二節フリバー・ライヘルド21
話はまた、あの日まで遡る。
リリーがブレイルとパルと別れて30分ほど経ったほどの事。
彼女は結局心配になって、戻って来た。
彼らは大丈夫かという一心で。
そこで見たのはボロボロに壊れた広場と、倒れ込むブレイルとパル。
そして、ブレイルの側に佇む“医術の神”アクスレオスの姿だった。
「――なんだ、てめぇ……。アーノルドのとこの娘じゃねぇか」
灰色の目にリリーを映して、彼は酷く怪訝そうに眉を顰めた。
「あ、アクスレオス様。あ、あの二人は……?」
「見て分んねぇのか。“死”の仕業だ。無茶苦茶にやりやがって」
リリーの問いにアクスレオスは苛立った様子で答えた。
その様子を見て不安になる、不安のままにブレイルに駆け寄る。
ブレイルの服は切り裂かれていた。まるで鋭利な刃物に切り裂かれたようだ。でも、肌に傷はない。
ただ、彼の足元に銀色の小さな金具が散らばっているだけ。
「し、死んで――!」
「死んでない。生きてる」
リリーの不安を遮るようにアクスレオスが言う。
慌てて、ブレイルに駆け寄って、首元に手を当てればブレイルは確かに暖かかった。
脈もあり、心臓も動いていた。
その様子にリリーは心から、漸く安堵をした。
しかしだ。リリーは当然に疑問に思う。
あたりを見渡すが、あの恐ろしい“死”はいない。だが、ブレイルを此処まで叩きのめしたのは、どう考えても、あの邪神の仕業。どうして邪神がブレイルを見逃したのか分からない。ソレに彼のこの服の傷は。
「――……そいつは一回死んだんだよ」
その疑問に答えてくれたのは、アクスレオスだった。
酷くつまらなさそうに、ため息交じりで答える。
「いっかい……しんだ?」
「ああ、死んだ。で、生き返った」
我が耳を疑った。
理解が追い付けず、困惑していると、僅かにブレイルが動く。
彼が目を覚ましたのは一目で分かった。
ぼんやりと金色の目を開けて、少し。ブレイルは飛び起きた。慌てたように、怒り狂ったような顔で膝の上の聖剣を手を伸ばそうとして、でもその身体は上手く動かずに倒れてしまう。
身体を丸め、まるで痛みに耐える様子のブレイルに、アクスレオスが声を掛ける。
「よお、調子どうだ?考えなし」
悶絶するブレイルは僅かにアクスレオスを見上げる。
ただ、視点がおかしい。定まっていない。
「……視界がおかしくなっているのか。大丈夫だ、次期治る」
瞬時に理解を示したアクスレオスの言葉。
その言葉に必死に声を振り上げようとしているが、声はかすれた音しか出ない。どうやら声も出ないらしい。
その様子を見て、アクスレオスは小さくため息を付いた。
「安心しろよ。“死”はもういない。どっかへ行っちまった。――見ての通りパルって女も生きている」
その答えに、ブレイルは目を大きく見開き、だんだんと安堵した者へと変わる。
まるで一番気にかけていたことを知れて安堵している様に。少なくとも耳は聞こえている様だ。
「――……俺の言葉は理解できるみてぇだな」
アクスレオスが続けて言う。ブレイルは小さく頷いた。
小さなため息、そして彼が忠告するように口に出したのである。
「じゃあ、手っ取り早く伝えるぞ。ブレイル・ホワイトスター。コレは俺からの忠告と思え」
「――……?」
「――お前は“死”に負けた。“死”に負けて死んだんだよ、お前は」
ブレイルの金色の目が大きく見開かれるのが分かる。
そんな、まさか。なにを、まるでそう言っている様だ。
しかし、何かを思い出したように困惑の色に変わっていたのも次の瞬間。――彼は覚えていたのだ。あの戦いの事。“死”が容赦なく自分達を切り刻んでいき、あっさりと負けた事実。
ああ、そうだ。あの時、あの瞬間、ブレイルは死んだのだ――。
「先に言っておくぞ。生き返らせたのは俺じゃない。俺は“医術”だが、人を生き返らせる能力は持ち合わせていない」
ブレイルが何かを問いかけてくる前に、アクスレオスが言い放つ。
ぼんやりとした頭で、困惑した頭で、ブレイルが漸くゆっくりと体を起こした。
そんな彼にアクスレオスは続ける。
「お前らを生き返らせたのは、この“世界”だと思え」
「せ、かい……?」
ようやく声が出た。ブレイルの問いにアクスレオスが頷く。
そして、簡単に、簡潔に言い放つのだ。
「お前達『異世界人』は、この世界では不死だ。決して死ぬことは無い。いや、死んでも、死んだら生き返るんだよ。お前たちは――」
信じられない事実を。有り得ない事実を。彼は静かに口にしたのである。
『死がない素晴らしいセカイ』




