二節フリバー・ライヘルド18
……
………。
……………………。
静かな長い沈黙。
フリバーは黙ったまま、考える。
この男、今なんて言った?
地図を見て行動する奴が、頭でっかちで、根暗で、馬鹿で、柔軟な考え一つ浮かばない?
レストランの名前しか覚えていない?馬鹿か、こいつに言われたのか。
家に戻る時は感で動いているようなこいつに?
地図がどれだけ重要か、理解していない。
嫌、ただ、読めてないだけなんじゃないの、それ?
冒険者パーティのリーダーとして、日々地図を片手に依頼をこなすフリバーには耐えられない一言だった。
だって、アレだよ。地図無いと、簡単に皆死んでいくのだぞ。危険なのだぞ。――フリバーの世界はそんな世界だった。
――……なのに、目の前のバカときたら。
そもそも一ヶ月、こいつは、この世界で何をしていたと言うのだ。
ああ、いや。ハッキリしている。さっき言っていた。
馬鹿みたいに猪突猛進に走り回っていただけだ。広いこの世界“死”という小さい存在だけを探し回っていただけだ。――馬鹿みたいに。
「まあ、そんな感じで、俺は取り敢えず走り回っていたからさ。だから、地理っていうの?さっぱりでさ」
フリバーの様子に気づくわけでもなく、ブレイルはにこやかに話す。
“死”が見つからない?
そりゃ馬鹿みたいに走り回っている存在がいるのだ。“死”だって姿を現すことはしないんじゃないか?
いや、走り回っていて単に気が付かなかったとかじゃないのか?――だって馬鹿だもの。
というか、“街”の広さ、しってる? 地図、もってる?ああ、読めないんだっけ。
「だからさ、実は明日は“街”の外にでて探してみようと思っていたんだよなぁ。――ああ、でもお前と会うからその後にするよ!!!」
――ぶちり。
きっとそんな音。
フリバーはゆっくりと立ち上がる。うつむいたまま、ぶつぶつ、ぶつぶつ。
嗚呼、気づいていたさ。気が付いていたが、ブレイルは馬鹿だ。
そんな馬鹿が、いったいどの口で自分の住み家に来いと?場所も分からないのに。
少しは物事を見定められる?いいや、撤回だ。
――どうやら自分はこの男を過大評価し過ぎていたらしい。
フリバーは最後に小さく、そう呟いた。
もう、最初のうちに一応フォローしておくと。
フリバーも色々我慢していて、ブレイルの発言で限界を突破しただけだ。八つ当たり入っているけど。
フリバーは静かに口を開いた。
「――ブレイル。お前少しは考えていると思ったが撤回する。てめぇは激情型で直情型の猪突猛進の考えなしの馬鹿だ」
「……………はぁ!?」
唐突の静かな暴言。
けれど、まだブレイルは気が付いていない。
目の前の人物が、先程の自分の言葉で、途轍もなく、呆れ果てて、そして怒っていることに…。
フリバーは顔を覆いながらゆらりと、ぶつぶつ――。
「いや、いいんだ。そういう馬鹿なやつは知っている。俺の所にも一人いるし、何故かそんな馬鹿でもリーダーが務まっているギルドもあるぐらいだ…だからソレは良い」
「は…?」
「――自分の感情だけで突っ走って周りの迷惑も顧みず、後始末が面倒なのは目に見えているのに強行突破。でも何故か結果良しとなる謎の馬鹿。だが後始末は全部こっちの仕事だ。――ああ、まるで神みたいだな。思考回路神なの?考えなしなの?」
「はぁ!!?おま――」
「いいんだ。どうせお前は“死”の事しか頭に無かった、無駄に有り余る体力で走り回ってあの嬢ちゃんを探してたんだよなぁ?だったら俺からの貴重な、誰でも手に入れられる情報を一つ教えてやる――いいか勇者さま、この”異世界”はなぁ、他に街も国も存在してない。この『“街”』が異世界なんだ――」
思わぬ情報に「え?」と声を漏らすブレイル。
しかし知ったことじゃない。
フリバー、が勢いよく手を伸ばしたのはその瞬間だ。机と椅子が倒れたが、知ったことでは無い。
怒りのままに、ブレイルの胸倉をつかみ上げるのである。
――ガシっ!!!!って。
