表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
一章はじまり
13/58

一節ブレイル・ホワイトスター13



 診療所があった路地を抜け、ブレイルは大通りへと飛びだす。

 先程平穏だった様子とは大きく違い、逃げ回る人々が目に映った。

 その中で彼は叫びを上げた人物を探す。


 「――!」


 見つけたのは直ぐ。

 数メートル離れた場所。小さな露店の前。

 ツインテールのピンクの少女が地面に座り込み小さく震えている。

 たが、それだけじゃなかった。


 彼女の足元に、黄色い液体を垂れ流す緑の物体が倒れているのが分かる。

 緑の異形な手で、リリーの細い足を掴み、離さない。

 リリーはそんな化け物の前で手にナイフを持ったまま震えているのだ。

 ブレイルはそんなリリーの元に駆け寄った。


 「リリー!」


 声を掛ければ、怯え切った瞳がブレイルに向けられる。

 彼女の元に駆け寄ったブレイルは、聖剣でリリーの足を掴む化け物の腕を切り離す。

 ちぎれるような嫌な感触が聖剣から手まで伝わり、思わず眉を顰めたが、気にしていられない。


 しかも、腕は簡単に切り落とされたと言うのに、リリーを掴む手は離そうとしなかった。

 仕方がなく、ブレイルは膝を付くと気色の悪い手に自身の手を伸ばす。


 「――っ」

 ぶよぶよした気持ち悪い感触。少し力を入れるだけで化け物の指の一本が潰れ、黄色い液体がリリーの足に掛かる。


 「ひ――」

 「わるい我慢してくれ!」


 気持ち悪いのは分かる。しかしどうすることも出来ない。

 ブレイルは残りの指をもぎ取り、リリーの足から化け物の手を剥す。


 リリーの足は黄色い液体で汚れたが、かすり傷1つついていない。その事には胸を撫で下ろす。

 しかしだ、リリーはそうもいかない。

 取り乱したようにスカートのすそで汚れた足を必死に拭い、化け物を見下ろしながらカタカタと震える。


 「――リリー。リリー、大丈夫だから、何があった?」


 そんな彼女を気遣い、彼女の顔を覗き込みながらブレイルはリリーに問いただした。

 縋るようにリリーはブレイルに抱き着き、口を開く。


 「わ、私、パルから話聞いて…!あ、あんたを探してたら!!こ、こいつらが急に、こいつらに襲われて!襲い掛かって来て!それでナイフで!!!なんで、どうして!?」

 「わかった。分かったから、もう大丈夫。こいつはもう動かない。お前を襲う奴はもういない」


 怯えるリリーを慰めながら、ブレイルはあたりを見渡す。

 逃げ惑う人々の中にあの化け物の姿は無かった。少なくとも動いている化け物は――。

 綺麗な白い街が彼方此方に黄色と緑の物体で汚れている。

 どうして突然。こんな化け物が現れたのか。何処から現れたのか。ブレイルには分からなかった。


 そんな中リリーが震える手で、ある大通りを指差す。


 「あ、あっち!あそこから出て来た!!ゲレル様の…と、父さんの、び、病院がある!!と、父さんがまだっ!ぱ、パルも一緒に――!」

 「!!」


 その説明だけでブレイルには充分だった。

 パルがあの先に、化け物が出て来た場所にいる。

 早く助けに行かなくてはいけない。


 「――リリーは待ってろ!!」


 頭より体が先に動いたのはコレで何度目か。

 縋りつくリリーの手を離し、ブレイルは示された大きな通りに身体を向ける。

 人ごみの中を何とかすり抜け、人が逃げてくる大きな角を曲がれば。


 「――っ!」

 角を曲がった瞬間。最初に見えたのは、あの化け物。

 意味の分からない叫び声を上げながら、腰が抜け震えている男に手を伸ばしている。


 先ほどと同じだ。もう恐怖も驚きも無い。

 ブレイルは聖剣を握りしめ地面を蹴ると飛び掛かる。


 距離は3メートルはあったが、彼には関係ない。ひと蹴りで目標までたどり着く。

 瞬時に、体制を変え、男に伸びる腕を切り落として、次は首。

 化け物は相変わらず脆く一瞬で崩れ落ちる。


 「うわぁぁぁ!」

