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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
二章ヒーロー
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二節フリバー・ライヘルド12



 「――午後5時か、そこまで長話は出来ないな…」

 宿屋に戻って来たのは、それから一時間程。

 部屋の中心にある、小さなテーブルの前で、時計を確認しながら、フリバーは小さく呟いた。

 ――夜が無いと言うのは本当に不便だ。時間間隔がおかしくなる。

 長い話になりそうだが、流石に今日出会ったばかりの人物を何時間も留めて置くことは出来ない。

 一応、今日の所は最低限の情報を交換して解散するとしよう。長くても後2時間が限界だろう。


 「………おい、それなんだ?」

 「――は?」


 そんな事を考えていると、ブレイルが後ろから、のぞき込むように不思議そうに声を掛けて来た。

 彼が指差すのはフリバーが持つ時計だ。

 ――、一瞬冗談かと思ったが、その目に嘘は混ざっていない。


 「……時計だ。時間を把握するための道具……って此処まで説明する必要あるか?」

 「へー。それ、時計って言ったのか……。あー、そういやエルシューのとこも同じようなのが嵌まっていたよな。もっとでっかい奴。いやー、存在は知ってるし、リリーから持って置けって渡されたんだけど、正直どうやって使うか、知らなかった」


 ――あ、まじか。

 フリバーは固まった。此処まで時計の存在知らない人間要るんだ――と。

いや、しかしブレイルは生粋の異世界人だ。

 正直、フリバーですら時計を見たのは、少なくとも彼此18年ぶりとなる。

 つまりはフリバーが転生した先の世界でも時計と言うものは存在していなかった。いや、厳密に言えば存在してはいたが、貴族と呼ばれる人種だけが使用していたものだ。

 そもそも冒険で時計はあまり意味をなさないからなのだが。いや、それは今関係ないけど。そもそも時計で時間をつぶすわけには行かないんだけど。

 だから多分。ブレイルの世界も時計なんてモノは存在していなかった。そう考えよう。

 ――しかし。


 「……お前、一か月間、いたんだよな?どうやって生活……。時間確認していた?太陽も落ちない、落ちないどころか同じ場所に在り続けている世界だぞ?朝と夜の区別どうやって見分けていた?」

 「――?……いや、毎日死を探して走り回って、腹が減ったら食事して、疲れたら家に帰っていた。周りから人が居なくなった頃が夜だろうなぁと判断して、朝帰りしてパルとリリーによく怒られる」

 「……」


 ――体力お化けの馬鹿かな?

 そう思ったが、我慢する。……仕方がないので帰りにでも時計の読み方を教えてあげることにした。


 まぁ、時計の話はそこまでにしておいて、コホンと咳払いを一つ。

 とりあえず、目の前のテーブルを挟み、椅子に座ってもらう事に。ブレイルと反対側の椅子に座って。ようやく本題に入る。

 すなわち、“死”とこの”世界”についてだ。


 「で、ブレイル……だったな。お前も同じだろうが、俺はお互いの話を聞きたい。“死”についてとこの異世界についてだ」

 フリバーの言葉にブレイルは静かに頷いた。

 ブレイルの性格を考えながらフリバーは話を始める。一番に思い付いたのは自分たちについてだ。一先ず、自己紹介しておく必要がある。その方がスムーズに話が進むのは確かに思えたからだ。

 だって、先に自己紹介しておかないと、こういう輩は絶対途中で話の腰を折ってくる。

 

 

「一応改めて自己紹介しておく、俺はフリバー。フリバー・ライヘルド。冒険者だ。……一応聞くが、俺の名前と、それからギルド『メレディス』。この名前に聞き覚えはあるか?」

「?いいや。お前の名前もその『ギルド』?とかいう物も聞いたことない。何かあるのか?」

 「……いや、俺はコレでも結構な有名人なんでな。メレディスってギルド名も俺の世界では知らない奴の方が少ない。だからちょっとした確認だ。――先に言っておくと、俺もお前の名前は知らん。聞いたこともない」

 一応の確認であったが、こうなればやはり、お互い別の世界の異世界人と考えてよさそうだ。

 フリバーは、一応「お前は?」とブレイルに問う。


 「俺はブレイル・ホワイトスター。さっきエルシューが言った通り、勇者だ。証明になるかは分からないが、この剣は勇者にしか触れない聖剣だ。……俺も同じように元の世界では名が通っている。知らない方が可笑しい。だから互いを知らないのなら、本当に異世界人なんだろうな」


 ブレイルも正直に自身を名乗った。どうやら彼も同じ考えに至ったようだ。

 しかしと、フリバーは少しだけブレイルが言った聖剣を見る。

 何か特別な剣だと思っていたが、聖剣だとは思いもしなかった。彼が歩んだ人生は興味が無いと言うと嘘になるが、簡単に表せば王道RPGの主人公となるのだろう。

 何にせよ、これ以上ここでお互いの存在を疑っても時間の無駄だ。自己紹介はここで終わりとする。ここからが本題だ。


 「じゃあ、ブレイル。俺はこの世界について情報が欲しい。なんせ、俺はここにきて二日しか経ってないからな。だから、まだ本題()については一先ず置いておいてくれ。まずはこの街の神について、世界について、何でもいい。教えてくれ」

 「え?」

 フリバーの問いを聞き、ブレイルは一瞬不満そうな顔をした。きっと彼は“死”について話し合いたいのだろう。

 しかし、フリバーの状況も彼なりに把握したらしい。「分かった」と一言。

 少しの間、ブレイルは口を開いた。


 「まず、この”異世界”に名前は無い。『“街”』があってそこに人間と神様が共存して暮らしている。種族で言えば人間しかいないらしい。えー、俺の世界ではモンスター…魔族っていう人とは違う姿形の存在がいるんだが、今のところはそういったモノは暮らしていない」

 「……」

 1つめの情報はフリバーも知っている事が多かった。

 ただ、「人間以外の種族がいない」と言うのは初めての情報だ。

 モンスターはフリバーの世界にも居る。しかし、その他の種族は?


 「……俺の世界にはエルフ――……耳が尖がっていて長寿の種族やら、ドワーフと言った体格のいい種族…所謂人間以外の種族も暮らしている。この異世界には、そういったやつもいないのか?」

 「そういった存在がいるのか?……俺は見たことが無いから分からないが、少なくとも、そういった特徴の奴はこの街でも見たこと無いな。人間と神。二つだけだ」

 「……」

 この異世界には人間と神しか住んで居ない。これは確かなようだ。

 続いてブレイルは口にする。


 「それから、“神”……についてだが、あいつらは他人の姿に化けて“街”に溶け込んでいる。それも“異世界人の姿“をとっているようなんだ」

 「――は?」

 唐突な2つ目の情報。この一言には声を漏らすしかなかった。

 フリバーの様子を見て、ブレイルも頭をかいた。彼の反応は良く分かるからだ。

 しかし、ブレイルからすれば事実であるのに違いない。

 「あー、なんというか」なんて一呼吸おいてから話をつづける。


 「少なくとも俺は一ヶ月の間に12人の神様に会った。一人はエルシュー、一人は“死”、一人は“医術”と名乗ったな。他にも9人。その12人の中で4人が俺の知っている人物…『そのもの』の顔をしていた。…背格好と声はちがうが……」

 「――まて、意味が分からん。どういう事だ」

 話を聞いても理解ができなかった。

 もっと詳しく話せと眉を顰める。

 ブレイルは少しだけ悩む、どう説明すればいいか。そんな顔をして、ゆっくりと状況を説明する。


 「だから……。まず一人、医術の神を名乗ったアクスレオスってやつがいるんだが、どういう訳か、そいつの顔が俺と一緒に旅をしていた仲間と瓜二つだったんだ。……いや、瓜二つってレベルじゃない。全く同じ顔をしていた。背格好は多分少しだけ違う、性格と声は全く違う。」

 「…………」

 「他にも三人、知っている顔に会った。まずカルトって……“神”だ。――そいつの顔はパルと同じ顔だった。背格好も同じだ。……声は違う」

 『カルト』――名前だけは知っている。パルと言う人物は先程からブレイルがちょくちょく出している、彼と一緒にやって来た仲間。しかし疑問に思う。今の説明、妙に曖昧だ。曖昧過ぎる。何故、そんな曖昧なのか。

 それでも話の腰を折るとこはせずにブレイルの話を聞く。


 「一人は、名前は分からない。――俺が昔倒した盗賊の頭領の顔をしていた。こっちも同じだ。背格好は同じで声だけが違う。そして、一人は、知り合いと言うか、なんと言うか……」

 ブレイルが目に見えて言葉に詰まる。

 まるで、どう説明すればいいのか。そう言うようだ。


 「なんだ。話せ」

 「……一人は、俺の世界の大昔の偉人だ。肖像画でしか見たことのない大昔の英雄。絵でしか見たこと無かったが、アレは間違いなく俺の世界の大英雄さまだった。こっちでの名前はゲレル。光の……“神様”だ」


 長い沈黙の後、ブレイルが言葉にする。

 しかし信じるに信じられない。ブレイルが一瞬言葉に詰まった理由が良く分かった。

  ――神様が、他人の姿をしていて、それも『異世界』の、大昔に死んだ人間の姿をとっているとか。信じられる話じゃない。少なくとも、フリバーの出会った三人の神は知らない顔だ。


 「――信じられない。俺は三人の神に会った。一人はエルシュー。あいつは初めて見る顔だ。それから“死”だ。いや、こいつは顔が見えなかったか。……だが」

 「その“死”はアドニスって()の姿をしている。――アドニスってのは俺らと同じ異世界人の男だ。アドニス(本人)と比べると“死”は酷く幼いが、間違いない。顔は見てなくても姿は見ただろ?」

 「――」

 フリバーは言葉を失う。

 確かに、あの“死の少女”はどう見ても少女の背格好では無かった。

 しかし、そう説明されれば納得ができる。

 『異世界の男の姿をとっていた』

 それなら、少女にしてはあまりに大きかった姿に理解できる。


 「――おいブレイル。12人中4人が知っている姿って言ったな。じゃあ、その残りの知らない8人、それに“死”と、それからエルシューも含まれているのか?」

 「うん?ああ。少なくとも俺は初めて見る顔だったからな」

 「だったら、後6人か?なら、そいつらの外見の特徴を教えろ」

 「え?あ、ああ分かった」


 突然の要求にブレイルは戸惑いを見せる。

 ただ、フリバーの様子を見て、素直に応じるのであった。




 『かみさま』


次回は本日18時ぐらい投稿です

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