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幸せになるために私ができること  作者: gacchi(がっち)


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91.貴族の価値

「なぁ、ユリウス。ニジェール家がなくなったら困るか?」


「ニジェール侯爵家ですか?……いえ、王領にすれば問題ないですね」


「そうだよな。重要な役職があるわけじゃない。

 辺境の守りを担っているわけでもない。普通の領地だよな」


「陛下!いくらなんでもそれはひどすぎますぞ!」


「では、失って困ることがあるのか?王領にするのでは困ることがあると?」


「そ、それは……」


ニジェール侯爵領はあまり他家と交流がない。

領地でとれる農作物はほとんどが自領で消費される。

鉱山などの特別な産業があるわけでもない。


災害も少なく、安定した領地ではあるが、目立つ分野もない。

歴代の侯爵家も王宮で要職につくこともない。


ただ、決定的な問題を起こさないために順位が低くならなかったために、

他家が問題を起こして順位を落とす度に上がっていた。


筆頭公爵家のアルベール家と二位のデュクロ公爵家とは、

家の格も規模もまるで違う。


四位以下、十位くらいまではほとんど似たようなものである。

王命を出してまで残す家というのは公爵二家くらいなものだ。


「まぁ、せっかくここにいるんだから、聞くだけ聞いてやる。

 ガイオ、家に戻って継ぐ気はあるか?」


「ないよ。戻る気はないし、継ぐ気もない。

 関わりたくないから、もう話しかけてこないでほしい」


「だ、そうだ」


「ガイオ!お前はいつまでもわがままばかり言って!

 いい年して、恥ずかしくないのか!!」


「恥ずかしい?どっちが?

 謁見室で陛下の前で大声あげているほうが恥ずかしいだろう」


「なっ!!」


顔を真っ赤にした前侯爵は怒りのあまり何も言えなくなっている。


「ガイオ様、どうして戻ってきてくださらないのですか?

 私はガイオ様の妻になるためにニジェール家に入ったのです」


「それさ、俺は承諾していない。

 誰とも結婚しないと言ってあるし、あんたにも興味ない」


「そんな!私はずっとお待ちしていましたのに……」


ぽろぽろと涙をこぼしながら、夫人がガイオに近づいていこうとする。

それを止めたのはお兄様だった。


「ニジェール侯爵夫人、許可なく動かないように。

 不審な行動をするのなら、騎士に捕縛させる」


「わ、私はただ!ガイオ様にわかっていただきたくて!

 ずっとお慕いしているのに……どうして帰ってきてくださらないの!?」


「一方的に思われても意味がない。

 というか、先日まで兄貴の妻だったくせに何言ってんの?」


「私はデジレ様の妻にはなっておりません!この身は清いままです!」


そう言い切った夫人、ため息をついてしまう。


「ルシール、どうかしたか?大丈夫か?」


「ええ、大丈夫。でも、よくわからなくて。

 ニジェール侯爵夫人、その言葉、おかしいと思わないの?」


「おかしい、ですか?」


「あなたは侯爵夫人となったのに、夫であるデジレ様を認めなかった。

 その結果、デジレ様はいなくなったというのに、すぐさま弟に言い寄るなんて。

 恥ずかしいと思わないのかしら」


「私はガイオ様の妻として乞われたからニジェール家に……」


「でも、結婚したのはデジレ様なのでしょう?

 それなのに、義弟と再婚して、気にならないの?」


「……ですが、貴族なら、めずらしいことではないのでは……」


そのこと自体は正しいと思う。

だが、正しいことがすべて叶うとは言い難い。


「本来はそうなのでしょうね。貴族として生まれたからには、

 政略結婚も仕方ないと、家の繁栄のために結婚し子を作る。

 それが正しいことなのでしょう」


「では!」


「でも、それは貴族でいれば、の話よ。

 ガイオはそれが嫌だから、ニジェール家の籍から抜けた。

 その場合は、もう従う理由はどこにもないの。

 ガイオが平民のままならともかく、爵位も同じなのに、

 言うことを聞かせようとするなんておかしいわ」


「そんな……」


傷ついたような顔をしながら、ガイオの様子をうかがっているのがわかる。

同情させて、引き込もうとしているのかもしれない。


けれど、ガイオは顔色一つ変えない。

めんどくさいという雰囲気のままだ。


さすがにそろそろ話し合いも終わりにしたほうがいいのでは、

そう思っていたら、今まで黙っていた前侯爵夫人が口を開いた。


「あの……家族で行き違いになったのは本当ですが、

 話し合いをすれば分かり合えると思うのです。

 夫も義娘も、ガイオのことを大事に思っているだけなのです。

 一度ガイオを家に連れて帰らせてください」


「話せば分かり合える、か。

 そう思うか?ガイオ」


「いや、帰ったら監禁しようとするだろうな。

 まぁ、力づくで俺を監禁できるわけないけど」


「ガイオ、私はあなたを困らせたいわけじゃないのよ!

 お父様とエレーナもあなたが大事だからあきらめられないの。

 一度、結婚や家を継ぐ事は忘れてもいいわ。

 まずは家に帰っていらっしゃい?」


穏やかそうな話し方だけど、芯は強そうな人に見える。

ガイオの希望を聞いてくれそうに思えるけれど、ガイオは無言で首を横にふった。


「ガイオ、どうして?優しい子だったじゃない。

 お母様が大好きって言ってくれていたでしょう?

 お母様のお願いを聞いてくれないの?」


「いつの話だよ。五歳とか六歳のころだろ」


「いつだって、同じよ。お母様はガイオが大事なの。

 ね、帰ってきてちょうだい?」


「……子が作れなくても、同じことを言うのか?」


「え?」


「俺、隣国で冒険者している時に大けがしちゃってさ。

 もう子が作れないんだ。それでも帰ってきてほしい?」


「……そんな、子供が作れないですって……?」


子が作れないと言い出したガイオに三人が動揺している。


「嘘だろう!そんなことあるわけ」


「いや、調べてもらった結果だ。な、ユリウス様」


「……そうだな。残念だが、万が一にもありえないとしか言えない」


はっきりと言ったお兄様の言葉に、前夫人が崩れ落ちる。

前侯爵と夫人も、真っ青になってしまった。


「そんな!……そんな、ガイオの子が生まれないなんて」


「嘘だわ……私はガイオ様の子を生むはずなのに……どうして」


「というわけだからさ、あきらめてくれよ。

 分家から養子を取るのが一番手っ取り早いだろ」


にこやかに笑うガイオと黙り込んでしまった三人。


あんなにしつこくガイオを追いかけていたというのに、

三人はレオンに礼をすると、無言で退出していった。


「あーしつこかったな。やれやれ」


「本当だよ。あ、ユリウス様、ありがとな!」


「お前、ああいうのは打ち合わせしておけ!」


「いや、陛下は顔に出そうだなと思ってさ。ユリウス様なら大丈夫だろうって」


「まったく……」


どうやらさっきのはとっさについた嘘だったらしい。

だけど、これであきらめるようならあきらめればいいと思う。


ガイオは子を望まれるためだけにいるわけじゃないのだから。

                                    



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