 「!」


 次にまた、近くで誰かの叫び声が上がった。

 顔を上げる。別の男が襲われている。もう既に覆いかぶさられている。

 あれでは聖剣で切り掛かる事は難しい、男を傷つけてしまう可能性がある。

 仕方がない。ブレイルは数少ない「魔法」に頼る。


 「――‴百歩穿楊(ターゲット)‴――オン――」


 一つ「どんな攻撃も必ず狙った相手に当たる」魔眼制作。

 これで、ブレイルの目には「絶対命中」の魔眼が宿った。

この目に射抜かれたものは何があっても、彼の攻撃から逃れることは出来ない。

勿論、ターゲットは「化け物」。直ぐさま、指先を化け物へと向ける。


 「‴一箭双雕(プファイル・アロー)‴!!」


 二つ目、その指先から一本の鋭い光輝く弓矢を飛ばす魔法――。

 単純だが、威力は充分。

 

 「絶対命中」の加護を着けた光の矢は一直線に化け物へと向かう。

 化け物は逃れられるはずもなく、矢先は緑の頭に突き刺さり破裂と共に貫通した。


 ――それだけでは終わらない。


 輝く矢は消えることなく、そのまま飛び続ける。

 真っすぐに曲線を描き。

 その矢尻は迷うことなく、その先に蠢いていた別の化け物(もう一匹)の頭に見事に命中した――。 

 化け物が倒れると、ようやく矢は消え去る。


 これが数少ないブレイルの魔法の一つ。

 「一本の矢で、複数の敵を一気に仕留めることが出来る魔矢」だ。


 矢の最大補足は三人と少ないが、‴目‴の効力は30分。

 二つを合わせて戦うなら、三つあれば十分である。

 何せ、「絶対命中」はブレイルが聖剣を振り上げるだけでも標的に当たるのだから。


 矢と聖剣があれば、これぐらいの敵は何も問題はない。



   ◇



 ブレイルは次から次へと目に付いた化け物を倒していく。

 20体ほど倒したか。しかし何処にもパルの姿は見つからない。

 魔矢と聖剣を使いながら、更に先へと道を進んでいく。

 進むたびに化け物の姿は多くなっていったが、見かける人も少なくなっていった。



 「――ブレイル!!」


 そして、ようやく探していた人物の声。

 視線の先、10mほどか。

 大きな特徴的な屋敷の前、座り込むアーノルドと彼に寄り添うパル。


 2人の周りには化け物が三匹。パルが結界魔法を張ったのだろう。化け物は二人には触れられないが、結界の周りでうぞうぞと蠢いていた。周りを見る限り残りの化け物は、その三匹だけだ。


 しかし、アレからもう30分。魔眼が消えるまで数十秒。

 聖剣で飛び掛かろうにも流石に距離がある。パルの結界も限界に見えた。

 ブレイルが、あそこ迄走り間に合うのが先か。パルの結界が消えるのが先か。


 もし結界が消えたら近接攻撃は流石に厳しい。魔眼がない以上、二人に当たる可能性が無いとは言い切れない。

 ――だから、選択肢は一つしかない。ブレイルは化け物に指を向ける。


 「――っ!‴一箭双雕(プファイル・アロー)‴!!!」


 ブレイルは力を振り絞って魔矢を放つ。

 ここに来るまで10発以上は撃って来た。さすがに魔力の消耗が激しい。

 魔眼の効力が消えかかる。消えてしまえば、アレは唯の矢に変わる。


 ターゲットに、ちゃんと当たってくれるか――……。

 その前に、敵を殲滅しなければ。


 指先から、魔矢が飛びでる。

 飛び出た輝く矢は勢いよく、化け物達の頭を吹っ飛ばしていく。


 ――1匹。――2匹。


 魔眼の能力が消える。


 ――……そして、


 「――っ」


 魔眼の効力が消えると同時に最後の1匹の頭が吹き飛んだ――。

 パルの結界が消えたのもほとんど同時。


 鋭い痛みが、ブレイルの目に襲う。無理し過ぎたのは嫌でも気付く。

 それでも、ブレイルは目元押さえたのは一瞬だけ。

 彼は、直ぐに体制を整えて、聖剣を握りしめると、二人の元へと駆け寄るのである。






  『これが、勇者と言うものだ!』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