第28話 誰かが一位になる週
六作が最終更新を出す一週間が始まった。
前週の確定順位では、太宰の『謝る人』が二位。一位との差は八十六点だった。乱歩が七位、晶子が九位で、最終回の反応によっては先頭へ届く位置にいる。
一方、一葉は二十六位、漱石は三十九位、芥川は六十四位だった。
一葉は最新話まで読む人の割合が六作で最も高い。芥川は評価を付けた読者の点が高く、漱石には順位のわりに長い感想が集まっている。数字の種類を変えれば、それぞれ先頭に立つ場所があったが、週間総合一位に最も近いのは明らかに太宰だった。
以前の俺なら、六作を順位だけで並べ、どの文豪が現代でも強いか答えを出そうとしただろう。
今は、数字を見ても単純には比べられなかった。
『夜明け前のレジ』を最後まで読む人と、『地図から消えた町』の謎を追う人は、同じ楽しみを求めているわけではない。『善意の記録』へ高い評価を付ける人も、『謝る人』へ長い感想を書く人も、それぞれ別の場所を読んでいる。
一位も、六十四位も決まる。それでも、その順番だけが六作の答えになるわけではなかった。
六人は、自分の作品が一位になれば自分だけが帰ると思っている。
相手の原稿へ助言すれば、その人の帰還を早め、自分だけが残るかもしれない。それでも、乱歩は一葉のあらすじへ期限を出すよう勧め、一葉は乱歩の町へ暮らす人を増やした。晶子は太宰の更新予定を確認し、芥川は漱石の一文へ余計な説明があると指摘する。
競争相手であることと、原稿を読んだ相手であることは、どちらか一方にはならなかった。
「自分の助言で、相手が先に帰るかもしれませんよ」
俺が乱歩へ尋ねると、本人は不思議そうな顔をした。
「面白くなる案を黙っている方が難しい。それに、私の作品も負けるつもりはありません」
一葉も、残される可能性を考えていないわけではなかった。それでも晶子の最終回に、主人公以外の生活が急に消えていると伝えた。
晶子は礼を言い、締切直前でも書き直した。
「先生、最終回の結論を見ていただけますか」
芥川が尋ねると、漱石は原稿を受け取った。
「意見は言う。しかし決めるのは君だ」
以前なら全員の結論をまとめていた漱石も、今は一人の読者として返すようになった。
俺は六つの管理画面を行き来し、公開日時と本文を確認した。
全員の最終更新は、日曜の夜までに出る。あとは月曜午前零時の締切を待つだけだった。
最後の予約を確認する時、俺は一人ずつ名前を読み上げた。
夏目総一、芥川律、太宰誠、江戸川迷、樋口いと、与謝野灯。
隠す気があるのか疑った筆名にも、今ではそれぞれの作品が結びついていた。
「太宰さん、さっきから何を見てる?」
太宰の画面に、俺の投稿者ページが一瞬だけ映った。
「三宅さんの作品が、改稿後にどれほど変わったか確認していました」
「非公開の下書きは触らないでください」
「数字を見るだけの権限では、数字がないと退屈なんですよ」
笑ってごまかしたが、俺は念のため下書きの状態を確認した。公開設定は付いていない。
最終更新の確認に追われ、ログイン状態まで切り替える余裕はなかった。太宰には閲覧と分析だけという約束を、以前にも確かめている。
一度破られた境界を、今度は守るだろうと思いたかった。
六人分の最終回を読む方が先で、その画面を開いたことはすぐ忘れた。
日曜の前夜、六作の予約確認を終えた時には、日付が変わりかけていた。
一葉と晶子はすでに休み、乱歩も地図を片づけている。漱石は翌朝読む本を選び、芥川は最後まで注記を直していた。
書斎のモニターだけが明るい。
「まだ何か直すのか?」
俺が尋ねると、太宰はいつもの笑みを浮かべた。
「いいえ。予約投稿というのは便利ですね、と思っていただけです」
「自分の作品は、もう予約しただろ」
「ええ。僕の作品は」
少し妙な言い方だった。
しかし太宰はすぐ『謝る人』の最終画面を表示し、俺もそれ以上は尋ねなかった。
書斎を出る時、背後で小さな操作音が聞こえた。
振り返ると、画面には六作の順位予測が並んでいるだけだった。




