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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
一章はじまり
17/58

一節ブレイル・ホワイトスター18


 「――あ。死にましたね」

 “少女”の声が無情にも響く――。


 「――――」

 その瞬間、ブレイルは立ち上げり、聖剣を振り上げる。


 ただ、感情のままに身体が動いていた。

 狙うは側に立つ“少女”ただ一人。

 怒り狂う渦の中で、やっと、ただ一つを理解した。


 ――この“少女”は間違いなく殺すべき存在だ、と。



 銀色の切っ先が容赦なく“少女”の頭を狙う。

 首を撥ねる。一点の曇りもなく、ただそれだけを狙う。


 衝撃で“少女”の頭から被っていたフードがふわりと舞い――。

 赤い血が辺りに飛ぶ。


 「――な…ぁ」


 ブレイルの口から情けない声が漏れる。


 ――結果、“少女”は殺せなかった。


 銀色の刀身は彼女の首には届かなかったのだ。

 避けられた訳じゃない、避けるのを許したわけじゃない。

 むしろ渾身の一撃だ。本気で殺す一振りだった。

 その一撃を、


 ――“少女”は、酷く当たり前のように銀色の刃を掴み止めていたのだ。


 銀色の刃を“少女”の血が伝うのが分かる。

 血は出る。でも血が出るだけだ。聖剣はそれ以上ピクリとも動かない。

 渾身の力で引っ張ろうが、押し込もうが、少しも動かないのだ。


 それほどの力をこの少女が持っていることに、背筋が凍る。


 ああ、それに。それ以上に。もっと恐ろしい物を見た。


 ――それは顔。

 いままで見ることも出来なかった“少女”と呼んでいた人物のその顔。

 ようやく露になった、此方を見下ろす、その顔をただ愕然と見つめる。


 フードの下には金髪の紫の瞳の少女。そんなモノは存在していない。

 むしろ、そこにあった顔は“少女”ですらない。

 初対面の時から感じていた違和感の正体がはっきりした。

 


 ――目の前には“少年”が一人立っていた。


 黒いローブを纏った少年。

 年のころは13程か。

 しかし少女と見間違うはずもない、年相応の整った顔立ちの少年が一人。

 真っ黒な髪に、何処までも暗い真っ黒な瞳。


 ブレイルはこの存在を知っている。一度だけ、会ったことがある。

 今日、会ったのだ。忘れるはずもない。


 ――だって、その人物は路地裏で“彼女”の側にいたのだから。



 どう見たって年齢は違う、けれど、その面影は間違えるはずもない。

 そこに立っていたのは「アドニス」そう名乗った男。


 ――その男と同じ顔をもつ人物(少女)だった。



  ◇



 ブレイルは歯を噛みしめる。

 路地裏で“彼女”と再会した時、正直ほっとしていたところがあった。


 この世界に飛ばされて、酒場で聖剣を持ってきてくれた“彼女”。

 勇者を除き聖剣に触れられる者は「真に純粋な存在」か、はたまた「()」と呼ばれる存在のみ。


 この世界には“神様”がいる。そう確信した時、もしかしてと、その不安がかすめたのだ。

 けれど、再会して再確認した“彼女”があまりにもエルシューの言った“邪神”と容姿が違っていたから。


 髪の色や目の色だけじゃない、小柄と言う特徴すら“彼女”は持ち合わせてなかったから。

 だから“彼女”はただ純粋な普通な少女であると、そう信じたのだ。


 ああ、全く馬鹿らしいとブレイル自分自身を罵倒する。

 

 ――……会ったことも無い筈なのに、ただの一目で聖剣の真の持ち主を当て、

 ――……名乗っても無いの“にブレイル”という名を当たり前のように呼び。

 ――……目の前に唐突に化け物が現れ、切り裂かれようともあまりに平然としていた。


 そんな“少女”が、普通な訳が無い――。



 毛先が金髪で、十字の模様が入った瞳?

 そんな特徴的な容姿、隠さないわけがない。

 現に、隠せる可能性なら既にブレイルは目にしている。


 ――自分の仲間そのものとか思えない容姿をした“神”を目の前で確認したじゃないか。


 エルシューと言う男の姿は身に覚えがない。

 しかしだ。アクスレオスと目の前の“少女”から推察できる。



 この世界の神様は、人間の前では「他人」の姿で暮らしている――と。



 そりゃ、誰にも見つからないわけだ。

 嗚呼、それでもまさか“彼女”が、

こんな幼い子供が、


 “邪神”だなんて、思ってはいなかった。

 ――思いたくも無かった。



 「…お前、なんだ。“邪神”なんて呼ばれているが、正体は」


 目の前の少女に問う。

 彼女は表情一つ変えず、小さく首をかしげた。


 「モルス、そう呼んでくれていいと言いましたが?……ああ、それよりもタナトス………そう名乗った方が宜しいですか?」


 その発言に心底腹が立つ。


 「聞きたいのは名前じゃない!!何の神だ!」


 ブレイルの声が血まみれになった広場に響き渡る。

 少女は少しの間、その少年の顔に僅かな笑みを浮かべた。


 「ん、そうか。しらないのか」


 なんて呟きながら、“彼女”は手に掴んでいた聖剣を手放す。

 漸く自由になったブレイルは、数歩後ろに下がり彼女から距離を取る。

 距離を取る中で、“彼女”の切り裂かれていた手が、あっという間に塞がっていくのが見えた。


 再び切り掛かられると思いもしてないのか、どうせ目の前の人間には無駄であると確信しているのか。

 “少女”は警戒も何もしていない。

 そのまま、ブレイル達からほんの数歩。

 後ろへ下がると、ローブの裾を軽く摘み上げて、“彼女”は優雅に頭を下げた。

 

 「これは失礼しました。ブレイル・ホワイトスター、パル・リリア・ミディンガム」


 それは彼女が初めて見せた、あまりに少女らしいしぐさ。

 けれど、“少年”の顔に口が裂けんばかりな笑みをひとつ浮かべて。

 


 「――――私は、“死”――。“死”そのものです」


 ようやく、自分の正体を明かすのだ。

 

 


 

 


 『そして、ついに勇者は彼女と出会う』





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