92.処罰
ニジェール家が本当にあきらめるのかは疑問だったけれど、
その後、王宮に連絡が来ることはなくなった。
ガイオが子が作れない身体になってしまったという嘘を信じたにしても、
あきらめるのが早すぎる。
龍人の子を作り次の当主にし、ニジェール家の格をあげたかったのだとしても、
あからさますぎてガイオが逃げたくなった気持ちもわかる。
ガイオをあきらめた三人は、一応はデジレ様を探そうとしたようだけど、
居場所を調べるのは無理だったらしく、エレーナ夫人は生家に帰り、
ニジェール家は分家から養子を取ることにしたようだ。
特に問題を起こしたわけではないので貴族順位はそのままだけど、
分家から養子にした者の行動によって今後変わるかもしれない。
ガイオの件が落ち着いてすぐ、
ペルラン伯爵とマリアンヌ様、騎士たちとマノン様の処罰が発表された。
本来なら内乱罪により、全員が処刑となるはずだが、
内乱罪にすると、騎士たちの家族まで処罰しなければならない。
それはかなりの数の貴族を処刑しなくてはならず、
レオンも私も望まなかったため、
騎士たちの罪はレオンとお兄様への傷害未遂罪が適応された。
近衛騎士から落とされたことへの逆恨み、ということになっている。
マリアンヌ様についても同じ、
側妃にしてもらえなかったことへの恨み、となった。
ペルラン伯爵とマノン様は別の罪で処罰されることになった。
リアーヌへの殺人疑いだ。
もう十五年以上前の事件ではあるが、王太子の正妃候補だった。
マリアンヌとマノン様の証言により、
ペルラン伯爵の故意が認められ、それによってリアーヌが死んだことが確定された。
これには貴族たちも驚いていた。
今さら、病気でなくなったはずのリアーヌの殺人事件だとは。
その上、共犯とされた妻のマノン様は当時六歳。
情状酌量は認められたが、無罪とはならなかった。
そして、同時に私がリアーヌの生まれ変わりだということも発表された。
私の周辺の者はほとんど知っていたけれど、知らなかった者は動揺していた。
聞かれたジュリーは護衛の中で自分だけ知らないことに衝撃を受けていた。
「まさかリアーヌ様だったなんて……。
私、まずいこと言ってませんでしたか?」
「いいえ、当時の話を聞けて良かったと思うわ。
私がリアーヌだってこと、言えなくてごめんなさいね」
「いえ、それは政治判断だと思いますのでかまいません。
ですが、ルシール様。発表して良かったのですか?」
「黙っていたのは、また殺されるんじゃないかって思ってたから。
もうリアーヌを殺した犯人もわかったしね。
ルシールがペルラン伯爵の娘だと責めてくる人もいるでしょう。
でも、私がリアーヌだとわかれば、責められないんじゃない?」
「それは!そうかもしれないですけど……。
そのために公表したのですね?」
「そうよ」
あのまま黙っておくこともできた。
だけど、レオンもお兄様も悩んでいた。
ペルラン伯爵の罪を重くすれば、ルシールが正妃としてふさわしくないと言われる。
だから、私からお願いした。
リアーヌの生まれ変わりだと公表してほしいと。
そうすれば、ペルラン伯爵のことでルシールを責めることはできなくなる。
父親かもしれないけれど、前世のリアーヌを殺した人でもある。
被害者でもある私がペルラン伯爵のことで責められる謂れはない。
発表から二週間過ぎて、その効果ははっきりしていた。
ペルラン伯爵とルシールを同じ家だと考える者はいなくなった。
むしろ、後見として養女にしたアルベール家の評判が上がっていた。
敵対するペルラン家の娘を養女にしたのは、
権力を握りたいからだと考えている者がいたが、
真実を知って、実の娘を取り戻したかっただけなのかと理解されたらしい。
これは思わぬ効果だった。
なによりも、お父様とお母様、
お兄様が本当の家族だとみられることがもうれしかった。
そして、関わった者の処罰については、妥当だと判断されていた。
この国はアンペールから鉱石を輸入して、魔石に作り替えている。
魔石を作るのは王宮魔術師を引退した者たちの仕事だ。
もう上級魔術師として戦うのは難しい。
だけど、魔力は豊富に持っている。そういう者の仕事だった。
ペルラン伯爵は爵位と領地は没収され、
生涯、持っている魔力を魔石に込められることになる。
この処罰は四六時中、魔力を吸い取られるため、
逃亡するどころか、日常生活も危うい。
マリアンヌ様は二十年間。マノン様は十年間。
騎士たちは三十年間と期間が決められた。
マノン様は大丈夫だと思うけれど、マリアンヌ様と騎士たちは、
期間が終わるまでに倒れるかもしれない。
熟練の魔術師ですら、十五年をこえることはないそうだから。
「これでもうペルラン伯爵に悩まされることはないな」
「刑が確定する前からおとなしかったじゃない」
「ガイオがおとなしくさせてくれたからだな」
「あのおっさん、あのままならうるさかっただろうな」
「本当だな。助かったよ」
「どういたしまして」
ガイオはあれからも変わらず、楽しそうに仕事をしている。
……いずれ、彼女の生まれ変わりに出会えるまでは、
ガイオはこんな感じで生きていくんだろう。
「それで、マノン夫人の産んだ子だが、
正式に鑑定させたが龍人の血を持っていた」
「やっぱり……どうするの?」
「マノン夫人の生家に戻すのが一番いいかもしれないが、
今回のことで生家の貴族順位は下がっている。
龍人の血を持つ子供は狙われるかもしれない」
「生家では危ないのね……かといって、孤児院で育てたらもっと危ないし……」
「あの!うちで引き取ってはダメでしょうか?」
声をあげたのは、近くで仕事していたニクラス様だった。




