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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
二章ヒーロー
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二節フリバー・ライヘルド6



 ――『“街”』の外は、その殆どが牧場と農場で出来ていた。

 嫌、殆どではない。全てといっても良い。

 細い道が一本。その道の右側には牧場、左側には農場と言うべきか。

 右を見れば、適当な柵が覆われ、中で沢山の牛や羊が群れを成していて家畜の世話に励む人影を見る。

 左を見れば、畑。トマトらしき野菜や、キュウリらしき野菜。そう思えばキャベツやらレタスやら、土に埋まる多分ニンジンとかジャガイモ。普通なら季節感覚がおかしくなりそうな畑が並んでいる。


 フリバーはそんな景色を眺めながら、唯一の細い道を進む。

 ぱっと見のどかな風景だが、落ち着いてみると異様だ。

 なにせ、トマト畑の隣に突然小麦畑が並びはじめたかと思えば、その隣で急に水田が現れ米に良く似た植物が風に揺れている。その隣はジャガイモ、そのまた隣はキュウリ。いったいどんな基準で畑が出来ているのか、農家でもないフリバーから見て不明だ。

 そして左を見れば、様々な色と柄をした牛やら羊やら豚なんかもいるのだから、正直目がごちゃごちゃとする。


 そんな永遠とも思える農場を道也に沿って進む。

 ――二時間ほどか。

 ただ細い道を歩いいた、フリバーは立ち止まった。

おそらく目的地の場所だ。


 「…この先、か?」

 フリバーの目に映るのは、それは何の変哲もない木の柵。

 左右を見渡せば、それが何処までも、長く、長く。農場と牧場を囲むように続いている。

 変わって、柵の向こうは変哲もない草原。

 農場と牧場は柵で丁度ばっさりと途切れており、柵の先にある草原は木一本生えていない。

 ただ、絵の具でも塗りたくったような青い空と緑が広がっているだけ。

 ――柵の一か所、外へ通ずる小さな扉があった。手を伸ばしてみるが鍵はかかっていないようだ。

 

 フリバーは迷いなく扉を開け、柵の外へ足を進める――。


 「………。なるほど、な」

 足一歩、柵の外へ踏み出す。それだけで十分であった。

 フリバーは溜息と共に理解する。


 農場エリアの向こう。

 草原へと足を踏み出したはずのフリバーの目に映るのは、先ほどまで見ていた白い街。

 ――紛れもなく「エルシュー街」と呼ばれる、二時間前に彼自身が居た場所だ。

 後ろを振り向けば、10メートルの外壁にアーチ状の出口()

門の先には「草原に遠くに風車と建物」と初めに見た、外の風景に()()()いる。


 フリバーは地図を広げて確認する。

 現在地と照らし合わせ、目に見える店の確認。

全部一致。ここは「エルシュー街」で間違いない。


 ――つまりフリバーは、柵を越えた、あの一瞬で()場所に戻って来た訳である。

 それは質屋で手に入れた情報通り。

 

 「この”異世界”は、草原と街しかない。いや、あの草原も含めて『“異世界()”』…ってことか。東京一個分ってまた随分小さい”世界“だな」


 そんな皮肉交じりの笑みを一つ。

 そう、この“異世界”には、この小さな街しか存在していない。紛れも無い事実である。

 ――ただ、フリバーに小さい妙な違和感が襲う。


 質屋で聞いた時は冗談かとすら思った。

しかし、いざ自身で確認すると何とも言えない感覚が襲う。

 この世界には、東京一個分の街と草原しかない。

 その草原は、最早草原とも呼べず。その殆ど全てが農場と畑で埋め尽くされている。

もしかすると、反対側の草原は果樹園でも広がっているかもしれない。

その農場で育てられた全てのモノがこの街全部の食料となっているのであろう。

この農場の広さは、それは、他に国や村と呼べるものが無いので仕方がないと思うが…。


 ――やはり、何とも言えない違和感をフリバーが襲う。

 ここに来るまでの間、フリバーは露店と呼べるものを目にしてきた。

 そこには沢山の果物や、野菜。肉に魚と。他には雑貨品が並んでいたのだが……………。

 だが、この違和感を取り払う事が出来る情報はフリバーには無い。

 コレもまた今は頭の片隅に置いておくしかなさそうだ。

 本当に何もかも情報が少なすぎる。


 「……よし、つぎだ」

 手に入れた情報を確定させて、フリバーは街の外壁から離れていった。

 気になっていた事は確認できた。此処にはもう用はない。だから次。

 彼は地図を確認したのち、次の目的地に向かった。


 その目的地と言うのは勿論――エルシューの元だ。

 質屋で、フリバーの推測は()()済みだ。

 エルシューと言う神は、町の中心。「エルシューの時計塔」に身を置いている……と言う事。

 つまりは地図上の金文字は神の住処で間違いないと言う事実。


 エルシューの時計塔は外壁から其処まで遠くはない。

 二時間ほどで、フリバーは街の中心に辿り着く。

 白くて目がチカチカする街の中で、一層白く、太陽の光を受けて輝く純白の塔。


 それを見上げながら、フリバーは眉を顰める。

 二日前からずっと思っていた。この街は白すぎで眩し過ぎて目が痛い。

 そこに更に純白の塔とか。神様は趣味が悪い。

しかも、塔の前には謁見者。行列がずらり。――これに並べとかうんざりだ。

 仕方がないのでダメもとだが、時計塔の入口に立つ無駄に美形な警備に声を掛けた。


 「おい。ここにエルシュー…様ってやつがいるんだろ?」

 「え、あ、ああ」

 「だったら、フリバー・ライヘルドが謁見しに来ました。…そう今すぐに伝えてくれないか」

 「フリバー?」

 唐突なフリバーの言葉に警備の男は一瞬戸惑ったような顔をした。

 しかし、少しの間、警備の男は手に持っていた板版に視線を移すと数秒…。「ああ」と声を漏らし笑顔。


 「フリバー・ライヘルドさんですね。エルシュー様からは貴方が来たら直ぐに通す様に伝えられています。こちらへどうぞ!」

 「………どうも」

 幸いなことに、どうやら並ぶ必要は無かったらしい。

いや、むしろ、これで「むりあわない」とか「ならんで」とか言われたら本気で一発、“神”の顔に拳をくれてやるつもりであったが。

 あの“神”、一応は気に掛けてくれていたらしい。


 警備に案内され、時計塔の上。

 白い螺子階段の先の豪奢な扉の向こう。

 玉座のような豪華な椅子に座っているエルシューの前に、フリバーは案内された。

 フリバーからすれば二日ぶり。

 椅子に深く腰掛ける“白い神”はウザい程に神々しく、憎たらしい程に美しい。

 

 入口の前で、露骨に眉を顰めるフリバーに反して。

エルシューはフリバーを見て、美しい顔に満面の笑みを浮かべ立ち上がるのだ。

 笑みを湛えたまま、距離を詰めようと数歩、歩く。


 「やぁ!フリバーくん、待ってい――」

 「今すぐ俺を元の世界に返せ」

 「――――」

 反対に。フリバーから送られたのは、勿論冷たい言葉であったが。




  『まあ、当たり前ね』




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