二節フリバー・ライヘルド14
「――で、次だが。そのアドニスってやつはどんな奴だ」
「……悪い。分からない。俺も一度会ったきりだ」
次の問い。
それは今現在“死”が姿を映しとっている「もう一人の異世界人」。
だが、これに関してブレイルは直ぐに首を横に振った。
「分かる事はアドニスって名前。見た目は黒い髪と黒い目、長身の男だ。……何故か、”死”と行動しているって事だな。最初に会った時は”死”の正体がまだ掴めてないときで。――……その時は”死”に借りがあるとか言ってお互い協力関係と言っていたがそれ以上は分からない。少なくともエルシューには協力しないと断言していた」
ブレイルの説明は酷く簡単な物だった。
簡単な容姿と、彼の取っている行動ぐらいしか分からない。
どうして“死”と行動しているとか、何の目的があって“彼女”の側に居るのか、全くの不明である。
しかしコレは仕方が無いとも思う。
ただ、ブレイルはあまり納得していないようだが。「エルシューに協力しない」そう決めた存在が現れても全く可笑しくない。
現にフリバーもエルシューには協力しないと決めたのだから。
「そうか。ま、そういう奴もいるだろう。たぶんそいつは俺と同じ結論に至ったんじゃないか?」
「……………」
ブレイルは何も言わない。
さっきの今だ。エルシューの願い、思惑と言うべきか?ソレは明らかになっている。
今思い出しても腹立たしい。だから、アドニスもフリバーと同じ考えに至ったと考えれば、「エルシューには協力しない」この考えに辿り着いても可笑しくはないだろう。
「ただ、”死”の正体を知っているかは不明だがな」
最後にそれだけを付け足しておく。もしかしたら“少女”に何かしら借りがあって、それで“彼女”の側にいるだけかもしれない。それだけだ。
アドニスに関しては確実な情報は無いに等しかった。
フリバーは会ったこと無いし、ブレイルもそれ以上の確定している情報は持っていない。
だたし、不確実であるなら一つ、ブレイルは持っているが――。
「ただ、一つ。アドニスってやつはおそらく殺し屋だ。少なくともそれに関する分類の人間」
「――何故そう言い切れる?」
ブレイルの答えにフリバーは首をかしげる。
彼は余りにも当たり前の様に、アドニスの正体を答えたのだ。それもかなり自信を持って。フリバーが疑問に思うのは仕方が無い。
――なぜそう当たり前に断言できるか。
「眼だよ。これでも『勇者』としていろんな国に出向いて、いろんな奴に会って来たからな。――あいつは、同じ眼をしていた。」
「……そうか…?」
ブレイルの言葉はフリバーには良く分からなかった。
フリバー自身、殺し屋だとか暗殺者とか言う存在には出会ったことは無い。今はまだ無縁でいられている。だから彼の説明では良く分からない。
分かる事は一つ。ブレイルは違うのだろう。少なくとも「暗殺」という物の経験したことがある。
だから、そう確信を持った発言が出来る。
その確信を持った言葉は、ブレイルなりの経験の元に導き出した結論なのだろう。
「そもそも『アドニス』って名乗っていたけど、多分偽名だぜ?ああいう奴らって簡単に本名を名乗る様な事はしないからなぁ。」
「……へぇ、そういう物なのか?」
「まぁ、人は見かけによらないって言うか。一度、襲われたことがあってな。探ってみればそいつ、普段は村の優しい牧師様だった。――名前も性格も驚くほど違っていた。それだけだ。お前も気を付けとけよ。……ま、俺の世界でのことだけどな」
ブレイルは何処か物悲し気に言い切る。
――その表情を見て、暗殺者ってモノは知らないが、彼の冒険に少しだけ興味が出た。
今、この状況じゃなければブレイルの冒険譚も聞くのは楽しいかもしれないとすら思えた程だ。
ただ、その話を聞くのは今じゃない。
「……そう、か。他には?何か気付いた事は?」
とりあえず、今の話だ。
“死”をどうするか。フリバーは決め切っていないが、“彼女”と共にいる暗殺者。――アドニスと言う存在が敵になる可能性がある以上、まだ情報があるなら全部聞き出しておく必要がある。
少し考えて、ブレイルは口を開いた。
「多分だけど、強い。――俺よりも強いと思う」
それは驚くほどに正直な一言だった。
フリバーは僅かに目を細める。
「なんだ?そのアドニスってやつと手合わせでもしたのか?」
「した。なし崩していうか……。ついって言うか。だが、かなり手練れだ。正直言えば、こっちの仲間になってくれれば、て思う」
少し驚く。ブレイルの実力を、フリバーは知らないが、ブレイルが我が強い性格だと言う事だけは、この僅かな時間で理解出来た。
その彼が、こうも素直に褒めて剰え仲間になって欲しいと口にするなんて。
つまりは敵に成りたくない存在だと言いたいのだろう。それが“死”の側にいるとは――。
一応、危険ととらえておく必要がある。
「……フリバーの方は?アドニスって名前は聞いたこと無いか?」
「ない」
「じゃ、今の所少なくとも3つ目の異世界から来たって事だな」
ブレイルの話が終わる。
それ以上、ブレイルはアドニスについては何も言わなかった。
アドニスと言う存在は詳しくは分からないが、“死”と同じぐらいに気にかけておく必要があるだろう。それだけは嫌でも気が付いた。
危険視しておく必要があるともいえるし。しかし、“死”と誰よりも接触している人物。
もしかしたら、少なからず“死”も彼を信頼している可能性すらある。
出来れば一度は、接触しておきたい人物と考えても良い。
会えれば、の話だが。
なんにせよ、これ以上『アドニス』についての情報は出てこないだろう。
――……それなら次だ。出来るだけ、もっと、情報が欲しい。時間が惜しい。
さて、次の話は――。
「……おまえさ、あの”死の女”についてどう考えているんだ?」
次の話題。
それを切り出す前に、ブレイルがぽつりと零す様に呟いたのは、その時であった。
『――…あ。えっと、世界の真実なんて、とても単純なの』




