一節ブレイル・ホワイトスター13
診療所があった路地を抜け、ブレイルは大通りへと飛びだす。
先程平穏だった様子とは大きく違い、逃げ回る人々が目に映った。
その中で彼は叫びを上げた人物を探す。
「――!」
見つけたのは直ぐ。
数メートル離れた場所。小さな露店の前。
ツインテールのピンクの少女が地面に座り込み小さく震えている。
たが、それだけじゃなかった。
彼女の足元に、黄色い液体を垂れ流す緑の物体が倒れているのが分かる。
緑の異形な手で、リリーの細い足を掴み、離さない。
リリーはそんな化け物の前で手にナイフを持ったまま震えているのだ。
ブレイルはそんなリリーの元に駆け寄った。
「リリー!」
声を掛ければ、怯え切った瞳がブレイルに向けられる。
彼女の元に駆け寄ったブレイルは、聖剣でリリーの足を掴む化け物の腕を切り離す。
ちぎれるような嫌な感触が聖剣から手まで伝わり、思わず眉を顰めたが、気にしていられない。
しかも、腕は簡単に切り落とされたと言うのに、リリーを掴む手は離そうとしなかった。
仕方がなく、ブレイルは膝を付くと気色の悪い手に自身の手を伸ばす。
「――っ」
ぶよぶよした気持ち悪い感触。少し力を入れるだけで化け物の指の一本が潰れ、黄色い液体がリリーの足に掛かる。
「ひ――」
「わるい我慢してくれ!」
気持ち悪いのは分かる。しかしどうすることも出来ない。
ブレイルは残りの指をもぎ取り、リリーの足から化け物の手を剥す。
リリーの足は黄色い液体で汚れたが、かすり傷1つついていない。その事には胸を撫で下ろす。
しかしだ、リリーはそうもいかない。
取り乱したようにスカートのすそで汚れた足を必死に拭い、化け物を見下ろしながらカタカタと震える。
「――リリー。リリー、大丈夫だから、何があった?」
そんな彼女を気遣い、彼女の顔を覗き込みながらブレイルはリリーに問いただした。
縋るようにリリーはブレイルに抱き着き、口を開く。
「わ、私、パルから話聞いて…!あ、あんたを探してたら!!こ、こいつらが急に、こいつらに襲われて!襲い掛かって来て!それでナイフで!!!なんで、どうして!?」
「わかった。分かったから、もう大丈夫。こいつはもう動かない。お前を襲う奴はもういない」
怯えるリリーを慰めながら、ブレイルはあたりを見渡す。
逃げ惑う人々の中にあの化け物の姿は無かった。少なくとも動いている化け物は――。
綺麗な白い街が彼方此方に黄色と緑の物体で汚れている。
どうして突然。こんな化け物が現れたのか。何処から現れたのか。ブレイルには分からなかった。
そんな中リリーが震える手で、ある大通りを指差す。
「あ、あっち!あそこから出て来た!!ゲレル様の…と、父さんの、び、病院がある!!と、父さんがまだっ!ぱ、パルも一緒に――!」
「!!」
その説明だけでブレイルには充分だった。
パルがあの先に、化け物が出て来た場所にいる。
早く助けに行かなくてはいけない。
「――リリーは待ってろ!!」
頭より体が先に動いたのはコレで何度目か。
縋りつくリリーの手を離し、ブレイルは示された大きな通りに身体を向ける。
人ごみの中を何とかすり抜け、人が逃げてくる大きな角を曲がれば。
「――っ!」
角を曲がった瞬間。最初に見えたのは、あの化け物。
意味の分からない叫び声を上げながら、腰が抜け震えている男に手を伸ばしている。
先ほどと同じだ。もう恐怖も驚きも無い。
ブレイルは聖剣を握りしめ地面を蹴ると飛び掛かる。
距離は3メートルはあったが、彼には関係ない。ひと蹴りで目標までたどり着く。
瞬時に、体制を変え、男に伸びる腕を切り落として、次は首。
