88.龍人の血
「あんたさぁ、龍人の血を持っているから、
国王になることをあきらめきれないんだろ?」
「私はそんなこと言っていない!」
急にガイオは何を言い出したのか。
レオンとお兄様を見たら、無言で頷かれる。
どうやらガイオの好きにさせるつもりらしい。
「でもってさ、もし自分が捕まって処刑されたとしても、
息子が殺されることはないと思ってんだろ?
で、陛下やユリウス様の子が龍人の血を持つとは限らない。
自分がなれなくても息子が国王になれたら、死んだとしても悔いはない。
なーんて思ってたりする?」
「……何の話だ」
「それって、無理だよ」
「はぁ?」
「たとえ、陛下とアルベール家が全員死んだとしても、無理。
あんたやあんたの息子が国王になることはないから」
「なっ!そんなわけないだろう!
そんな状況で、私以外の誰が国王になるというんだ!」
「俺だよ」
「…………は?」
「俺だって」
ガイオ?まさか。
慌てて部屋の中を見回したけれど、人払いはされている。
それでもレオンとお兄様と私、側近たちはいるのに。
「……おい、それはどういうことだ?
お前はルシールの護衛騎士だろう?何をたわけたことを言っているんだ」
「まだわかんないか。俺も龍人の血を持っているってこと」
「ふざけるな!お前のような平民が!」
「ああ、俺こんな口調だけど平民じゃないよ。
貴族順位三位の二ヴェール侯爵家二男だ。
あんたの息子よりも全然身分が上だから」
「嘘をつけ!ニヴェール家にいるなんて話は聞いたことがない!
本当だというのなら、なぜ黙っていた!」
「そりゃあ、王位争いに巻き込まれたくないからに決まってんだろ。
だがな、あんたやあんたの息子が国王になるくらいなら俺がやる。
まぁ、隠しているのは俺だけじゃないだろうから、
そんなことになったら他にふさわしい奴はいるだろうけどな」
「……その話は本当なのか?」
「まだ疑うのか?陛下に聞いてみる?」
問われたレオンが二人に近づく。
そして伯爵の目を見て、告げた。
「ガイオが龍人の血を持っているのは本当だ。
王位争いに巻き込まれないように黙っていたのも。
俺やユリウスが死んだとしても、ガイオがいる。
ペルラン家の者が国王になる日は永遠に来ない」
「……な……どうしてだ……私は」
「ほらな!あんたのしたことは何もかもが無駄だってことだよ!」
全身の力が抜けたように座り込んだ伯爵を、
ガイオは無理やり立たせて連れていく。
「陛下、こいつも牢にいれておけばいいんだろ?」
「まぁ、待て。ガイオがやらなくていい」
「いや、騎士の手が足りていないんだ。
俺が牢に入れてくる」
「そうか。なら、頼んだ」
ガイオだけに任せるのはまずいと思ったのか、
ユウリとラルフもついていった。
三人もいれば逃がすことはないだろうし、伯爵のあの様子なら、
もう逃げるような気力もないかもしれない。
「ルシールはさほど驚いていないんだな?」
「レオンとお兄様はガイオから聞いていたのね?」
「ああ」
「最初の面接の時に気がついたから確認してみたんだ。
そのことも守ってほしい理由だと言っていた。
ルシールは気がついていたのか?」
「あれだけ二ヴェール家がガイオに執着するのは、
そういうことなんじゃないかって途中で気がついて」
「そういうことか」
ガイオが龍人の血を持っているのなら、
長男が家を継ぐ事に不満なのも、ガイオに子を作らせようとするのも、
婦人がガイオに嫁ぎたがるのも理解できる。
「だけど、魔力測定した時に噂にならなかったのかしら」
「ガイオは魔力測定の後、学園に上がる少し前に魔力が変わったらしい」
「……そういうことなのね。その理由は聞いたの?」
「いや、無理には聞かないでおこうと思っている」
「そうね。本人が話したくないのならそっとしておきましょう」
あの時、ガイオが見せた怒りは、
同じ龍人の血を持つ伯爵の行動が許せなかったからなのか。
執務室に戻って少しして、ガイオだけ戻ってきた。
「あれ?ユウリとラルフは?」
「ああ、牢の人員も足りてないらしくて。
騎士団が戻ってくるまで待ってるって」
「そうか」
まだペルラン家の捜索をしているのか、騎士団が戻ってきていないらしい。
もちろん、騎士団の全員が行っているわけはないが、
王宮の門や警備など外せない場所以外は人員が減らされている。
牢に入れた後は逃げ出すことはないと思っているのかもしれないが、
ペルラン伯爵は安心できない。
騎士が戻ってくるまで待った方が安全だろう。
「……さっきは悪かったよ」
「ん?何がだ?」
「いや、勝手に伯爵に悪態ついた」
「それだけ我慢できないくらい腹が立ったんだろ?
お前を採用する時に好きに発言していいと言ってある。
気にしなくていい」
「そうか。……ならいい」
「どちらかと言えば、お前の事情を言って良かったのか?」
「あー。陛下は知ってたし、ルシール様も薄々気付いていただろ?
だったら、もう言っておいてもいいかと思って」
「そういうことならいいが。
まぁ、知ったところで気にするような奴はここにはいない」
たしかに今さらな気もする。
ガイオが国王になる事はないし、なる気もないはず。
ただ、あの発言によって、ペルラン伯爵の心が折れたと思えばすっきりした。
「じゃあ、もういいか。俺の話を聞いてくれるか?」




