アスカ 序章4
暗い、地下の小屋の中で、シアーナは閉じていた目を覚ます。
身体を起こして、ベッドから下を見ればアスカが眠っている。
自分は寝る事も必要が無いのに、アスカは頑なにベッドを使おうとはしなかった。
仕方が無いので、寝たふりをして、彼女が完全に眠るのを待ってから目を覚ます。
アスカを確認したが、彼女は完全に眠っているようであった。
暗闇の中で、シアーナは音をたてないように外へと出る。
小屋の外は相変わらず満天の鉱石が辺りを照らしている。作り物の夜の世界。
その明かりを頼りにして、シアーナは本を何処からともなく取り出す。
真っ黒で分厚い、それは「死の本」。
この“世界”の人間たちの、どうしようもなく逃れようのない最後が記されている、シアーナの仕事道具。
コレは何時もの日課だ。
シアーナは指先をナイフで切って、記されている『彼ら』の最後の瞬間に、見届け印として自分の名を書き記す。
今夜の仕事の数は100人。
『彼ら』がどのように死んで、最後を迎えたかはシアーナですら分からない。
此処に閉じこもって「見届ける事」を辞めたのだから。仕方が無い。
本当は「見届ける」だけじゃなくて、こんな仕事は辞めてしまいたいが……。
それでも、この仕事は、この仕事だけは辞めることは出来ないのだ。
シアーナは何時も病的に青白い。
『彼ら』の為に何時も毎日、血を流さなくてはいけないから。
書きながら思う。
――どうして、自分は。『人間』の為に損をしなくてはいけないのだろうと。
この仕事光景を見たモノ達は皆後ろ指を指す。
「お前は人殺しだ」
――“私”は何もしていないのに。
「お前が死を選んでいるのだ」
――そんな訳ない。“私”が選んでいる訳じゃない。
「お前はこの“世界”の悪だ」
――“私”が何もしなければ、泥を浴びせるくせに。
「お前が居るから、この“世界”には死があるのだ」
――――。
正義感面で、当たり前の様に『彼ら』は皆、泥を投げつけてくる。
どうしてだろう。何も知らない癖に。
どうして『彼ら』は“私”を蔑むのだろう。分からない。
そう。
“彼女”は忘れた筈の疑問を久しぶりに思い出しながら、今日の仕事を終わらせるのであった――。




