表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
一章はじまり
15/58

一節ブレイル・ホワイトスター15



 

 唐突に表れた“少女”に、同様にパルもリリーもアーノルドも驚く。

 しかしパルは正体に気が付いて直ぐにホッとしたような笑みを浮かべ、2人に声を掛ける。


 「彼女は、心配ありません」

 「――……彼女……?あ、ああ、女の子、なんだ」

 「あ、ああ。酒場の……」


 パルの話を聞いて、リリーも気が付き、アーノルドも安堵の表情を浮かべる

 特にアーノルドは人の良い小さな笑みを浮かべた。


 もう頭は大丈夫なのだろう。ベンチからゆるりと立ち上がって。

背の高い、しかしまだ幼い声をする“少女”へと近づいてく。


 「えー、お嬢ちゃん。君も逃げて来たのかな?迷子?」


 優しい、気遣うようなアーノルドの声。

 彼は本当に“彼女”を気遣ったのだろう。それは見て取れる。

 “少女”の目の前に立って、大きな手が“少女”の頭に触れた。

 まるで、我が子の頭を撫でるように、優しく。


 そんなアーノルドをフードの奥で、黒い瞳は見つめている。

 感情はない。

 ただ真っすぐに、じっくりと。何かを待っている様に。



 そして――。

 その時がやってくる。



 “少女”はアーノルドの顔にゆっくり手を伸ばした。

 頬に触れて。優しく撫でる。


 そして、囁くように、彼の耳元で、呟くように伝える――。



 「アーノルド・ヴァリー。……後5分です――。」


 

 静かで、しかして、その声は妙にはっきりと。

 ―― 言い切ったのだ。


 アーノルドは自分の時間が止まったような感覚に陥った。

 周りの音が無くなり、自身の呼吸音と心臓の音だけが響く。

 目の視点が会わない。

 目の前がぼやけて見える。ただ、そう、目の前の青白い“少女”以外は――。


 がくりと、いつの間にか尻餅を付いた。足が震えて上手く立てそうにない。

 後ろから声がするのに上手く聞き取れない。目の前の少女から目が離せない。


 ――もう一度言いましょうか?…ああ、そうですね。コレ、必要ですね。


 聞こえないはずの音が、“彼女”の声だけはっきりと聞こえる。

 黒い冷たい目、黒い髪。

 ちがう。容姿が違う。金髪じゃない。目の色も違う。背格好も違う。

 だから違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。


 

 ――“少女”の手に、分厚い本が現れる。

 ただ、その瞬間まで、アーノルド・ヴァリーは神エルシューの言葉をただ信じ続けていた。



 「アーノルド・ヴァリー、貴方は5分後に死にます」



 「冷たい“死”」が宣告する――。



   ◇



 「あああああああああああああああああああああ!!!!!」



 アーノルドの口から洩れたのは絶叫の他に何もなかった。

 恐怖に引き攣った表情となり、這い蹲って目の前の存在から逃げ出す。


 その様子にブレイルとパルはただ唖然と、見つめるしか出来ない。

 隣の噴水の音だがアーノルドの絶叫と噛合う様に響き続ける。

 何があったかなんて、分かる筈がない。


 だが、もう一人。リリーだけは違う。

 彼女も目に映したからだ。

 その昔からの言い伝え通りの“彼女”の特徴に。


 ああ、ちがう。ブレイルもパルも気付いていたに違いない。

 だが、あまりに聞いていた容姿が違う為に信じたくないだけ。


 特にブレイルは信じたくない。

 だからこそ震える声を絞り出す。“少女”に駆け寄り、“彼女”の肩を掴む。


 「こ、こら!お前、なに言ってんだ!そんなこと人に言ったらだめだ!!」


 幼い子にするように、叱り飛ばす。

 しかしだ、“少女”はブレイルに視線一つ送らない。

 ただ静かに告げる。


 「――あと4分」

 「――っ」


 思わず手を振り上げる。

 頬を、狙って。振り下ろす。


 しかし。

 振り下ろしたブレイルの手は“少女”に掠りもしなかった。

 彼の手は止まっていた。

 彼女に触れる前に、少女にしては大きな青白い手が、ブレイルの手首をつかんでいる。

 

 ――受け止められたと気が付くまで、時間が掛かった。


 ブレイルの表情が変わる。

 腕を引っ張る。力いっぱい。

 でも――……手はビクともしない。

 彼女の手は、微動だにせず、ブレイルの手を離さない。


 女の力とは到底思えない。



 「いや!!父さん逃げて!!」

 すぐ、後ろでリリーがアーノルドを支えながら叫ぶ。


 「っ!ブレイル!ブレイル助けて!!」

 縋りつくような彼女の声が耳に届いた。

 リリーは恐怖に染まりながら叫んだ。ただひたすらに助けを求めるために叫んだ。


 「――そいつが“邪神”よ!この世界で唯一の悪よ!!そいつは――」

 「――あと、3分」


 その声さえも掻き消す様に、静かな声が響き響く――。

 

 ブレイルは何とか、自身を掴み上げる手を振り払うと、聖剣を手に取った。

 数歩後ろに下がって。睨みながら。

 目の前の存在に刃を向ける。それでも切り掛かる事は出来なかった。


 ――……彼女が、この“少女”が“邪神”だなんて思いたくなかったのだ。

 相変わらず“少女”の顔は見えない。“彼女”がどんな顔をしているか分からない。

 ああ、いや。そんなものはブレイルの願望だ。ただ一つだけ分かっていることがある。



 “彼女”をアーノルドに一歩でも近づけさせてはいけない。それだけは確か。



 ――嗚呼、それ以前に“彼女”の正体を知っておくべきだった。



 「うあああああああああああ!!!!」


 ブレイルの後ろ。

 アーノルドが逃げようとした先、誰かの怒号と共に駆けてくる足音が聞こえた。



  ◇



 ――……アーノルドの目に映ったのは一人の男だ。

 奇声を上げながら男は、側にいたリリーを撥ね飛ばしアーノルドに容赦なくぶつかる。

 血走った目で、片手に金色の何かを握りしめて、狂気に染まった顔で、憎しみに歪み切った顔で、見知らぬ男の感情を一心に受けながらアーノルドは、ただ小さく「え」と声を漏らす。


 男が離れる。手から血が流れている。違う。

 アーノルドはゆっくり、視線を下げた。お腹が痛い。


 ゆっくりと下ろした視線の先、

 アーノルド()の目にはナイフが一本。


 銀色で赤い、赤い色をして、

 深々と、自分のお腹に深々と突き刺さっていた――。



 「――あと、2分」

 少女の声が木霊する。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