化け物は相変わらず脆く一瞬で崩れ落ちる。
「うわぁぁぁ!」
「!」
次にまた、近くで誰かの叫び声が上がった。
顔を上げる。別の男が襲われている。もう既に覆いかぶさられている。
あれでは聖剣で切り掛かる事は難しい、男を傷つけてしまう可能性がある。
仕方がない。ブレイルは数少ない「魔法」に頼る。
「――‴百歩穿楊‴――オン――」
一つ「どんな攻撃も必ず狙った相手に当たる」魔眼制作。
これで、ブレイルの目には「絶対命中」の魔眼が宿った。
この目に射抜かれたものは何があっても、彼の攻撃から逃れることは出来ない。
勿論、ターゲットは「化け物」。直ぐさま、指先を化け物へと向ける。
「‴一箭双雕‴!!」
二つ目、その指先から一本の鋭い光輝く弓矢を飛ばす魔法――。
単純だが、威力は充分。
「絶対命中」の加護を着けた光の矢は一直線に化け物へと向かう。
化け物は逃れられるはずもなく、矢先は緑の頭に突き刺さり破裂と共に貫通した。
――それだけでは終わらない。
輝く矢は消えることなく、そのまま飛び続ける。
真っすぐに曲線を描き。
その矢尻は迷うことなく、その先に蠢いていた別の化け物の頭に見事に命中した――。
化け物が倒れると、ようやく矢は消え去る。
これが数少ないブレイルの魔法の一つ。
「一本の矢で、複数の敵を一気に仕留めることが出来る魔矢」だ。
矢の最大補足は三人と少ないが、‴目‴の効力は30分。
二つを合わせて戦うなら、三つあれば十分である。
何せ、「絶対命中」はブレイルが聖剣を振り上げるだけでも標的に当たるのだから。
矢と聖剣があれば、これぐらいの敵は何も問題はない。
◇
ブレイルは次から次へと目に付いた化け物を倒していく。
20体ほど倒したか。しかし何処にもパルの姿は見つからない。
魔矢と聖剣を使いながら、更に先へと道を進んでいく。
進むたびに化け物の姿は多くなっていったが、見かける人も少なくなっていった。
「――ブレイル!!」
そして、ようやく探していた人物の声。
視線の先、10mほどか。
大きな特徴的な屋敷の前、座り込むアーノルドと彼に寄り添うパル。
2人の周りには化け物が三匹。パルが結界魔法を張ったのだろう。化け物は二人には触れられないが、結界の周りでうぞうぞと蠢いていた。周りを見る限り残りの化け物は、その三匹だけだ。
しかし、アレからもう30分。魔眼が消えるまで数十秒。
聖剣で飛び掛かろうにも流石に距離がある。パルの結界も限界に見えた。
ブレイルが、あそこ迄走り間に合うのが先か。パルの結界が消えるのが先か。
もし結界が消えたら近接攻撃は流石に厳しい。魔眼がない以上、二人に当たる可能性が無いとは言い切れない。
――だから、選択肢は一つしかない。ブレイルは化け物に指を向ける。
「――っ!‴一箭双雕‴!!!」
ブレイルは力を振り絞って魔矢を放つ。
ここに来るまで10発以上は撃って来た。さすがに魔力の消耗が激しい。
魔眼の効力が消えかかる。消えてしまえば、アレは唯の矢に変わる。
ターゲットに、ちゃんと当たってくれるか――……。
その前に、敵を殲滅しなければ。
指先から、魔矢が飛びでる。
飛び出た輝く矢は勢いよく、化け物達の頭を吹っ飛ばしていく。
――1匹。――2匹。
魔眼の能力が消える。
――……そして、
「――っ」
魔眼の効力が消えると同時に最後の1匹の頭が吹き飛んだ――。
パルの結界が消えたのもほとんど同時。
鋭い痛みが、ブレイルの目に襲う。無理し過ぎたのは嫌でも気付く。
それでも、ブレイルは目元押さえたのは一瞬だけ。
彼は、直ぐに体制を整えて、聖剣を握りしめると、二人の元へと駆け寄るのである。
『これが、勇者と言うものだ!』




