76.お兄様の帰国
「そろそろユリウスが戻ってくる頃じゃないか」
「予定時間は過ぎているけれど、まだかしら」
単騎の騎士が到着予定を知らせてくれたけれど、遅れているようだ。
「処罰準備はもう終わっているのよね?」
「ああ、ゴーシュが昨日徹夜で終わらせていた」
「あら……そんなに大変なら手伝ったのに」
「ルシールには関わらせられないよ。
何か言ってくるかもしれないだろう」
「手伝っても、手伝わなくても言ってくると思うの」
「それでもだ。面倒ごとは少しでも避けたい」
たいして違いはないと思うけれど、レオンの気持ちもわかる。
実の父親の処罰に関わったとなれば、批判されることもある。
「早くお兄様帰ってこないかな」
「ユリウスも早くルシールに会いたいだろうから、すぐに戻ってくるよ」
言っているうちにお兄様が戻ってきたことが知らされる。
良かった。無事に終えて帰ってきてくれた。
「とりあえず、ペルラン公爵は身支度を整えてから謁見室に」
「はい」
お兄様だけでなく、ペルラン公爵もいる。
まずは客室で身支度を整えさせるようだ。
お兄様も私室に戻って湯あみをしてから来るだろう。
そう思っていたのに、お兄様が執務室に入ってくる。
「ただいま!ルシール!」
「え?お兄様!おかえりなさい!」
いつものように抱き上げられると思ったら、
その前にレオンに抱き上げられた。
「ユリウス!汚れたままでルシールにさわるな!
湯あみもしてないだろう!」
「ちょっとくらいいいだろう!十日も会えなかったんだぞ!」
「それとこれとは別だ!四日も湯あみしてないのにさわるな!
さっさと私室に行って汚れを落としてこい!」
「……汚いのか」
指摘されたお兄様がしょんぼりしている。
隣国に行くまで三日半から四日かかる。
その間は湯あみできないのだから、汚れているのは当然。
「お兄様、待ってるから、湯あみして疲れを落としてきて?」
「そ、そうか。すぐに行ってくる!」
やっぱり疲れていて判断力が鈍っているんだと思う。
ふらふらとお兄様は執務室から出て行った。
それを見てガイオが首をかしげている。
「よほど疲れたんかな、ユリウス様。
普段なら身支度はきっちりしているだろうに」
「そうかもね」
「まぁ、めずらしいものが見られて面白いけど」
たしかにお兄様らしくない。
ペルラン公爵との旅がきつかったのかもしれない。
待っていると、さっぱりとした顔のお兄様が戻ってくる。
「さっきはごめん、ルシール。
汚かったのに抱き上げようとして」
「いいえ、気にしていないわ。お疲れ様でした、お兄様」
「ああ、ただいま」
今度は抱き上げようとしてもレオンは邪魔しなかった。
久しぶりにお兄様に抱き上げられてうれしい。
だけど、やはり疲れているのか、近くで見るお兄様はやつれていた。
「そんなに大変だったの?」
「まぁ、あいつの思うとおりになっているのがね。精神的にきつかった。
私だけじゃなく、ユウリもいらついていたよ」
「それは大変だったのね」
普段にこやかなユウリまでいらついているとなれば、
かなり大変な旅だったのだろう。
話をしていたからか、ユウリも執務室に帰ってきた。
「戻ってきました~」
「ああ、お疲れ。ユウリはもう帰ってもいいんだぞ」
「いえ、処罰を言い渡すんですよね?
それを見届けてから帰ります」
「そうか?わかった」
それだけ旅の間嫌だったのか、ペルラン公爵の処罰を見届けたいと言う。
それにしてもペルラン公爵の身支度はまだ整えられないのだろうか。
処罰を言い渡されるのが嫌で、引き伸ばしている?
ペルラン公爵の準備ができたのは、それから二時間後だった。
謁見室で言い渡すと聞いたので、私も行こうとしたのに、
レオンもお兄様も認めてくれなかった。
「どうしてダメなの?」
「一応は血縁者だろう。めんどうなことになりかねない」
「でも、見届けたいわ」
「……だがな」
「私だって、腹が立っているのよ?」
「じゃあ、控室にガイオとジュリーと一緒にいて。
そこからなら見えるはずだから」
「……わかったわ」
どうしても同席はさせてくれないようなので、あきらめた。
謁見室の奥にある控室にガイオとジュリーと入る。
「へぇ、こんな部屋があるんだ」
「普段は使わないのよ。こうしてこっそり見るための部屋なの」
「なるほどねぇ」
「私まで中に入っていいのですか?」
「だって、ガイオと二人きりになるのはレオンもお兄様も認めないもの」
「俺だって死にたくないからな。ジュリーがいてくれないと困る」
「ああ、そういうことですか。わかりました」
そんな話をしているうちに謁見室のドアが開いてお兄様とユウリ、
そしてペルラン公爵と騎士が数名入ってきた。
「なんで騎士も中に入ってきたんだ?」
「わからないわ。証言するならお兄様とユウリだけでいいわよね」
不思議に思っていると、レオンとゴーシュが入ってきて、
レオンが玉座に座る。
お兄様とユウリは臣下の礼をしたけれど、
ペルラン公爵は騎士に押さえつけられて跪かされていた。
一応は公爵家の当主なのに。犯罪者扱いだ。
このために騎士まで中に入れたらしい。
「顔をあげていい。ユリウス、ユウリ、ご苦労だった」
「「はっ」」
「それで、報告してもらおうか。審議の内容を」
「はい」




