第21話 最初の月曜日
最初の月曜、午前零時。
ノベルポートのランキング画面が『集計中』へ変わった。
六人はリビングに集まっていた。原稿を読む者、時計を見る者、興味がないふりをする者。十五分の待ち時間だけで、性格が分かる。
乱歩は残り秒数を紙へ書き、太宰は更新ボタンを押そうとして俺に止められた。
「更新しても、早く結果は出ません」
「分かっています。待っている僕の気持ちが、運営へ伝わるかもしれない」
「伝えなくていいです」
一葉は翌朝でもよいのではないかと言いながら、席を立たない。晶子は全員分の湯飲みを片づけ始め、漱石はその手伝いを申し出て断られていた。
芥川は『集計中』という表示の文言が規約と同じかを確認している。
零時十五分、画面が切り替わった。
六作とも、一位ではなかった。
誰も消えなかったことを確認するように、俺は画面から食卓へ目を移した。六人とも同じ席にいる。太宰の画面も消えていない。
最初に息を吐いたのが誰だったのかは分からない。
太宰の『謝る人』が六作の中では最も上だったが、総合上位にはまだ遠い。乱歩は閲覧数が多い一方、途中までしか読まれていない。一葉は閲覧こそ少ないものの、読み始めた人が最新話まで進む割合が高かった。
晶子は更新回数で安定して伸び、芥川は評価を付けた読者から高い点を得ている。ただし、入口となる閲覧が少ない。漱石は感想だけが妙に長かった。
順位だけなら一列に並ぶ。しかし中身を見ると、六作はまるで違う読まれ方をしていた。どの数字を重く見るべきか、俺にはまだ判断できない。
それでも画面を切り替えるたび、最初に確かめてしまうのは順位だった。
太宰は数字の大きさを気にし、乱歩は閲覧からフォローへ変わる割合を比べた。一葉は少人数でも最後まで読まれていることへ安堵し、芥川は、評価した数人だけで作品全体を判断できないと自分へ言い聞かせている。
晶子は順位を一度確認すると、次の更新時刻を前倒しできないか尋ねた。
「数字を見て、すぐ予定を変えるのですか」
一葉が聞く。
「読者に合わせるのではありません。続きができているのに、決めた時刻まで隠しておく必要があるか考えています」
二人はしばらく話し、結局、告知した予定は守ることになった。速く書けることと、待つ人の予定を変えてよいことは別だった。
「人数より、話したくなる作品ということでしょう」
俺が言うと、漱石は喜ぶより困った顔をした。
実際、漱石は自作の感想より、ほかの五人から相談を受ける時間の方が長かった。
乱歩からは題名を変えるべきか、一葉からは更新時刻をそろえるべきか、芥川からは評価数が少ない段階で改稿すべきかを尋ねられる。
「私は運営でも編集者でもない」
そう言いながら、漱石は全員の話を聞いた。
太宰が、『相談役の空席』の主人公と同じだと指摘する。
「似ていない」
「ご自分の順位を見る時間までなくなっていますよ」
漱石はようやく自作の画面を開いた。
一位になれなかった以上、誰も消えない。
落胆すべき結果だったが、六人の顔には、わずかな安堵も見えた。一人だけ帰ると思っているなら、誰かが消える夜を先延ばしにできたことになる。
その安心を口にした者はいない。代わりに乱歩が、次回は十五分の待ち時間に菓子を用意しようと言い、一葉が深夜に食べる必要はないと却下した。
いつものやり取りが続く。それだけで、俺も少し安心していた。
「来週があります」
晶子が言い、次の更新予定を確認した。
その横で、太宰の公開SNSは九万人を超えていた。小説とは結びつけていないのに、短文と応答だけで増え続けている。
「この方々へ作品を教えれば、来週には終わるかもしれません」
太宰が画面を見せた。
「それはしない約束です」
俺が答えると、太宰は分かっていますと言いながら、九万人という数字を消さなかった。
翌朝には、十万人を超えていた。




