89.告白
「どちらかと言えば、お前の事情を言って良かったのか?」
「あー。陛下は知ってたし、ルシール様も薄々気付いていただろ?
だったら、もう言っておいてもいいかと思って」
「そういうことならいいが。
まぁ、知ったところで気にするような奴はここにはいない」
たしかに今さらな気もする。
ガイオが国王になる事はないし、なる気もないはず。
ただ、あの発言によって、ペルラン伯爵の心が折れたと思えばすっきりした。
「じゃあ、もういいか。俺の話を聞いてくれるか?」
「言いたいのなら、好きに話せばいい。誰も止めない」
「んじゃ、勝手に話すわ」
あくまでもガイオが話したいのであれば話せというレオンに、
ガイオがにやりと笑う。
「俺の魔力が変化したのは十三歳の時だった。
それまでの俺は単属性の土で、魔力も上級魔術師になれるギリギリのところ。
侯爵家は兄貴が継ぐから、俺はどこかに婿入りするんだと思ってた」
「変化したきっかけみたいなものはあるのか?」
「ある。土属性しかない俺が魔術師になっても戦う力が弱い。
それを心配した家の者が剣術の教師を雇った。
そうすれば騎士団に入れるかもしれないし、騎士団で出世すれば、
良い家に婿入りできるはずだからと。
だが、俺は剣術もそれほどうまくなかった」
「意外だな。今は剣も得意だろ?」
「その時は苦手だったんだ。何をやってもどんくさかった。
あの日、稽古中に足がもつれて転んで、自分が持っていた木剣で胸を強打した。
死ぬかと思った、というか強烈な痛みで意識を失った。
そして、前世の自分を思い出した」
「そこまで話していいのか?」
そこにはふれないつもりだった。
きっと言いたくないこともあるだろうからと。
なのに、ガイオはあっさりと話してしまった。
「これを隠しておくと、ややこしいだろ?
だから、全部話す。
俺もルシール様と同じ、前世の記憶持ちだ」
「……なんとなく、気づいていたわ。
だから、私がリアーヌだってすぐにわかったのでしょう?」
「それもある。もしかしてって思ったら、
全部がつながって、そうとしか考えられなかった」
前世の記憶持ちは正確な人数はわからないけれど、たまにいるという感じだ。
きっと私たち以外にも前世の記憶を持っている貴族はいると思う。
「前世は水属性と風属性を持つ伯爵家の三男だった。
伯爵家にしては魔力量が多くて、上級魔術師として生きていた。
だが、とある侯爵家の夫人が俺に言い寄ってきた。愛人になれと。
俺には平民だけどつきあっていた彼女がいた。だから断った。
だが、夫人はそれに腹を立て、彼女と俺を殺した」
「……え?」
殺された?ガイオもその人も……。
「二人同時にか?上級魔術師だったんだろう?」
「いや、家に帰ったら彼女が血まみれで倒れていた。
駆け寄って抱き起そうとしたら、背中から刺された。
その時は誰に殺されたのかもわからなかった。
前世を思い出した後で調べた。誰が彼女と俺を殺したのかと」
「それで、その侯爵夫人だとわかったのか。
よく調べられたな?」
「ああ。調べるのは簡単だった。
その侯爵夫人は俺の祖母だったからな」
「はぁ?」
「嘘だろ」
「怪しいと思って、その当時の帳簿を見たら、不明金があった。
ならず者を雇って俺たちを殺させたんだろう。
当時をよく知る家令にそれとなく聞いてみたら、祖母はそういうことを何度かしていた。
祖父がそれに気づいて、知られないように手配していたそうだ」
まさか、ニジェール侯爵家がそんなことをしていたなんて。
元侯爵は十年以上前に、元夫人は数年前に亡くなっているはずだけど……。
「復讐はしたのか?」
「ほんの少し、かな。
俺が前世の記憶を取り戻したら、属性が三つに変わり、龍人の血に変わった。
そのことを一番喜んで嫡子にしようと言い出したのは祖母だ。
俺が全部を捨てて家を出たことで倒れ、そのまま寝たきりになって死んだらしい」
「まぁ、そのくらいなら復讐とも言えんな」
「殺せば、俺が捕まるのはわかっていたからな。
だから、復讐はあきらめて、学園に入ると同時に家を出る用意をした。
平民のふりして冒険者になって、金をためて、彼女を探した。
……彼女は見つからなかった。もう見つからないかもしれない。
それでも、彼女以外と結婚する気はないんだ。わかるだろ?」
その言葉に、レオンがうなずく。
「わかるよ。たとえ、二度と会えなかったとしても、
俺はリアーヌを忘れることはできなかっただろうから」
「そうだろうな。正直言って、陛下がうらやましい。
俺も彼女に会えたら、今度こそは守り抜く気でいるのに。
ああ、気を使わなくていい。
それでも、ルシール様が生まれ変わったのは良かったと思ってる。
俺は貴族ではいたくないけれど、この国が嫌いなわけじゃないんだ」
「そうか」
「というわけで、今後も家に戻る気はないし、結婚する気もない。
俺の自由を守ってくれるとありがたい」
「ああ、当然だ。ルシールを守ってもらうための条件だからな」
それを聞いたガイオが耐えきれなかったようにぷはっと笑う。
「本当にぶれなくて最高だよ。これからもよろしく頼むぜ」
話すだけ話すと気が済んだらしい。
「じゃあ、ちょっと休憩してくるわ」
そう言って部屋から出ていく。
「ガイオも彼女と会えたらいいのにね……」
「そううまくはいかないってことだな。
生まれてくる場所を選べないのもそうだ」
「私はペルラン伯爵の娘に、ガイオは二ジェール家の孫に。
……どうしてなのかしら」
なぜ、自分を殺した家に生まれなくてはいけないんだろう。
一番関わりたくない相手だろうに。
「まぁ、元いた場所に近いということはあるかもな。
後は、俺の血縁者として生まれ変わっていたら、再会しても結ばれるのは難しい。
そういうのもあるんじゃないか?」
「そっか……もし、レオンの娘として生まれてきたら、最悪だったかも」
「やめてくれ……想像したくない」
おそらく、レオンは私を忘れなかったとしても、
国王の義務をいつかは果たしていたはず。
その前に私が生まれ変わって会えたのは幸運としか言いようがない。
「あ、ねぇ。レオン、お兄様。私、考えていたのだけど」
ガイオの告白を聞いて、背中を押されたのかもしれない。
先日からずっと考えていたことを二人に話すことにした。




