96.誤解
「ですので、陛下が側妃候補を選ぶと聞いた時は驚きました。
リアーヌ様を忘れてしまったのだろうかと。
そして、正妃候補になったルシール様の存在にも」
「それは……そうでしょうね」
ガイオも言っていた。
リアーヌに執着していたレオンが他の者と婚約するはずがないと。
ティナ様も同じように思っていたらしい。
「側妃になろうと最初から思っていたわけではありませんが、
どうしても気になってお茶会に出席いたしました。
そこでお二人の仲睦まじい姿を目の当たりにして、
……きっとこれは契約結婚に違いないと」
「は?」
「え?」
思いもよらなかった言葉にレオンと私は顔を見合わせた。
「婚約者として儀礼的に接していたのなら、
国王としての義務で娶るんだと納得できたのですが、
あまりにも仲が良さそうで……納得できなかったのです。
陛下がリアーヌ様以外を愛するなんて」
「それは……そう思われても仕方ないのか?」
「俺は気持ちわかる。同じように思ったからな」
ガイオとティナ様の違いは、自身が記憶持ちかどうか。
ティナ様は想像もしていなかったに違いない。
「そのため、側妃も契約結婚を求めるのではないかと思いました」
「側妃も?どうして?」
「陛下はリアーヌ様のことを忘れるつもりはなく、
形だけの結婚をし、そのうち養子をアルベール家から取るのだろうと。
その場合、正妃に子ができなければ側妃をという声が出ます。
正妃と側妃、それぞれ娶っても子ができなければ、妃のせいにはならない。
だから、形だけの側妃も必要だろうと」
「なるほどな……理屈としては合っている。
どうしてもリアーヌ以外と結婚したくないと思えば、
そうしたかもしれないな。
まぁ、ユリウスが結婚して子をもうけることが必要になるが」
「……私もそれは考えたことがある。
陛下がどうしても無理だというのなら、そうしようと」
お兄様は考えたことがあったらしい。
レオンが私以外の女性を受け入れられなかったら、
お兄様の子を養子にさせようと考えていたようだ。
王太子は国王の子である必要はない。
龍人の血を持つ子でさえあればいいのだから。
「私の他の側妃候補の方は、形だけの結婚など無理です。
自分がリアーヌ様の代わりになろうと意気込んでいる令嬢ばかり。
だから、私が形だけの側妃になろうと思い後宮に入りました。
けっして自分から側妃を望まない姿勢を続けていれば、
陛下から契約結婚の話をされるに違いないと思っていました」
「俺と直接話さなかったのは、それでか」
「はい。妃になろうとすれば、嫌がられるのはわかっていましたから」
「それは間違ってないな」
なるほど。そんな理由だったとは。
レオンから話を聞いた時は、かなりの恥ずかしがり屋なのかと思っていた。
こうして話してみると、きちんと考えを持った礼儀正しい令嬢だ。
本当に側妃を選ぶつもりなら、ティナ様が選ばれていたはずだ。
「ですが……それもすべて私の勘違いだということがわかり、
ルシール様にとっては側妃候補など目障りでしかなかったことでしょう……。
本当に申し訳ございませんでした」
「え、いえ、ティナ様は謝らなくていいのよ」
「ですが、ご不快な思いをさせてしまい……」
「気にしないで。レオンのことを考えてくれたのでしょう?」
「そのつもりではありましたが……」
「それならいいの。レオンも気にしてないわよね?」
何度も頭をさげるティナ様に、これ以上謝ってほしくないとレオンに目で訴える。
「いや、むしろ、こちらが悪かった。
最初からルシールがリアーヌだと公表していたら、
こんなことに巻き込まれずに済んだだろう」
「それは、何か事情があったのですよね?」
「ああ。リアーヌが死んだ理由がわからなかったからな。
だが、それもすべて解決したから、公表できるようになったんだ」
「まぁ……そんなことが。
それでは公表できなくて当然ですわ。
解決できて、本当にようございました」
心から喜んでくれているのがわかる笑顔にほっとする。
「それで、後宮を出た後はどうするんだ?」
「学園の編入試験を受ける予定です。
ここにいる間、たくさん勉強しましたから。
編入して卒業できれば、嫁ぐことも働くこともできますでしょう?」
「そうだな。学園を卒業できればいろいろと考えられるだろう」
ティナ様はまだ十八歳。
最終学年に編入できれば、一年で卒業できる。
一年遅れくらいなら、それほど気にされないはずだ。
「荷物の整理が終わり次第、後宮を出ようと思います」
「そうか。わかった」
すっきりとした表情のティナ様を引き留める理由は何もない。
レオンはついでのように、隣にいたアミーナとルミエにも聞く。
「アミーナとルミエはどうする?
側妃候補がいなくなれば後宮は閉める。
王宮女官として働くか?」
「それなのですが、私たちは学園の成績が良くありませんでした。
王宮女官となっても周りよりも劣っているでしょう」
「王宮女官の見習いから始めるにしても、年齢が気になりますし」
「それでは、どうするつもりだ?
家には帰りたくないんじゃないのか?」
二人とも家にいたくないから後宮女官長の仕事を受けたはず。
王宮女官になって残るのが一番だと思ったのに。
「ティナ様がベラント伯爵家で雇ってくださるそうです」
「雇う?侍女としてか?」
「はい。二人とも雇ってくださると」
「いいのか?ティナ嬢」
「はい。お二人にはとても良くしていただきました。
なので、侍女になりませんかとこちらからお願いいたしました」
「そういう事なら賛成だ。二人を頼んだ」
「はい。かしこまりました」
ずっと同じ後宮で暮らして、お互い助け合ってきたのかもしれない。
アミーナとルミエもベラント伯爵家に行くことになり、
ティナ様と同じ日に退出することに決まった。
「後宮にいる間は、陛下とリアーヌ様の恋物語の一部になれたような気がして、
すごく幸せな日々でございました。
ですが、これからは外に出て、陛下とルシール様の家臣として、
お二人の幸せを、いつまでも願っております」
「ああ、ありがとう」
「ティナ様、ありがとうございます」
礼をして、顔をあげたティナ様は、
これ以上ないほどの笑顔を見せてくれた。




