75.昨日のお茶会
いつも通りに執務室で仕事をしていたけれど、少し身体がだるい。
昨日のお茶会の疲れが残っているのかもしれない。
「ジュリー、お茶を淹れてくれる?」
「わかりました。お待ちください」
手を止めて両腕を伸ばしていたら、レオンと目が合う。
「どうした?疲れているようだな」
「ええ、少しね。昨日の疲れが残っているみたい」
「そういえば、昨日はお茶会だったな。
大変だったのか?」
「ん~そうね。少しだけね」
昨日のお茶会は規模が大きかっただけでなく、
派閥が違う貴族家も招待していた。
王妃になるのなら、違う派閥の夫人たちともつきあっていかなくてはならない。
それは十分に承知しているのだけど。
誰かがペルラン公爵のことを聞きつけたらしく、
アルベール公爵家と仲が悪い侯爵家の夫人から問われた。
「派閥が違う家の夫人から、ペルラン公爵の娘だと言うのは本当ですか、
なんて聞かれたのよ。どこから知ったのかしら」
「以前から噂は流れていたからな。
ペルラン公爵自身が話したのかもしれない」
「まぁ、処罰さえ受けてしまえば公表しても問題ないと思ってそうよね」
まさか、親権を取り戻したいだなんて思ってなければいいけれど。
「それで、何て答えたんだ?」
「私にはアルベール公爵家のお父様とお母様しかいないわ、って。
それを聞いたお母様が泣き出してしまったものだから、
その話題はすぐに終わってしまったわ」
「それは聞いた方は複雑な気持ちになっただろうな。
ルシールを困らせようとしたのに、
元公爵夫人を喜ばせただけで終わったんなら」
「だって。ペルラン公爵に育てられたわけじゃないんだから、
実の父親って言われても、親だなんて思えないわ。
実の母親についても同じようなものね。あまり思い出もないし」
「母親のほうもそうか。
それじゃあ、血がつながっていると言われてもな。
それだけで親と呼ぶことはできないだろう」
「ええ」
リアーヌとしてだけじゃなく、
養女になってからルシールも育ててもらっている。
私の両親はアルベール公爵家のお父様とお母様で間違いない。
「他には問題なかったのか?」
「あとはね、昨日はガイオを護衛につけていなかったの。
本人が嫌がったし、二ヴェール侯爵夫人も出席していたから」
「ガイオの兄嫁だな。
それではガイオは逃げるだろう」
「そう。だから休みにしていたんだけど、
いろんな夫人から聞かれたわ。
もう一人の護衛騎士はどうしたのかって」
「人気だな、ガイオ」
さっきから聞こえていただろうに、
嫌な話題だったのかガイオは変な顔で振り向いた。
「この先もお茶会には出ないからな。
もう一人くらい姫さんの専属護衛を増やしておいた方がいいぞ」
「それはそうよね。お茶会については期待していないんだけど、
他にも夜会とか公式行事とかもあるし。
貴族出身で問題ない護衛騎士が必要になると思うわ」
「それについては探しておこう」
今はまだ正式な妃じゃないから、すべての行事に出ているわけではない。
あと二年すればレオンと結婚し、正妃となる。
それまでに専属護衛を増やせればいいのだけど。
レオンとお兄様が認める護衛というのはなかなか難しい。
「ああ、そういえば。二ヴェール侯爵夫人だけど。
すごくガイオに会いたがっていたわ」
「うげぇ……」
「そんなに会いたくないのね」
前の夜会でガイオに会いたいという申し出はあったけれど、
ガイオはそれを絶対に嫌だと拒否した。
そのため、二ヴェール侯爵家にそれを伝えたのだが、
それ以降も定期的に会いたいという手紙が届いている。
二ヴェール侯爵家の前当主夫妻、現当主夫妻、それぞれから。
「一度会ってはっきり断れば来なくなるんじゃないのか?」
「いや、それはないな。何度断っても来ると思う」
「そこまでか……」
私も同じように言ったことがあるのだけど、ガイオにはっきり否定された。
姫さんはぺルマン公爵と話せばわかってもらえるのか、と。
それはないなと思ってしまったので、気持ちは理解できる。
「なんだかね、二ヴェール侯爵夫人が変な感じがしたの。
家のためにガイオに会いたいって感じじゃなくて。
あれは義弟に対する態度じゃないなって……」
「兄嫁が義弟に特別な想いでもあるっていうのか?」
みんなの視線がガイオに集まる。
「……今、侯爵夫人になっているのが、
俺が卒業式の日にあてがわれそうになった令嬢なんだよ」
「え?あの夫人と結婚させられそうだったってこと?」
「そうだよ。俺と結婚できなかったから、兄嫁になったらしい。
こっちはそんなこと知ったこっちゃないんだが」
「そう聞くと夫人がガイオに執着しているのは嫌な感じだな。
もうすでに兄のほうと結婚しているんだろう?」
「でも、子どもいないって聞いたわ。……それって大丈夫なの?」
「だから、会いたくないんだよっ」
吐き捨てるようなガイオに同情してしまう。
まさか、そこまで執着されているとは。
「まぁ、問題なのはわかっている。
ガイオを二ヴェール侯爵家と会わせるつもりはないから安心していい」
「ああ、頼んだぜ、陛下」
そういえば、雇われる条件の一つだった。
向こうがあきらめないというのなら、会わせないしかないんだろうな。
「そろそろユリウスが戻ってくる頃じゃないか」




