二節フリバー・ライヘルド20
「――なんで生きてんの、おまえ。『ホッチキス』って馬鹿にしてんの?」
勿論と言うべきか。
机を挟んだブレイルの前。椅子に腰かけ、話を聞いたフリバーの第一声は此方である。
怪物でも見るような視線に、ブレイルは隠すことなく眉を顰めた。
「してねぇよ!!だから、話しただろ!俺達には『死』が無いんだよ!死なないの!」
まるで子供の説明だ。
ソレでフリバーが理解するとでも思っているのか。
フリバーもまた眉を顰める。
先ほどから、この2人はこの調子。雰囲気が最悪である。
それを、隣の部屋。キッチンから除いていた、ツインテールの少女は呆れた様子で見つめるしかない。
とても簡単だ、アレから一日たった。
昨日の今日。つまりは2人が出会って早々、喧嘩別れをして、一夜明けたのが今日である。
約束通り、フリバーはブレイルの言う『リリーの家』に辿り着き。
こうして昨晩の続きを話している。――そういう訳なのだが、見ての通り2人は険悪のままなのである。
それだけだ。
「……二人ともやめなさいよ」
険悪な空気の中で、見かねたリリーは呆れた様子でトレイにカップを持って、キッチンから出て来た。音を立てながら、それぞれカップを机、二人の前へ。
その途端鼻を衝くきつい香りが漂う。
ブレイルがカップから目を逸らして、構わず舌打ちを一つ。その舌打ちは、どう考えてもフリバーに向けられたものだ。フリバーはカップを手にしたまま、顔を顰めた。
「あんた達……。話はさっき聞いたけど、何があったのよ」
リリーが問えば、2人は仲良くそっぽを向く。
「別に」と見事にはもって、お互いを睨んだ。
先程からずっとこの調子で、これにはリリーもほとほと困り果てるしかない。
フリバーがこの家を訪れたのは、今から一時間前の事である。
突然、家の扉がどんどん。開けたのはリリーだった。
リリーの目に映ったのは茶髪の、見たことも無い男。当たり前だが警戒した。
殺気立っていて、顔を顰めに顰めまくった男が立っていたのだ、当たり前だ。
とりあえず扉を閉めて逃げ切ろうとしたのだが、ソレを阻むように手が伸びてくる。
「何よ」と返そうとした、その時、彼は口にした。
「ブレイルの奴は此処に居るか?」――と。
こうして漸くリリーはこの目の前の男が、ブレイルの知り合いだと気が付いたわけである。
「出会い頭に喧嘩してたけど。なに?どうしたわけ?」
ため息を付いて。リリーはブレイルの隣に座りながら、もう一度問いかける。
まあ、ブレイルのお客人だと理解して家に迎え入れ、ブレイルと顔を見合わせ瞬間、2人は言い争いを始めたのだから、仕方が無いっちゃ仕方が無い。
詳しく記すと。「やっと来たか、遅い」とお客人にブレイルは笑顔を浮かべたモノの、フリバーが「ふざけるな」と叫び、それから口喧嘩が始まった訳だが。
何とか喧嘩は止めて貰い、本題に入ったものの、この空気である。
ブレイルは無言のまま。フリバーは心底腹立たしそうに口を開いた。
「――……リリーちゃんだったよな。あんたさ、こいつから俺の話聞いた?」
「え?――……いいえ、さっき初めて聞いたわ」
机に肘を付きながら、リリーは当たり前に首を横に振った。
コレである。フリバーは更に不機嫌な顔をした。そしてブレイルに指をさす。
「こいつはな、昨日一方的に『リリーの家に10時に来い』を俺に言いつけて、場所もろくに教えず帰った。その上、居候の身で人が来ることを伝えていなかった?ふざけてんのか?」
「――それは、そうね」
話を聞けば、フリバーの発言はもっともだ。
現にリリーはフリバーを知らなかったし、不審者と思ってしまった。
一言言ってくれても良いだろうに。「客が来る」って。リリーも警戒せずに済んだし、フリバーも不審者扱いされずに済んだ。
ただ、コレに黙っていないのはブレイルである。椅子から立ち上がって、フリバーに指を差す。
「まて!!確かに俺はリリーに伝え忘れていたが、昨日お前自力で探すって言ってただろ!!」
悲しい言い訳である。
これにはリリーも擁護できない。冷たい目で一言。
「あんたが悪いわ」
そう、ブレイルに言い放つのだ。
ブレイルはショックの色を見せて、再び座ると、またフリバーに向かって舌打ち。
フリバーもフリバーだ。ブレイルの態度に額に青筋が浮かんでいる。
リリーが此処で分かったのは一つ。昨日2人は出会って、壊滅的な出来事が起こったと言う事。
深入りはしないが、溜息は許してほしいと、リリーは息を付いた。
――さて、本格的に話を戻そう。
最悪な雰囲気を壊すようにフリバーは小さく咳払いを1つ。体制を整えた。
「で、さっきの話。もう少し詳しく聞かせろ。『異世界人には死が無い』?聞く限りじゃ、お前どう聴いても死んでんじゃねぇか」
フリバーのもっともな問い。ブレイルは眉を顰めた。
ただ今度は不機嫌な物ではない、なんと説明しようか、悩んでいるような表情だ。
すこしして、口を開いたのは、リリーであった。
「――私、詳しくは見ていないけど。あの日の事でしょ……。父さんが殺されちゃった日の事」
ブレイルの表情が変わる。フリバーも同じだ。
だから、彼女には話を付けて外に出ていてもらっていてほしかったのに。
しかし、リリーは2人の視線に気が付いたように小さく首を横に振った。
「大丈夫。……“死”は怖いけど。私、協力したいの。父さんの為だもん」
酷く悲しそうに笑って、それでもリリーは力強く頷くのである。
『勇者の話す真実はいかが?』




