101.約束
「私のせいでレオンが王太子になると決めたこと、
ずっと気になっていたの。
これで本当に良かったのかしらって」
「あの頃の俺の願いはただリアーヌと一緒にいたかった。
だけど、家族でもない俺では一緒にいる許可がおりなかった」
「お父様のせいね……」
リアーヌの幼い頃はほんの少しでも無理をすれば発熱し、
何日も起き上がれないほどだった。
やんちゃだったレオンが一緒にいたら、
リアーヌが巻き込まれるのではないかと心配されても当然のこと。
そして、お父様はもし私が成人すぎるまで生きていたとしても、
他家に出さないと断言していた。
レオンはお父様を説得するために並みならぬ努力し、
私を正妃にする許可を得ていた。
「リアーヌを娶るには王命しかないと思っていた。
父上と公爵を納得させるためにも、
ユリウスよりも優秀になって、王太子になるしかなかった。
最終的には王命じゃなくても認めてくれたけれど、
そのために王太子になったことを後悔したことはないよ」
「本当に?私はレオンを置いていってしまったのに……」
婚約して一緒にいられるようになっても、
リアーヌは十二歳までしか生きられなかった。
私が殺されたと知った時、どれほど悲しんだのかわからない。
それからもレオンは王太子として、国王として、
この国のために生きてきた。
「……本当はさ、死のうとしたんだ」
「え?」
「リアーヌが死んだ時、一緒にいこうと思ってた。
リアーヌがいない世界には何にも意味がないと」
「そんな……」
「自死しようとして王宮を出たら、ユリウスに気がつかれて、
めちゃくちゃ殴られた。
リアーヌに叱られたいのかって」
「お兄様が止めてくれたのね……よかった」
そういえば、そんな心配もしていたことを思い出す。
レオンが私のために王太子になったのを知っていたから、
いなくなった後はどうなってしまうんだろうって。
「ユリウスはリアーヌが死んだ後、自分まで死んだら両親が悲しむ。
両親を泣かせたら、リアーヌに叱られるって言ったんだ。
あいつも……本当は死にたかったらしい」
「まさか、お兄様まで?」
「あいつの場合は、助けられなかった絶望もあったんだと思う。
まさか命を狙われているなんて考えもしなかった」
「……あれは気がついて止めるなんて無理よ。
でも、そうね。お兄様なら自分の責任だって言いそうだわ」
「死にたいほど絶望しているのに、リアーヌに叱られるのが嫌だからって、
歯を食いしばって耐えているユリウスを見たら、
俺だけが逃げるのはダメだなって思って……生きることにした。
いつか、寿命で死んだ時に魂になってリアーヌに会えたら、
誉めてくれるんじゃないかって思ってた」
「そう……すごく頑張ったのね」
そんな思いで頑張ってくれていたことを知って、
あの頃のレオンを抱きしめたいと思った。
でも、そんなことは無理だから、今のレオンを抱きしめて、
よく頑張ったと褒めるように髪を撫でる。
少しだけくすぐったそうな顔をして、レオンが笑う。
「ああ、頑張って良かった。
こうして、ルシールにまた出会えた。
あの時、死を選んでいたら、二度と会えなかったかもしれない」
「……そうだわ。レオンが生きていてくれたから、
こうしてまた会えたんだわ。
生きていてくれてありがとう……レオン」
「……生まれ変わってきてくれて、ありがとう。
ずっと最後まで、俺の隣で生きていてほしい」
「ええ、ずっと一緒よ。最後まで」
私を抱きしめる腕にぎゅっと力が入る。
それに応えるように、私も強く抱きしめ返す。
どちらから唇を重ねたのかわからないけれど、
もう二度と離れないように深く深く結びつける。
このまま溶け合って一つになっていけたら、
二度とレオンを置いていかなくて済むのに。
夜が明けたのもわからないくらい、
重なり合って求めあっていた。
目を開けたら、レオンと目があった。
あたりはもう明るくなっている。
「……ん?いつからそうやって見てたの?」
「いつからだろう」
「もしかして、寝てない?」
「そんなことないよ。少し寝たと思う」
「ちゃんと寝なきゃダメじゃない」
「うれしくて、起きちゃったんだよ」
その顔が本当にうれしそうにふにゃりと崩れるから、
思わず私も笑ってしまう。
「ふふ。そうね。レオンと結婚したのよね」
「ああ、ようやくだ。
こうして抱きしめられる日をずっと待っていたんだ。
夢がかなったんだと思ったら、眠るのがもったいなかった」
「でも、寝なきゃダメ。
これからずっとこうしていられるんだから」
「ああ、そうだな。
ずっと…ずっとか……」
「どうかした?」
さっきまで幸せそうな顔していたのに、
レオンの眉間にしわが寄っている。
「……このままずっと一緒にいると、
いずれ俺の方が先に死ぬんだなって思って」
「……それはそうかも?」
「ルシールを置いていくのは嫌だな……」
「もう~何十年も先の話でしょう?」
「それでも、一人で置いていくのは嫌だな。
その頃にはユリウスもいないかもしれないのに……」
そんな先のことを本気で心配しだしたレオンの両頬に手をそえる。
「じゃあ、私が一人にならないようにして」
「え?」
「子供たち、孫たちに囲まれていたら、一人じゃないわ。
……それなら、レオンも心配しないで逝けるでしょう?」
なんだか、その光景が見えた気がした。
たくさんの子、たくさんの孫に囲まれて、レオンを見送る。
悲しいけれど、きっと不安にはならない。
「ね?」
「あぁ、そうだな。そうするか」




