87.否認
屋敷から連れて来られたペルラン伯爵は、
すぐに牢に入れられるわけではない。
捕まえた全員から関与していると証言されている。
だから、調べる理由にはなる。
だけど、処罰するにはまだ証拠が足りない。
そのためにも執務室の書類を全部もってこいと命じたんだと思うけれど、
証拠が出なかったらどうするんだろう。
連れて来られたペルラン伯爵は、
部屋に入ってくるなり、レオンに訴え始めた。
「陛下!私が何をしたというのですか!」
「理由はユウリとラルフから聞かなかったのか?」
「聞きましたが、私は関係ありません!
娘がしたことは申し訳ないと思いますが、領地で面倒を見ていたとはいえ、
一度嫁いでペルラン家から出た娘です。
籍も戻しておりませんでした」
「ペルラン伯爵家ではない。だから、実の娘であっても関係ないと?」
「陛下からマリアンヌへの処罰は社交を禁じられただけです。
軟禁しろという命令はなかったはずです!
それなのにずっと監視していろと言うのですか!?」
「それでも内乱罪だぞ?実行するまで気がつかないものか?」
「領地に行かせてからは一度も会っていないのです!
それに、マリアンヌを連れ出したのは騎士です!
騎士の責任は誰が取るのですか!」
そう来たか。たしかに騎士団長の責任はあるだろう。
騎士たちの内乱に気づけなかったのだから。
だが、騎士がマリアンヌを利用したわけではない。
それは指示した自分が一番わかっているだろうに。
「たしかに、騎士の責任はあるな。もちろん、騎士たちは処罰するし、
騎士団長も降格することになるはずだ。
だからといって、ペルラン家の責任がなかったことにはならない」
「わ、私の罪は何になるのですか?
娘の監督責任ならば、もうないはずです!」
「マリアンヌも騎士たちも、首謀者はペルラン伯爵だと言っている」
「私は何もしていません!本当です!
伯爵家になって、力もない私にはそんな大それたことをする力など……」
「首謀者だと認められなかったとしても、
伯爵にはもう一つの罪があるんだ」
「……もう一つ?」
内乱以外に追及されるとは思わなかったらしく、
ペルラン伯爵の目があきらかに動揺している。
「……リアーヌが殺された件だ」
「!!」
「ペルラン伯爵が売っていた、あの香だよ」
「……私が売っていた香が、リアーヌ嬢に何か関わっていたと?」
「やっぱり、殺されたと言っても驚かないんだな」
「えっ!いえ!それはもちろん驚きましたけど!
自分が関わると言われたことのほうに驚いてしまって!」
「ごまかしても無理だよ。
マリアンヌから殺害方法を詳しく聞いている」
「……マリアンヌが殺害方法を!?
まさか、あの子はリアーヌ嬢に何かしたのですかっ!」
今、初めて知ったような顔をする伯爵に、
レオンはわざとらしく大きなため息をついた。
「あの時、マリアンヌはリアーヌと敵対していた。
だから、香を利用して殺す方法をとることはできなかった。
……当時、六歳だったマノン嬢を使うなんて卑怯だとは思わないのか?」
「……いったい何のことなんです!?
マリアンヌは何を言ったのですか!」
「あくまで否定するというのなら、それでもいいが。
ペルラン家にいたマノン夫人も連れて来させてある。
あの時、香を側妃候補に広めた理由を聞くために」
「っ!!」
「牢にいるマリアンヌとさっきまで屋敷にいたマノン夫人。
顔を合わせることもなかった二人の証言が同じだった場合。
証言だけでも伯爵を罪に問えるだろう」
「陛下!子を産んだばかりの妻になんてひどいことを!
今すぐ屋敷に帰してください!
産後でまだ体調が戻っていないんです!」
ユウリとラルフとは別に、
マノン夫人を連れてくるためにゴーシュとリンを向かわせていた。
リンはまだ赤ん坊の令息の面倒を見るため。
屋敷に置いてこれないのは、主がいなくなった後の屋敷は、
使用人たちも全員騎士団が調べることになっているからだ。
今頃、マノン夫人も別室で調べられているだろう。
その間は子育て経験のあるリンが令息を見ていてくれる。
「ずっと否定していてもいいが、内乱罪はともかく、
リアーヌの殺害については処罰を受けることになるだろう」
「私は何もしていない!!」
「現場では何もしていないだろうが、
そもそもあの香を作り出した時点で責任はある。
そして、悪意を持って香をひろめたのなら、
それは殺意があったものと判断する」
「……私のせいでは…………」
もう言い訳を思いつかなくなったのか、
伯爵は下をむいている。
「ペルラン伯爵があの香をいつどこに販売したのかの帳簿も持っている。
側妃選びのお茶会の前は生産しているのに販売歴がない。
その上、リアーヌが死んだ直後から隣国での販売を開始している」
「……香の販売帳簿など、なぜ陛下が?」
「協力者がいるんだ。内情は把握している。
帳簿を見れば、リアーヌの殺害に関与していると疑うしかない」
「……だれが」
「さぁ、誰だろうな?
この後は牢に入ってもらう。
屋敷に戻ることはもうないと思え」
「そんなっ!」
暴れそうになる伯爵をガイオが後ろから腕をつかんで取り押さえる。
「離せっ!!」
「なぁ、おっさん」
「おっさんとはなんだ!!いいから離せ!」
「あんたさぁ、龍人の血を持っているから、
国王になることをあきらめきれないんだろ?」
「私はそんなこと言っていない!」
急にガイオは何を言い出したのか。
レオンとお兄様を見たら、無言で頷かれる。
どうやらガイオの好きにさせるつもりらしい。
「でもってさ、もし自分が捕まって処刑されたとしても、
息子が殺されることはないと思ってんだろ?
で、陛下やユリウス様の子が龍人の血を持つとは限らない。
自分がなれなくても息子が国王になれたら、死んだとしても悔いはない。
なーんて思ってたりする?」
「……何の話だ」
「それって、無理だよ」




