100.初夜
大きな寝台に座ると、皆は礼をして部屋から出て行った。
それほど待たずにドアが開けられる。
ここからでは見えないけれど、レオンだ。
私が湯あみを終えたことを報告されたのだろう。
「すぐに湯を浴びてくるから待って」
「わかったわ」
私が湯あみを終えた後、レオンが一人で湯あみするのはいつものこと。
長年、女性を遠ざけていたレオンは侍女に手伝わせることはない。
いつもとさほど変わらない時間でレオンは出てきたけれど、
違うのは夜着は着ずに腰に布を巻いているだけだった。
「どうしてそんな恰好しているの?」
「そりゃ……初夜だからだろう?
ルシールだっていつもと違うの着ているし」
「私は一応は着ているもの。
レオンは半分裸じゃない」
「いいんだよ。そういうものだから」
それはそうなのかもしれないけれど。
すぐ隣に座られると、レオンの重みで私まで傾く。
それを受け止めるように抱きしめてくれたけれど、
服を着ていないから感触がいつもと違う。
「……ようやくだな」
「そうね。かなり待たせてしまったわね」
「だけど、まだ覚悟ができていないなら待つぞ」
「え?」
「今更、何年待とうがさほど変わりはない。
俺はルシールがその気になるまで待ってもいい」
そんなこと言われたら。
私がしたくなるまで初夜はお預けってこと?
「……嫌よ。また妃になる前に離れてしまったらどうするの?
今度こそ、もう会えなくなるかもしれないのよ?
それでも待つって言うの?」
「……それは嫌だな」
「今、ここに二人でいることは当たり前じゃないわ。
明日、離れてしまっても……いいの?」
「嫌だ」
「私が妃にならないうちに会えなくなっても、
レオンは後悔しないの?」
「死ぬほど後悔するな」
「じゃあ、どうするの?」
「悪かった……ルシールを俺の妃にしたい。
名ばかりじゃなく、心も身体もすべて俺のものにしたい」
「ええ、いいわ!」
ぐいっと身体を持ち上げられて抱きしめられたら、
そのはずみで薄衣を結んでいたリボンが一つ解けた。
「これ、もういいよな」
そう言って、レオンは残ったリボンも解いていく。
すべてのリボンが解かれ、ただの布になってしまった夜着は、
あっさりと放り投げられた。
身体がおおいかぶされて、肌がすべてくっついているように感じる。
不思議とレオンの重さを感じないなと思っていると、
くるんと身体がひっくり返されて、私がレオンの上に乗る形になる。
「こうしたほうがつぶさないように気をつけなくていいな」
「そうね。でも、レオンは重くないの?」
「全然。もっとぎゅっとくっついてほしい」
「こう?」
腕を伸ばして、レオンの首に抱きつくと、唇が重ねられる。
後頭部にレオンの大きな手がまわされたと思ったら、
もっと深くまざりあうような口づけに変わる。
気がつけば、レオンの腰に巻いていた布も感じられない。
肌と肌がこすれあって、熱を持ち始める。
お互いの身体をすべて確認するようにふれて、
なめあって、まるでどろどろに溶けてしまうような気になる。
これでレオンのものになれる。
すべてをささげた時、レオンの頬が濡れているのを感じた。
「……ねぇ、泣いているの?」
「……幸せすぎて」
「そうね……私も」
もう、どちらの涙なのかわからない。
それでも、幸せで泣いてしまうのなら、それもまた良い気がした。
身体をつなげた後、抱きしめられたまま二人で横になる。
つらくないかと聞かれるけれど、そんなことは気にならない。
「……俺が最初に求婚したのはリアーヌが六歳の時だったな」
「覚えているわ。お見舞いに来てくれたのよね」
「ユリウスがリアーヌが倒れる度に真っ青になって帰ってたからな。
気になっていたんだ。妹ってどんな存在なんだろうって」
あの頃、王太子になるのはレオンかお兄様か決まっていなかった。
二人とも王位継承者として同じように教育されていた。
朝、お兄様が王宮に行くのを見送って、一日静かに過ごしていたけれど、
それでも一週間に一度か二度倒れていた。
王宮にいるお兄様には知らせないでと言っても、
侍女たちはお兄様の命令に従って連絡をいれてしまう。
その結果、お兄様は授業の途中でも帰ってきてしまっていた。
私がレオンと初めて会ったのは、そんな時期。
倒れた二日後にお花を持ってお見舞いに来てくれたのだ。
そして、出会ってすぐに妻になってほしいと求婚された。
あの時、なぜかレオンも倒れそうなほど青ざめていた。
「レオンのこと、お兄様から聞いて知っていたから、
お見舞いに来てくれたのうれしかったわ」
「……ちょっとした好奇心みたいなものもあったんだ。
だけど、今にも倒れそうなリアーヌに会って反省した。
これは本当に命が危ないんだって」
「そうね……あの頃は身体も小さかったから、本当に危なかったの。
いつ死んでもおかしくなかったと思うわ」
「だから、王宮にいると落ち着かないユリウスの気持ちもわかった」
「だからって、教師を王宮じゃなく、アルベール家に呼ぶのはどうかと」
「そのおかげでユリウスも落ち着いて学べるようになったし、
リアーヌのためにもなっただろう?」
「まぁ、そうかもしれないけど」
レオンは前国王にかけあい、勉強の場を王宮からアルベール家に移した。
そして、私が体調が良い時は一緒に学べるようにしてしまった。
「私のせいでレオンが王太子になると決めたこと、
ずっと気になっていたの。
これで本当に良かったのかしらって」




