99.宣誓
「姫さん、中の準備はできたようだ。扉を開けるぞ」
「ええ」
ガイオとジニーが扉を開ける。
宣誓台の前で、レオンが振り返るのが見えた。
一歩ずつ、大聖堂の中を進む。
隣のお父様が緊張しているのが腕から伝わる。
あと少しで宣誓台のところまで来て、足が止まる。
「陛下、ルシールのことを頼みましたよ」
「ああ」
力強くうなずいたレオンに、お父様もうなずく。
迎えに来てくれたレオンに交代され、お父様が席に座る。
宣誓台の前に二人で立つ。
宣誓台の向こうには誰もいない。
そこにはノヴェル国を作った神がいるとされている。
何も見えないけれど、その存在はいると信じている。
魔力を人に与えたのも、生まれ変わりがあるのも、
神のおかげだと言われているから。
そのどちらの恩恵も受けた私が信じないわけにはいかない。
「陛下、ルシール様、誓いの言葉を」
「ああ」
レオンが宣誓台ではなく、なぜか私の方を向いた。
「神よ、リアーヌともう一度会わせてくれたことを感謝する。
これより先の俺の命をすべてかけて、ルシールを幸せにすると誓う。
レオンハルト・ノヴェルの人生をルシールに捧げよう」
「神よ、この世界にもう一度生まれ変われたことに、感謝いたします。
次こそは、最後までレオンのために生きることを誓います。
ルシール・アルベールの人生をレオンに捧げます」
本来は最後の一文だけでいいけれど、それだけでは満足できなかった。
この運命に感謝を、そして次こそは最後までそばにいたい。
そんな思いから、こんな誓いの言葉になった。
目を合わせ、心から誓い合う。
きっと神もどこかで聞いていることだろう。
自分が生まれ変わらせた者の言葉を。
参列者から祝福を受け、結婚式は終わる。
一度控室に戻った後、大広間で結婚のお披露目が始まる。
王族席に座り貴族たちからお祝いの言葉を受けるのだが、
一番最初に来たのはアンペール国の前国王夫妻だった。
その隣には少し疲れたような顔の第二王子もいる。
「ルシール!なんて綺麗なんだ!」
「本当に素敵ね!」
「ありがとうございます」
結婚を喜んでくれている前国王夫妻に素直にお礼を言う。
交流が始まってから、二か月に一度はこの国に来ている。
最初は面倒だと思っていたけれど、何度も会う事によって、
ほんの少しだが祖父母と孫の関係に近づいている。
「アンペール国王の名代はアンリ王子なんだな?」
「はい。国王に代わり、お祝いをお持ちいたしました。
お受け取りください」
「ああ、ありがとう」
「お祖父様とお祖母様に任せてもいいと思ったんですけどね。
ご迷惑をおかけしているのではないかと父が心配しておりました」
「ああ……まぁそうだな。
ルシールが嫌がらない程度ならかまわないと伝えてくれ」
「わかりました」
前国王夫妻が度々ノヴェル国に来ることを、
アンペール国王は心配しているようだ。
……まぁ、たしかに、これ以上頻繁に来られたら少し困るけど。
「そんなに困らせてはおらんわ!」
「そうですよ、ねぇ、ルシール」
「そうですね。忙しくない時でしたらかまいません」
「ということで、来る前に先ぶれは必ずしてくれ。
ルシールだって忙しいんだからな」
「わかっとる」
レオンとの言い合いも聞きなれてしまった。
それだけ両国が仲良くなったとも言えるけれど。
三人が目の前から去ると、レオンが大きくため息をついた。
「まったく。放っておくとどんどん図々しくなるぞ。
ルシールもあまり優しくしなくていいからな」
「ええ。でも、おかげで私が正妃になるのに否定する声が少なくなったわ」
「まぁ、あれだけ前国王夫妻が孫扱いしていればな」
血縁検査したことは公表されただろうけど、
それでもアンペール国の王族として認められたわけではない。
私がレオンの正妃になることを不服に思っている貴族もいたはずだ。
だけど、これだけ前国王夫妻が私を気に入っているとなると、
文句を言うわけにもいかないんだと思う。
ノヴェル国内の不満の声もなくなり、純粋に祝福されていると感じる。
リアーヌだったころは想像できなかったお披露目だ。
貴族の挨拶が終わりかけ、ゴーシュが時間を確認する。
「陛下、ルシール様、そろそろ抜けてもいい頃あいですよ」
「そうか。では、後は頼んだ」
「はい」
レオンと私は夜会の途中で抜けることになっている。
お兄様は複雑そうな顔で見送っていたけれど、
ガイオは部屋までついてくる気のようだ。
「どこまで来る気だ?」
「一応は護衛必要だからね。
部屋に入るまで?俺が一番気をつかわないだろうからって」
「まぁ、そうだろうな」
私室までくると、ガイオはひらひらと手を振って戻っていく。
緊張する場面のはずなのに、なんとなく気が抜ける。
部屋の中ではレナたちが笑顔で待ち構えていた。
「それでは、またあとでな」
「ええ」
ほんの少しの間だけど、離れるのは寂しい。
と思っていたのは一瞬で、ドレスを脱がされた後、
浴室でしっかりと磨かれる。
用意されていた夜着は薄衣と呼ばれるものだった。
透けるほど薄い布をリボンで結び、身に着ける。
羽織っている実感がないほど軽い。
「これ、ほとんど隠せてないけど、いいの?」
「そういうものなんです。これで問題ありません」
「本当に?」
「本当です!」
レナとユーリを信じるけれど、着ているほうが恥ずかしい。
これならいっそ裸の方がいい気がする。
「部屋をうす暗くしますから」
「それなら……」
灯りがいつもよりも落とされ、部屋がうす暗くなる。
見慣れている部屋なのに、違う場所に連れて来られたような気になる。
大きな寝台に座ると、皆は礼をして部屋から出て行った。




