者が欲しい等。

 彼は()()()()()を知っている筈なのに。何故、そんないい加減な事が言えるのか。

 それとも、一切此方の事を理解していないのか。シアーナは不機嫌に眉を顰める。

 やっぱり売り払うつもりだったか。そんな気持ちだった。


 「安心しな。もう手を貸してくれそうな奴は見当がついている。あいつなら断らないし、頼もしい」


 しかし、そんなシアーナと裏腹に、エイデが妙に自信満々に胸を張り一言。

 シアーナは首を傾げた。

 もう、見当がついている人物がいる?自分は全く思い浮かばないのに?

 怪訝そうな視線をエイデに向ける。


 「いったい誰なんですか!」


 アスカだけが無邪気に、キラキラした目で問いかける。

 そんなアスカを前に、エイデは、コホン。

 もう一度咳払いを一つ零し自信満々に言い切るのだ。

 


 「――……この世界で“神様”って呼ばれている奴だ!」


 ――……と。




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