68.謁見の申し込み
夜会の後、カリーヌ王女とマリルー様は帰国すると思っていたが、
なぜか留学を続けることにしたようだった。
レオンのことは本当にあきらめたのか、王宮に来ようとすることはなく、
私たちに関わろうともしてこない。
ガイオがこっそり見に行ったら、真面目に授業を受けていたそうだ。
「このまま卒業するまでいるつもりかしら」
「そうかもな。せっかく留学してきたからということかもしれない。
もしくは、何も結果を出せずに帰るわけにもいかないとか?」
「それはあるかもしれないな。レオンの正妃と側妃になりにきたんだろう?
それなのに妃どころか高位貴族の妻にもなれないって言われたんじゃ。
恥ずかしくてアンペール王家にも報告できないんだろう」
自分たちから報告しにくいというのはわかるけれど、
先延ばしするだけで解決しないのに大丈夫なのかな。
「まぁ、報告されていたとしても、
アンペール国はあまり魔力を重視していない。
事の重大さがわかっていないかもしれないな」
「報告を聞いた上で、この国に残れって言われた可能性もあるの?」
「簡単にはあきらめられないだろうしな。レオンの正妃」
「それはそうよね……」
「こちらとしては問題なく学園に通っているのなら追い出せない。
卒業するまで待って、帰国してもらうことにしよう」
一応は二人に監視をつけることにし、
問題がない限りこちらからは何も言わないことになった。
それから意外にも問題なく時は過ぎ、
あと十日で学園の卒業になるという時期に謁見の申し込みがあった。
「ペルラン公爵家のマルティンから謁見の申し込みが来た」
「え?あの令息から?何の用件かしら」
「わからないな。会わない理由もないから、会ってみるが」
「……私も同席したらダメ?」
「ダメじゃないが、向こうがダメだと言ったら退席してくれ」
「それはそうね。わかったわ」
マルティン様はレオンに謁見を申し込んでいる。
私が事実上の妃だとしても、謁見に立ち会う権利はない。
謁見の日、私がいることに気がついたマルティン様は驚いていたようだけど、
同席することには何も言わずに認めてくれた。
「それで、令息が謁見したいというのはどういう理由だ?」
「……突然に謁見を申し込んだことについてお詫び申し上げます。
ですが、陛下にお願いしたいことがございます」
「お願い?それを叶えられるかどうかはわからないが、言ってみろ」
「ペルラン公爵家の籍を抜け、元貴族として騎士団に入りたいのです」
「は?」
誰もが聞き間違いかなという顔をしている。
ペルラン公爵家の嫡子であるマルティン様が籍を抜けたい?
「どういうことだ?貴族でなくなってかまわないというのか?」
「平民になってもかまいません。ペルラン公爵家の者でいたくないのです」
「問題の多い家ではあるが、それでいいのか?」
「はい。学園を卒業すれば成人し、自分の意思で貴族籍を抜ける申請ができます。
ただ、騎士団に入るためには貴族籍が必要になります。
ですが、特例として陛下が認めてくだされば、
貴族籍を抜けても王宮でつとめることができると聞きました」
特例……それは何人か心当たりがある。
ガイオやアミーナたち後宮女官長は貴族籍から抜けている。
元貴族であるとわかっているのなら、許可しても問題ないはずだけど。
「たしかに俺が許可すれば大丈夫だろう。
騎士団の入団試験に合格すれば、だが」
「学園からの推薦があれば、入団試験は免除ですよね」
「推薦が出たのか?」
「はい」
学園から騎士団に推薦されるのは年に一人か二人。
剣技や魔術、学業の成績だけではなく、人柄も考慮される。
推薦されたというのが本当なら、
何一つ問題なく騎士団に入団できる。
このまま貴族だったとすれば、だけど。
「マルティン、お前は嫡子だよな?
公爵から異議申し立てがあると、貴族を抜けることを認められないかもしれん」
「それなのですが、後妻が身ごもりました」
「後妻?マノン夫人か?」
あのマノン様がペルラン公爵の子を身ごもった?
社交禁止になっているから、夜会に出席していなくても気にしなかったけれど、
レオンを追いかけていたマノン様からは想像していなかったことだ。
「父は私に何も期待していませんでした。
一応は嫡子として教育されてきましたが、
龍人の血を持っていない私には興味がなかったのです」
「それは……」
「今度こそは龍人の血を持つ子が生まれるだろうと、
後妻の子に期待をしているようです。
今なら、私が籍を抜けると言ったら、大喜びで認めてくれるでしょう」
「そういうことか……マルティンはそれでいいのか?」
「はい。はっきり言って、父はクズです」
「お、おお……」
「あの家にいるものはみんなクズでした。
父も母も、それに嬉々として従っている使用人たちも」
それについては私も同意できる。
一度も話したことはないけれど、姉と違ってマルティンは私と同じ感性のようだ。
「ルシール様のことも、謝罪させてください。
父と母が申し訳ございませんでした」
「えっ。あの、マルティン様が謝る事ではないと思うの。
私も公爵はクズだと思っているけれど」
「ルシール様を無理やりこの国にさらってきたこと、
母がルシール様にきつくあたっていたこと、私は後から知りました。
同じ屋敷内にいたのに、助けることができずに申し訳ないと……」
「そんなの無理だわ。
あの時ならマルティン様も子どもだったのだもの。
お互い、親に振り回されていた立場でしょう。
ですので、気にしないでください」
「ですが……」
「マルティン、お前が謝って済むことではない。
だから、謝らなくていい」
「…………はい」
ずっと罪悪感を抱えていたのだろうか、謝らなくていいと言われても、
納得できないという顔をしている。
「あの……お詫びというわけではないのですが。
父の悪事について、証拠を持ち出してきました。
これを受け取っていただけますか」
「証拠?」