「――……分かったか!この考えなしの馬鹿が!!!頭を使えってレベルじゃねぇぞ!!!!一ヶ月も何してたんだ!?この間抜け!!!その馬鹿な体力頭に回したらどうだ!!馬鹿!!!だいたい走り回って手に入れた情報が少なすぎるんだよ!5日もあればお前が気づいた事、大抵の人物なら全部気が付くわ!!!!マジで間抜けだな!!脳筋馬鹿勇者!!」
――ビックリするほどの暴言である。
さすがのブレイルも一瞬固まった。
まぁ。今まで冷静だった人物の唐突な豹変だ。驚いて当たり前である。
だが、徐々に投げつけられた言葉の意味を理解して気のだろう。
ブレイルの表情も見る見るうちに変わっていった。
いや、正直に言おう。
とんでもない暴言による暴言でブレイルも“ブちんッ“と来た。
迷いも無く、フリバーの胸倉をつかみ上げる。
――ガシっ!!!!!!って。
ここからは、2人の意味も喧嘩が始まるのだが、お付き合いいただきたい……。
「…んだと!!!!?このモヤシ野郎!!5日で全部わかるだぁ!!ならテメェはこの2日間何してたんだよ!!帰りたいって言いながら街の中の探索だぁ!?帰る気ゼロじゃねぇか!!というか、2日掛けてその程度の情報しか手に入れられてねぇじゃん!!さっすがモヤシだな!!だったら俺からも情報一つくれてやる!知ってるか?この世界では異世界人は死ねないんだよ!それぐらいも気づかなかっただろばーか!!テメェこそ、その無駄な慎重な性格体力に回したらどうなんだ!!?ひょろモヤシ!!」
と、ブレイル。
「はぁ!!!?テメェが馬鹿みたいに体力有り余ってるだけだろ!こちとら、こっちでの暮らしに頭抱えてんのに、テメェは女の所で居候して喰って寝て走り回ってるだけじゃねぇか!!そんなんだから“死”も見つからねぇんだよ!いや、考えなしに“世界を救うー“って突っ込んでいったのか?ああ、それが正解だろ!で、返り討ちにでもあったんだろ!!!ざまぁ!!!!」
と、フリバー。
「ああ!!!?ひがみだな!突然異世界に飛ばされたならそれこそ協力者の一人ぐらい見つければよかったんじゃねぇのか!?それとも人見知りで陰気だから見つけられなかったのか?ああ、そうだな!そんなモヤシだもんな!声を掛けても気づかれなかったんだろ!ざまぁ!!!!」
と、ブレイル。
「俺がモヤシならテメェはまさに猪だな!じつは走り回ってただけで側に死の嬢ちゃんがいたけど気が付かなかっただけじゃないのかぁ!?チビだもんな!周りの大人で何も見えなかったんだろ!?」
……フリバー。
「だれがチビだ!身長そう変わらねぇだろ!!多重人格の陰気モヤシ野郎!!」
……ブレイル。
「もやしもやしうるせぇんだよ!!それしか思い浮かばねぇのか!!そもそも体格そう変わらねぇだろ!!脳みそ鶏ぐらいしかねぇんじゃねぇの!!?」
……フリバー。
――うん、争いが幼稚になって来た。
少し、こちらから擁護するとすれば、ブレイルは一か月間、人の倍は頑張っていた。入り組んだ道を走り回って“死”を探していたし、簡単に言えば一応一通りの神の地域は走り抜けたと言えよう。
地理は全く理解せず、野生の感で動いていたし、“死”を見逃さなかったかと言われれば……………。
そして、フリバーはそこまでモヤシじゃない。
確かに筋肉量ではブレイルに劣っているが、身長は僅かに勝っている。
――いや、それよりもブレイルは今かなり重要な情報を口にしたのだが…。
完全にブチ切れたモードのフリバーは気づいていなかった。
こうなれば殴り合い一歩手前のただの喧嘩である。
なんにせよ、もう会話できる状態じゃない。
ブレイルが“死”と戦ったことも、フリバーが感じる街の違和感も、
そもそもどうして“死を告げる”存在が一ヶ月もまるで見つからないのか?
その話は翌日への持ち越しになりそうだ。
ギャーギャーギャー騒ぐ2人。
「猪馬鹿」「堅物モヤシ」「馬鹿の一つ覚え脳みそ詰まってんの?」「だったらお前の頭はモヤシだ」
「意味わかんねぇよ馬鹿」「馬鹿って言う方が馬鹿なんだ馬鹿豆苗」「微妙に変えてくるんじゃねぇよ」――などなど、永遠に…。
この2人の喧嘩は、宿屋の主人が聞きつけ止めに入るまで続くのであった――。
『喧嘩しながら、器用に時計の見方を教えていたわ』




