74.真実は(ユリウス)
「これで魔術具が問題なく検査できていることが証明できましたね。
ジョアン公爵、どちらにせよ重罪になることは間違いないのだから、
この子たちに誰が本当の母親なのかくらい教えてやったらどうだ?」
ようやくあきらめたのか、ジョアン公爵が口を開いた。
「……本当の母親は……モニクだ」
「えっ……モニクが母親なんですか」
「そんな……モニクが……」
令息たちはモニクという女性を知っているらしい。
だが、国王やアンリ王子は知らなかった。
「ジョアン公爵、モニクとは誰だ?」
「……モニク・ファシュ。ファシュ子爵家の者です。
うちで乳母として雇っていました」
「愛人を乳母として、実の子を育てさせていたのか?」
「……はい」
もう覚悟を決めたのか、ジョアン公爵はすべてを話すことにしたようだ。
「モニクは学園時代からの恋人でした。
メリザンドとの婚約は父が決め、断れませんでした。
子爵家のモニクが公爵夫人になれないのもわかっていました」
「だから、メリザンドとは白い結婚で、愛人に子を産ませたと?」
「そうです……メリザンドにはミシェルが産まれる直前に話をしました。
このままでは跡継ぎができないから認めるようにと。
メリザンドもそれを認めてくれていました」
さすがに虫が良すぎる話だ。
それを元第三王女が認めたとは思えない。
同じように思ったのか、国王がジョアン公爵につかみかかる。
「それはお前がそうしただけだろう!
メリザンドは納得していなかったはずだ!
だから、あのような男につけこまれたんだ!!」
「……申し訳ございません。この罪は私が負います。
二人は何も知らずに育っています。どうか、ご容赦を」
「……二人に処罰はないが、公爵家をそのままにしておくことはできん。
お前への処罰はこれから話し合って決める。
おい、公爵を貴族牢に入れておけ!」
騎士がジョアン公爵の両腕をつかんで連れていく。
それを令息たちが心配そうに見ていたが、手を出してはいけないとわかっているのか、
何も言わずに見送っていた。
「ミシェル、マリルーは屋敷に戻っていなさい。
あと、モニクも貴族牢に入っていてもらう。
これはもうどうしようもないことだ。
お前たちの身分も変わることになるだろう。わかるな?」
「はい……」
「わかりました……」
しょんぼりした二人を騎士が連れていく。
屋敷まで送り届け、モニクを捕縛してくるのだろう。
泣いているマリルー嬢に駆け寄ろうとしたカリーヌ王女を、
アンリ王子が止めていた。
「お兄様、マリルーが……助けてあげないと」
「カリーヌ、もう私たちにもどうすることはできない。
処罰されるまで近づくことは許されない」
「そんな……マリルーは何も悪くないのに」
「それでも身分詐称だ。今までと同じではいられない。
そうでなければ、王族や貴族の身分は守れない」
泣き出した王女を王子が優しく慰め、部屋から出て行った。
残った国王が大きくため息をつく。
今後のことを考えたら気が重いんだろう。
「ユリウス殿、今回は手間をかけてしまったな」
「いえ、ペルラン公爵が起こしたことがきっかけですから」
「妹は少しだけ怒りっぽかったが、単純な性格をしていた。
男慣れもしていなかったんだ。
あの男にとっては簡単に落とせる女だっただろうな」
「ペルラン公爵へのお怒りはもっともです。
レオンハルト国王もこの件に関しては容赦しないと言っています。
処罰結果は報告いたしますので」
「ああ、頼んだ。こちらでももう隠すことはできないな。
メリザンドのことも公表することになるだろう。
何しろ、ジョアン公爵家が無くなるのだからな」
公爵家の血を引くとはいえ、
愛人との子を公爵令息、公爵令嬢として籍を入れていた。
身分詐称は重罪だ。それこそ不貞などよりもずっと。
元第三王女はルシールを公爵家の籍に入れていなかった。
最初から実の父親に引き取らせる予定だったからだ。
だから、罪といえるのは不貞しかない。
元第三王女はジョアン公爵とは離縁するつもりだった。
前国王夫妻が亡くなり、ルシールがレオンの正妃になったら、
ノヴェル国に移住してペルラン公爵と再婚する気だったようだ。
ペルラン公爵に送った手紙にはその計画が書かれていた。
公爵がどこまで本気だったのかはわからないけれど、
騙されていた部分もあったのだと思う。
亡くなってしまった今では、何も聞けない。
次の日、王宮を出てノヴェル国へ帰る。
無事に審議を終えたからか、ペルラン公爵は満足げな顔をしている。
今にも鼻歌が聞こえそうなほどご機嫌な公爵を見て、
ユウリがしかめっ面になっている。
「あーなんだよ、あれ。むかつくなぁ。
ユリウス様、ガツンと言わなくていいんですか?」
「今言っても騒ぐだけだろう」
「そうかもしれないですけど」
本気でイラついているユウリにめずらしいなと感じる。
これほどイライラしているのは見たことない。
「何か個人的に恨みがあるのか?」
「うちの母がペルラン公爵に遊ばれたことがあるんですよ。
それで両親の仲は最悪です」
「そういうことか。なるほどな。
だが、帰ったら、陛下にガツンと落とされることになるんだ。
今くらい楽しませておこう」
「そうですね!そう思ったら平気になりました!」
騎士に囲まれても笑顔で馬車に乗ったペルラン公爵を見て、
処罰を受ける時の顔が楽しみになる。
今度こそ、国王の座なんて狙えないほどに落としてやる。
レオンとルシールが今頃処罰内容を考えているだろうなと思うと、
私のほうこそ鼻歌が出てもいいくらいだ。
早く帰って二人と話がしたい。
無事にやり終えた気持ちでユウリと馬車に乗った。




